なぜ声を上げられない? 男性のDV被害に迫る映画『ウェイ・アウト』
死に至る10日前の状態まで、妻からのDVに必死に耐え続けた1人の男性。
イギリス、そして世界中でも話題となった実話に基づくこの映画は、私たち社会が見過ごしてきた「DV被害者としての男性」に焦点を当て、その現実を息苦しいほどリアルに描いています。
なぜ彼は瀕死状態になってもなお彼女の側に残り続け、すぐに逃げることができなかったのか...?
今回は映画『ウェイ・アウト』とともに、映画のもとになった実話の物語をご紹介します。
*もし読んでいて少しでも不安な気持ちになったり、辛い気持ちになってしまったら、このnoteから離れて無理しないでくださいね*
男性のDV被害はどのくらい?
主人公サムの物語は、実は珍しい話ではありません。
男性のDV被害の報告件数は年々増加しており、『ウェイ・アウト』の舞台でもあるイギリスでは、2021年に報告された約845,734件のDVのうち、およそ10人に1人が男性の被害者であると見られています。
また、日本でも2023年に報告されたDV被害、8万8619件のうち、3割が男性の被害者であるとされています。(警察庁)
報告された被害の中には、「罵倒される」「刃物で傷つけられた」「腐った食べ物を食べさせられる」「寝床にゴキブリやムカデの死骸を置かれる」など、精神的、肉体的にも残酷な内容のものがありました。(一般社団法人「白鳥の森」)
近年では少しずつ男性の被害にも焦点が当てられるようになりましたが、「男は我慢しろ」の古くさいジェンダー観や、力の強い男性が被害者として見られにくいことなどもあり、自ら助けを求めにくい傾向が男性に多くみられるといいます。
そのため、実際の被害は報告件数よりも多いのではないかとの見方もあるのです。
フィクションではない 'サム'の本当の物語
映画の'サム'のもとになった人物、アレックス・スキールは、16歳の時イギリスの大学で彼女と出会い、普通のカップル同様、映画に行ったり散歩に行ったりするなど、仲睦まじく過ごしていました。
しかし、3年ほどたった頃、彼女はアレックスの食事や服装、ヘアスタイルなどを否定をしはじめ、全て彼女の思い通りにしようとしていきます。
さらに、アレックスのSNSアカウントを取り上げ、親や友達にも会うことを禁止するなど、激しい束縛をするようになっていったのです。
やがて、22歳の頃には熱湯をぶっかけられるようになるなど、彼女の精神的な支配は肉体的な暴力へとヒートアップしていきました。
それでも、いつも悪夢のような時間が続いたわけではなく、時には笑いあい、幸せな時間を過ごしていたというアレックス。「結局は彼女を愛していた」と当時を振り返る彼は、できるだけ関係が長く続くよう、努力したのだといいます。
しかし、度重なる暴力の痛みにも慣れてくるにつれ、次第に彼女はハンマーやナイフで、アレックスを傷つけようとしてきました。アレックスは殺されるかもしれないという恐怖のあまり、病院へ行った際にも「自分で怪我をした」などと嘘をつき、DVを隠すようになっていました。
子供ができて状況が変わることも期待していたものの、状況は変わらないばかりかどんどん悲惨になっていくあり様に、子供にも危害が及ぶのを恐れるようになります。そして、何度目かの警察の訪問でようやっと、DVの被害を訴えることができ、無事に保護されることになったのです。
なぜアレックスは逃げられなかった?
劇中では、主人公がDVから逃げられなかった理由の一つとして、生まれたばかりの子供がいたこと、そしてその出産が発覚した際に未熟な態度を取ってしまったことへの責任感と罪悪感が大きく描かれていました。
ただ、現実にはそれだけでなく、徐々に歪な愛を形作るDVの支配的な側面も、彼を苦しめた大きな理由の一つではないかと考えられます。
アレックス本人も、はじめに服装などを指摘された時は、認められたいという気持ちもあったからこそ、素直に彼女の言葉を受け入れてしまったといいます。
DVは、ほんの些細なことから始まり、まるで寄生虫のようにじわじわと被害者を蝕んでいくのです。
そして、必ずしも力の強いものが暴力を振りかざすだけではなく、今回のように、精神的に追い詰めたり脅迫したりすることによって相手を支配していくことも少なくありません。
だからこそ、男性の被害者が軽視されていたり、スティグマによって声を上げられないことは問題であると、この物語は訴えているのです。
アレックスの今
アレックスは警察に保護された後、彼の希望により親権を獲得し、子どもと一緒に慎ましく暮らしています。元彼女は7年半の実刑を言い渡された末、アレックスに一切コンタクトを取らないことを条件として2022年に釈放されました。
彼女はイギリスで初めて、支配的DVにより刑務所に入った女性であり、この事件を機に、少しずつ警察側も男性に対する暴力を深刻に扱うようになったのです。
彼女に人生の多くを奪われたアレックスは、今はただ昔好きだったサッカーを楽しんだり、普通の生活を送りたいと語っています。また、男性のDV被害者を助けるチャリティーも行なっており、いずれは彼らのための避難シェルターを作りたいと考えているそうです。
息子には、成長して理解ができる年頃になったらこのことを伝えようと思っているのだとか。
彼は、なぜあれほどの酷い瀕死状態でもDVから逃れ、生き延びることができたのか、今も時々考えてしまうそうです。きっと、同じように苦しむ人々を救うことが唯一の希望であり、それが自分に残された人生の意味なのではないかと。
映画の最後に主人公が放った、『いつか僕が全てを理解した時に、いつかすべてを説明する日がくる』というセリフには、そんな思いが込められていたのかもしれません。
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