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夏祭りの追憶
うだるような、と言うほどでもない8月平日の夏の夜。定時でさっさと仕事を終えて車をマンションの駐車場に止める。マンションの前の普段は人通りの少ない道をやたらと家族連れが歩いている。そしてみんななんとなく浮かれている。部屋のベランダから外をのぞくと近所の公園から浮かれた雰囲気が漂ってきた。
夏祭りだ。
私はあの浮ついた雰囲気の中で夕飯を調達しようと財布となんとなくフィルムカメラを持って外に出た。
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神社とひと続きになった公園には屋台が立ち並び、その前のわずかな隙間を家族連れや中学生、小学生が行き来する。地域の夏祭りだからか子どもが多い。
夕飯を求めてうろうろしている私の目の隅に赤い光が入ってきた。暗い神社の境内に明々と灯る提灯の光だった。鳥居の奥に見えるそれは特別大きい訳でもない。それでも木でできた骨組みにぶら下がったたくさんの提灯は、蛾を誘う焚き火のように人々を惹き寄せているように見えた。
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鳥居を潜り厄祓いか何かをしてもらう行列を尻目に提灯へ向かう。
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この提灯にはきっと何か意味があって数十年、もしかしたら数百年前からの祈りが込められているのかもしれない。でも今は浴衣を着たカップルや学生たちの映え写真を撮る場だ。
浴衣も青春も今日の私には無縁だ。なぜなら私は夕飯を買いに来た仕事帰りの人間だから。
屋台は数の割に商品の被りが多い。トルネードポテトの店は1つでいい。そんなにいらない。
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同じような屋台を見ては心の中で夕飯候補から除外しつつ公園を1周する。屋台はなにも食べ物だけではない。
風船釣りがある。水風船と呼ぶのかヨーヨーと呼ぶのかはよくわからないが、風船釣りは好きだ。やたらと景品獲得の判定が厳しい射的や輪投げと違って必ず獲ることができる。しかもきれいな模様を選べるから景品のショボさに失望することがない。しかもゴム紐が付いていてビヨンビヨンと跳ねさせることができる。
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小さい頃、風船を持ち帰って冷凍庫に入れたことある。その後どうなったのかは覚えていない。そもそも冷凍庫に入れる意味がわからないから記憶違いかもしれない。
金魚すくいも好きだ。
祖父と夏祭りに行ったとき、ポイではなくモナカで20匹くらいすくったことがある。帰りに行きつけだった1000円カットの床屋に寄って祖父が自慢していた。
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金魚すくいの金魚はいつもすぐに死んでしまう。少し悲しい。ある時、母がこれは水が悪いせいだと言い出した。私たちは夏祭りが始まると同時に金魚すくいに直行し、できるだけ大きくて元気そうな金魚を狙ってすくった。そして脇目もふらず家に帰ってきれいな水の水槽に入れた。金魚救いのミッションを終えたらもう一度夏祭り会場に戻って他の屋台や盆踊りを楽しんだ。金魚の生存率は明らかに高かった。
それから数年間、私たちは夏祭り会場に早く入って金魚すくいだけして帰り、金魚を水槽に移してからもう一度夏祭り会場に戻るという夏を過ごした。
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寄り道をしながらも私は夕飯にふさわしい屋台を見つけた。焼きそばだ。
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屋台は案外腹にたまる食事が少ない。焼きそばはお腹いっぱいになる数少ない、そして最もおいしい選択肢だろう。他にも焼きそばを作る屋台は2つほどあったが、この屋台には目玉焼きがあった。
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目玉焼き。半熟ならとろりとした黄身が焼きそばと絡んで最高だ。白身が邪魔で焼きそばを食べにくいという欠点を補って余りある。
行列の最後尾を間違え横入り状態になって恥ずかしい思いをしたり、自分の焼きそばが作られる途中にカメムシの大群が現れるなどの困難に遭いながらも無事に焼きそばを買うことができた。
夏祭りの屋台といえばチョコバナナもある。
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チョコバナナ味のお菓子が大好物の私は無論チョコバナナを見つけると条件反射で食べたくなる。しかし私は知っている。チョコバナナとチョコバナナ味は違うのだ。チョコの味の濃さ、そしてお菓子としてのバナナと本物のバナナの味はあまりにも違うのだ。チョコバナナ味が好きな私は今まで何度もチョコバナナを食べてがっかりしてきた。
私は首にフィルムカメラをぶら下げ、左手に焼きそばを持ち、チョコバナナを食べながら夏祭りを後にした。