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映画『島』ー教育が子どもたちを追い詰める。シンガポールの学歴社会とは…
シンガポールでは10代の死因第1位は自殺だと公表されています。
残念ながら日本でもその順位は変わりませんが、シンガポールの子どもたちが自殺を選んでしまう背景の一つにあるのは学校や親からの過度な教育熱。
観る人々にハッとするような衝撃を与え、2人の人間の行く末を流れるように描いた映画『島』は、シンガポールの教育事情を明かした作品です。
幼い頃から追い詰められていく子どもたち、そして学校と親の板挟みになる教師たち。
一体シンガポールの学歴社会の裏には何が潜んでいるのでしょうか?
ここから先はネタバレを含みますので、ぜひ作品をご覧になってからお読みいただけるとうれしいです!
※この作品は配信を終了いたしました
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〈タイトル〉『島』
〈監督〉Vivian Ip
〈作品時間〉18分32秒
***
◎ 息が詰まるほどの苦しみ
この物語は、小学生のアンドリューが、休み時間の遊びの中で転倒し、好きな女の子を押し倒してしまったところから全ては大きく傾き始めます。
それはわざとではない、ただの事故だったのですが、周囲の反応は彼を非難するものでした。
担任のグレンもそのうちの1人となって、アンドリューに対して説教を行います。
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アンドリューは自分が悪いことをしたのだと考え、自身の罪を自ら処理するかのように自殺を図り、幼い人生を終わらせたのでした。
この映像だけをみると学校の先生からお説教を受けただけで、非常に些細なことで彼が自殺をしたように感じられるかもしれません。
しかし、そんな些細なことさえも引き金になる程、アンドリューの心には計り知れないほど大きな負担が積み重なっていたのだと考えられます。
彼は運動も勉強もそこまで得意ではなく、それでも競争心の激しい小学校の中で生き残ろうとしていたことが劇中の節々に描かれていました。
自室の机の上に置かれるたくさんの教科書や、壁に貼られる自信を鼓舞するかのような言葉。
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また、担任のグレンと教師との会話から、アンドリューの親はグレンに彼の成績についてとやかく言う存在だったとも考えられます。
学校、先生、親、どこにいても息の詰まる毎日を送っていたアンドリューは、
まさに死の直前に彼が見つめていた、あの鳥籠の中に閉じ込められた鳥だったのです。
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◎ シンガポールの英才教育
国家予算の20%を教育費に注ぎ、教育大国としても知られるシンガポールには小学6年生全員が受験をする小学校卒業試験(PSLE)という特異なシステムが存在します。
この試験の成績によって希望する中学、コースに入れるかどうかが決まり、さらには将来難関国立大学への進学にも影響する非常に大きな試験です。
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シンガポールの教育制度
日本と比較すると非常に複雑…
国土や資源が決して豊かなわけではないシンガポールでは、優秀な人材こそが国を発展させるために最も大切だと考えられてきました。
そのためか、難関国立大学卒業生とそうでない人々の間で就職率、給料、待遇に非常に大きな差があり、「国立の大学に入ること=良い人生を送ることができる」と考える人が多いのだといいます。
それゆえ親や学校は、子どもたちが幼い頃から就職するその瞬間まで教育に対してとても高い意識を持っているのです。
英才教育は、子どもたちに幸せな人生を送ってほしいという親のもっともな愛の表れではありますが、この深い愛情は時に大きくて重い足枷にもなりえます。
冒頭で述べたように、シンガポールの10代の死因第1位は自殺。
シンガポールの若者の自殺予防センター(SAMARITANS OF SINGAPORE)では、近年ホットラインへの相談件数が増加傾向にあるとし、さらには5歳から9歳までの幼い子どもたちの相談でさえも倍増していると言います。
勉強に対する異常なまでのプレッシャー、そういったストレスによるいじめ、テストで良い点を取れないことへの恐怖、などそこには親や学校、大人たちからの大きな期待がのしかかり、心の病を患ったり、極端な選択を考えてしまう子どもたちが多いのです。
↓詳しくはこちらの記事からお読みいただけます。
◎ 板挟みになる教師
映画『島』では、幼いアンドリューに焦点が当てられ、シンガポールの教育の無慈悲さが描かれているように見えますが、実はもう一つの顔を持っています。
それは担任の先生であるグレンの心情の変化について。
グレンは、これまで、大切なことは「時間」と「実践」だと豪語するほど自分に大きな自信を持っていました。
生徒に対しても熱く、補習への熱意も人一倍。
これは彼自身も英才教育が施される中で生きてきて、そのことに何の疑問も持っていなかったことを表します。
そのためアンドリューへの説教を行った場面でも、「これは君のために言っているんだ」という言葉に嘘はなかったのでしょう。
しかしアンドリューの自殺を機に、これが外部に漏れることを恐れた学校側の態度は一変し、グレンは停職を言い渡されます。
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成績上位を狙う学校、子どもの成績に大きく干渉する親
そして追い詰められてギリギリの生活を送る子ども。
その狭間に位置する教師は、どちらにも傾倒することができず危うい立場にあります。
ある意味居場所がないと言ってもいいのかも知れません。
自身も同じ教育を受けてきたからこそ見えない歪みの中で生きることになってしまったグレンは、皮肉なことにアンドリューの自殺を通して、初めて自分も閉じられた世界の中に生きていたことを突きつけられたのです。
◎ 変わりつつある教育方針
そんな英才教育に熱心なシンガポールですが、実は2018年には、子どもたちが順位への恐れが勉強の妨げになることを防ぐために、小学校1年生と2年生の成績順位記載を廃止。
さらに次年度から両学年はテスト(定期考査)自体も行わないことを決定しました。
低学年だけではなく、先ほど紹介した小学校卒業試験(PSLE)も2023年の今年度から大きな改革が行われます。
これまでは4科目の試験の点数や偏差値を最重要視していたものの、今年度からは試験の点数をもとに「アチーブメント・レベル(AL)」という8段階の成績が算出され、各段階の中で生徒を選抜していくようになります。
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4科目でALが30点を超えると不合格に。
このアチーブメントレベル(AL)の制定によって、1点の差による競争は少なくなりますが、同点の生徒数が増えると言われています。
同点の中から生徒を選抜する際には、シンガポール国民を優先する、などいくつかの優先順位が儲けられましたが、最終的には抽選で合否が決定する新たなシステムに。
抽選システムに関して大きな波紋を呼んでいますが、いずれにしてもシンガポール政府は子どもたちの精神的な負担を軽減しつつも英才教育への注力は変わらない姿勢を見せています。
同じように資源や国土が乏しく島国である日本でも、近年センター試験が廃止され、新たに応用力や判断力が問われる共通テストが導入されました。
これらの背景にはAIが人間の仕事の多くを担えるようになりつつある今こそ、我々人間にしかできない力で国を支えていくという考えがあるように思います。
世界には子どもたちへの教育がままならない国もある一方で、
このように子どもたちへの過度な教育が問題となる国もあります。
一体何が正しくて、何が良いのか、
決して答えのない問いに私たちはいつまでも翻弄されています。
教え子の死場所を見つめるグレンは何を思っていたのか、
アンドリューを救える大人はいなかったのか、
本作はどちらの視点から見ても胸に響き、思わず自分の子どもの頃を思い返してしまうような作品です。
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