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私がフィンランド留学する理由~ほぼ自分史~
私は2024年9月に、ヨエンスーにある東フィンランド大学に入学しました。高校で取得した国際バカロレア(IB)資格で受験し、正規留学という形で3年間の学士プログラムLifelong Learning and Sustainable Development(LLLSus)で勉強しています。
留学した理由を端的にいうと、
フィンランド
英語のプログラム
教授法でなく、教育政策学/社会学的な内容
という全ての希望を満たすのがLLLSusだったからです。
なぜこのような選択をするに至ったのか、振り返ってみて適切な答え方を探りたいと思います(時々聞いていただけるので)。
なぜフィンランド?
私は小学校高学年頃からフィンランドに興味があり、ずっと留学を夢見ていました(執念深さが自分でも恐ろしい)。フィンランドへの想いの変化は今までに4つくらいのフェーズがあるので、振り返ってみました。
第1フェーズ:デザインとの出会い
母の趣味で北欧の雑貨や食器、洋服が身近にあり、「北欧」という国々があることを早くから認識していました。なかでもお気に入りの子供服や母の服、トートバッグにプリントされたファブリックがフィンランドでデザインされたものであるということを知ったことで、北欧へのアンテナが張られていました。
第2フェーズ:「翻訳家」という夢
人生の中で特に本の虫を極めていた小学6年生の時、図書館で借りた『言葉屋』(おそらく4巻)を読んで翻訳家になりたいと思うようになりました。
主人公のおじさんが翻訳家で、本に囲まれた秘密基地のような部屋に住んでいるという描写に憧れたのと、本を通して異文化を体験可能なものにする仕事というのが良いなと思ったからです。
小6の時のクラスには担任の先生以外に先生がもう1人いて、よくおしゃべりをしていたのですが、その先生がある時唐突に「フィンランド語ってかわいいんだよ~」と言ったのをきっかけに、フィンランド語に興味を持つようになりました。
フィンランド語の本は英語の原作の本に比べて少ないので、翻訳の仕事の市場も小さいだろう(=仕事になるだろう)と子どもながらに思い、英語ではなくマイナーな言語を専門にしようと思うようになります。
私にとって、この時期に翻訳家になりたいと思ったことは人生のターニングポイントになっています。翻訳家にはどのようなスキルが必要か調べたり、関連本を芋づる式に読んだりしているうちに、翻訳家として食べていくためには言語力だけでなく、専門性が必要であることに気付きました。そのために、様々なことに挑戦してみることを決めました。
その後『青い光が見えたから』というフィンランドの高校に留学した方のエッセイと出会い、フィンランド留学を目指すようになります。はじめは著者と同じように高校からの留学を目指したいと思っていましたが、自分のやりたいことを考えると、日本のことをしっかり理解してから留学したほうが良さそうだと思い直し、大学での留学に目標を設定しました。
第3フェーズ:教育に興味を持つ
中学2年生の終わりから3年生にかけて、パンデミックで学校が休校になり、その間の学校の対応や日本全体の状況を見て教育に問題意識を持つようになりました。
そもそも中学に入学してから、クラスメイトや友だちと会っておしゃべりしたり、授業を一緒に受けるのは楽しくて好きなのに、学校中に溢れている理不尽な事象や、なんともいえない居心地の悪さを感じていて、色々と疑問に思う点もあったので、休校期間中にそれが表層化した感じです。
色々と端折りますが、休校時に、全ての子どもに等しく教育を保証する存在であるはずの公立校で、学習が完全にストップしてしまうような現状に問題を感じ、日本の公教育を変えたい!と思うようになりました(傲慢)。
私があまりにも「フィンランド、フィンランド」言っているので、担任の先生がフィンランドに関する記事を見かけたら私のために切り抜いて渡してくれたり、本をこっそりプレゼントしてくれたこともありました。
その先生には「フィンランドも良いことばかりではない。」「日本も世界から評価されている点がある。」と事あるごとに諭されていて「そんなのわかってる!!」とイライラしていましたが(「そのうちわかる。」みたいな態度も嫌だった。)、まあ確かに(当時も相当わかっていたけれど!)今は実体験としてもっとわかります。同時に、例え世界から評価されていても、実際に教育を受けている人が困難を感じている限り、やっぱり日本は今のままではいけないとも強く思います。
第4フェーズ:夢を具体化する
紆余曲折あったものの、目標であるフィンランド正規留学により近づける可能性の高い&(一方通行の授業が苦手な自分にとって)カリキュラムが魅力的という2点から国際バカロレアコースのある高校を選びました。
高校に入って変わったのは「日本の公教育を変えたい」という考えです。2年前に書いていた記事があるので良ければご覧ください。
高校で素敵な先生方に出会って「一番なりたくない職業ランキング1位:教員」という呪いも解けました。今はフィンランドで学校外教育の可能性について学習したことでまた考えが変わっていますが、目標へのアプローチ方法の選択肢が広がりました。
さらに色々あって念願のフィンランドの大学に合格!教授法ではなく、政策学、社会学的観点から教育を見たいという方針が定まりました。
このころには、フィンランドへの「憧れ」というよりも良いところも悪いところも見たい!全部知りたい!喜びもがっかりもこの土地でしてみたい!と思うように…。
国際バカロレアという、小中時代とは異なる教育カリキュラムを経験したことで「完璧な教育など存在しない」と身をもって知れたことが、より様々な場所の教育を知ることのモチベーションを高めてくれたと思います。
なぜ正規留学?
短期でなく長期を選ぶ理由
フィンランド関連の書籍を読み漁っていて印象的だったのは「フィンランドは天然資源に乏しいため、人間が1番の資源だと考え、教育や福祉の充実が重要視されている。」というものです。さらに様々な話を聞いたり読んだりする中で、それは単に「労働力」としての資源でなく、1人1人が人間として尊重されること、それ自体が社会の活力となり、結果的に国にとっても良いことになるという考えなのだと理解しました。そんなところに惹かれ、この場所で教育について考えたいと思うようになりました。
教育は、国が求める国民像を反映しているので、学校現場だけで完結するものではなく、社会や経済、政治が関わってくると思います。フィンランドでは、どのような要素が組み合わさって現在のような教育が実現可能になっているのか、またどのような課題がうまれているのか、実際に3年間暮らし、授業だけでなく生活からも学びたいと思い、正規留学を目指すようになりました。
始めは教育水準が高かったわけでも、ジェンダー平等が達成されていたわけでもないフィンランドが、どのように短期間で立て直しを可能にしたのか、総じて教育水準の高い北欧諸国ではなぜそのような教育が可能になっているのかを直接感じ取りたいというのも理由でした。
留学の裏テーマ
なぜ北欧のなかでもフィンランドなのか?
私が北欧のなかでも特に「フィンランド」に惹かれていた理由は、その文化や歴史、言語の特異性にあります。
スウェーデン語、デンマーク語、ノルウェー語などはゲルマン語系で英語に近いのに対し、フィンランド語はウラル語系で全く異なっています。人が話しているのを聞くと、音の波(?)流れ(?)が全く異なるのがよくわかります。
高校時代には「フィンランド国民のナショナリズム形成」をテーマに歴史のIA(エッセイ課題)を書きました。
ナショナリズム運動が起こった時期が周辺諸国と異なること。
ナショナリズム運動を牽引したのが”スウェーデン語系”フィンランド人であること。
「(フィンランド語とスウェーデン語)どちらの言語を話そうが、この国の子どもはみな同じ国民だ」という言葉が示す2つの公用語への意識。
「我々はもはやスウェーデン人ではない、さりとてロシア人にはなれない。フィンランド人でいこう!」という言葉がフィンランドのナショナリズム運動で多用されたこと。
という点を中心に、私はフィンランドとスウェーデンの独特な関係性や、長い統治を経てもなお「フィンランド」としてのアイデンティティが強いことにとても興味があります。
島国で生まれ育った私にとって、ヨーロッパのように隣国と陸続きであるという感覚は永遠に理解しきれるものではないと思います。フィンランドで生活し、様々な人に話を聞き、自分で感じ、理解を深めるのが私の留学の裏テーマでもあります。
おわりに
なんせフィンランド行きは長いこと温めてきた夢なので、激ながになってしまいました。振り返ってみて、改めて「夢叶ってよかったねえ~」と思えました。今授業のために読んでいる本が、まさに自分の当初の興味に応えてくれるような内容なので、読み進めるのが楽しみです。