『スパイの妻』はなぜふんわり感がでているのか?
BSプライムで早くも話題の映画、『スパイの妻』が放映された。
NHK神戸放送局では、撮影に使用された異人館の様子などをニュースで紹介していて、海外での評価の高さも含めて、ぜひ見たい映画だった。こんなにすぐにBSで放映されるのは、映画館に行きにくい昨今の状況を鑑みてのことなのだろうか。
実際に見た感想としては、思ったよりあっさりしてる、だった。もしかしたら最近は延々と込み入ったストーリーや人間関係が繰り広げられる海外ドラマを見過ぎた影響なのだろうか?
なんと言っても、2時間そこらで終わる映画と比べると、海外ドラマの怒涛の展開が何十話も続く世界に浸るのは、別次元の経験にならざるを得ない。役者の演技もこれでもかと言わんばかりの面もある。それに比べれば、戦中の昭和の日本人を演じる主役二人は、少なくとも悪くなかった。さすが蒼井優と思えるシーンも多い。
テーマが大きくて、ストーリーの中での転落の落差も大きかったのに、なぜか緊迫感やどうしても国家と対立するのだという切迫感がイマイチ伝わってこなかったのはなぜだったのか、ふと考えた。
高橋一生と蒼井優の夫婦が映画の中で対決した相手は、東出昌大が演じる憲兵隊長だった。しかし、この憲兵がお坊ちゃん顔した物憂げな青年で、睨まれたらヤバいという危機感を与えてくれない。幼馴染の設定で、蒼井は夫のいない家に招きさえして、それが視聴者を油断させる設定だったとしても、どこかで空恐ろしい存在に豹変してくれていたら、天下国家に反逆する緊迫感やスリル、恐怖さえ得られたかもしれないのだが。憲兵隊なんて好きでやってんじゃないし、本当は蒼井優が好きだという態度を露骨に示してくれても良かったのだが。
結局、このスパイ作戦の本当の主役は甥の文雄だったのではないか。実際、秘密を知って以降人が変わり、仕事を辞めたり有馬に籠ったのは彼だった。逮捕されて拷問を受けても白状しなかったのは彼だった。それに乗っかった高橋と蒼井はなぜかふわふわと夢を追っているように見えてしまっていた。
国家機密や殺人まで絡むストーリーにしては、むしろほのぼの感すら漂うう、古い建物が魅力の映画、と言ったら言い過ぎだろうか。