「マチネの終わりに」平野啓一郎
天才クラシック・ギタリストの蒔野聡史とジャーナリストの小峰洋子の切ない恋の物語。
二人は3度会っただけで、運命の恋に落ちてしまう。強く引かれているのに、誤解したまま、それぞれの人生を歩み出す。
「子供の頃、おままごとで遊んだ庭石に、祖母が転んで頭を打って亡くなる。楽しかった幼い頃の思い出が、祖母の命を奪った庭石だと思うと、悲しく辛い思い出に変わってしまった」と洋子が話す。
蒔野は「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えている。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいもの」と、洋子に話し掛ける。これが小説のテーマだと思われる。
ニューヨークから実家に帰省していた洋子が、偶然、蒔野のマネージャーで今は妻となっている早苗と出会う。
別れる切っ掛けとなった洋子に送られたメール、「――あなたには、何も悪いところはありません、ただ、あなたとの関係が始まってから、僕は自分の音楽を見失ってしまっています。……」は、蒔野の名前を語った、早苗からのメールと判明する。このメールで蒔野と洋子はお互いを思いやり、詮索することもなく、別れてしまった。
初めて二人が出会ってから5年半後。ニューヨークのリサイタルで蒔野は一階席の奥にいる洋子の姿を見つける。アンコールに応えて『イェルコ・ソリッチの映画のテーマ曲《幸福の硬貨》』を洋子のために演奏する。
「……今日は良いお天気ですから、セントラル・パークの池の辺りを散歩します」と蒔野はマイクを手に聴衆に話し掛ける。
リサイタルの後、蒔野と洋子はセントラル・パークで再会する。二人の愛がHappy End であることを確信して読み終えた。
マチネとはフランス語で昼公演のこと。