さとう惇子

手掌小説、エッセイ、読書感想などを書きます。

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最近の記事

「マチネの終わりに」平野啓一郎

#読書の秋2021 天才クラシック・ギタリストの蒔野聡史とジャーナリストの小峰洋子の切ない恋の物語。 二人は3度会っただけで、運命の恋に落ちてしまう。強く引かれているのに、誤解したまま、それぞれの人生を歩み出す。 「子供の頃、おままごとで遊んだ庭石に、祖母が転んで頭を打って亡くなる。楽しかった幼い頃の思い出が、祖母の命を奪った庭石だと思うと、悲しく辛い思い出に変わってしまった」と洋子が話す。 蒔野は「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来

    • 日蝕

      フランスの神学僧が「ヘルメス選集」の完本を求め、イタリアに向かう途中、リヨンで錬金術師のピエェルにあう。 ピエェルは『賢者の石』の製作に打ち込んでいた。 村は奇病と冷害と豪雨に悩まされ、魔女のせいだと思い込む。 森の奥の洞窟にいた「両性具有者」が魔女として捕えられ、火炙りにされる。 張付にされ火を放たれると皆既日食が始まる。 両性具有者は、炎の中で巨人と神秘的な合体をする。 炎が消えた後、灰の中からピエェルが、金塊のようなものを拾い上げた。 ピエェルは灰の中から

      • むらさきのスカートの女

        「黄色いカーディガンの女」が「むらさきのスカートの女」を観察し記録したものだ。まるで、ストーカーのように付きまとって、詳細にメモをしている。好奇心なのか? 憧れなのか? 友達になりたいと思っている。難しい漢字も言葉もないので、すらすらと読めるのだが、「主題は何か?」「読者に何を伝えたかったのか?」わからないまま読み終わってしまった。孤独な女の、悲しい日常が 描かれた小説。 今更ですが、紫(赤+青)+黄=色の三原色 までは考えたのですが、合わせると黒色になるんですね。だから表

        • 「私のソーニャ・風祭」八木義徳

          「私のソーニャ/風祭」の中には4作品が入っている。  「劉広福(リュウカンフウ)」を読んだ。 満州で働いた経験から書かれた小説。満州で出会った、純朴で誠実な青年を描いている。読後感が爽やか。1944年に書かれた小説としては読みやすかった。 第19回芥川龍之介賞を受賞。 「私のソーニャ」 「私」は音信不通となっている娼婦S子の姉と弟が熊本県に身を寄せていることを突き止める。S子は仕送りをするために、今まで以上に娼婦として働くと言い出す。S子の弟に「私」は就職先を世話する。S

          「宿敵」八木義徳

           宮津信夫と平田啓介は無二の親友であり、二人は小説家としてライバルである。 平田の成功に嫉妬をあからさまにする宮津。恋愛観の違いや恋路を邪魔する言動に耐えきれず、平田は宮津に絶交を言い渡す。 友人Kは二人を仲直りさせようと必死だが、私の目には揉める種を蒔いているのはKのように思われる。 宮津は手術の失敗で、36歳で病死。仲直りの機会を失う。 平田は『宮津は自分以外の人間を生涯、一人も愛することが出来なかった人間』と評している。 そんな宮津に妻がいる。宮津が結婚するに

          「宿敵」八木義徳

          「マチネの終わりに」平野啓一郎

          天才クラシック・ギタリストの蒔野聡史とジャーナリストの小峰洋子の切ない恋の物語。 二人は3度会っただけで、運命の恋に落ちてしまう。強く引かれているのに、誤解したまま、それぞれの人生を歩み出す。 「子供の頃、おままごとで遊んだ庭石に、祖母が転んで頭を打って亡くなる。楽しかった幼い頃の思い出が、祖母の命を奪った庭石だと思うと、悲しく辛い思い出に変わってしまった」と洋子が話す。 蒔野は「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えている

          「マチネの終わりに」平野啓一郎

          爆弾きのこ

           公園の横を通り過ぎたとき、ベンチに座り私に手を振っている女性がいる。乱視で女性の姿がおぼろげにしか見えないが、夫の弟の奥さん、日和(ひより)美(み)だとわかる。 ストレートの髪を肩よりも長く伸ばし、年甲斐もなくミニ丈のワンピースを着ている。 「友梨さ~ん、待っていたのよ。お話ししたいことがあって」と、甘い声を上げた。  一週間前にも、公園にいる日和美から呼び止められた。 「お義母さんが、昨日、訪ねて来たの」  目をくりくりとさせ、甘ったるい声で話し出した。まるで、日

          爆弾きのこ