#16【営業ノウハウ】プライシングの最適化
今回も営業ノウハウと言うよりビジネスにおける収益最大化のためのノウハウです。
プライシングは事業計画達成を左右する重要なファクター
以前値上げのタイミングという記事を書きましたが、そもそもの価格設定をどうするか、つまり、プロダクトやサービスの提供によってお客様からどのくらいのお金を頂戴するか、という問題は多くの経営者や事業責任者の方々を悩ませている問題だと思います。
この話は事業計画(ビジネスの成長や投資回収)に非常に影響の大きなポイントですので、開発費用やリソースなどの投資や運用コストなども勘案しながら色々と細かくシミュレーションされておられる方々も多いことでしょう。
簡潔に言ってしまうと売上=顧客数(受注件数)×単価なので、事業計画立案にあたっては、
①投資回収を考慮していくらで販売するのが良いか
②どのくらいの数の顧客を獲得し、それをどのように増やしていくか
の2点が特に重要なファクターとなってきます。
さて、この①の”値決め”において、真に考慮すべき要素というのは主にどのような情報でしょうか?
顧客のニーズは常に変わっていく
まずそもそも、プロダクトやサービスの価格というのは、突き詰めると“価値を提供することの対価“であるべきです。
提供者側がいくら稼ぎたいからというのは、購入者にとっては全く関係ありません。
顧客がどのくらいの価値を享受できるかを定量化したものが価格となっていくべきである、ということです。
等価交換がビジネスの原則である、といえます。
また、顧客のニーズは決して一定ではありません。
時代背景の変化、文化や流行の変遷、景気の上下、技術革新、法的要件の変化、個人や企業の成長、日々の体調や気分など、実に様々な状況や要素の変化によって、ニーズもどんどん変動していきます。
上記前提を基に考えると、価値が可変であれば対価も流動的になるのが正しい姿であるはずです。
価値が高ければ価格も上がり、価値が低くなればそれに応じて価格も下がる、というのをダイナミック・プライシングと言います。
ダイナミック・プライシングというのは需給バランスに応じて(つまり価値に応じて)都度対価が決まるという点で理にかなっているのですが、プロダクト販売(ここではモノに限らず都度契約支払いの契約形態)の場合のダイナミック・プライシングは、対価の算出と価格設定、契約管理がめちゃめちゃ大変になります。
相場を調べ、需要と供給を調査し、そのバランスに応じてプライシングを都度設定するという一連の作業を毎日のように行わなければならないというのでは、日々の業務負荷が非常に高くなります。
また、そもそもプロダクト販売モデルの場合は、そのプロダクトそのものを購入するため、購入後に価値が下がっても既に購入した金額は下がらないので損した気分になりますし、販売後に価値が上がっても対価の追加徴収は殆どの場合難しいでしょう。
サブスクリプションというビジネスモデル
この課題を解決するためのビジネスモデルがサブスクリプションです。
サブスクリプションというビジネスモデルにおいては、ビジネスの原則に従って、買い手が享受する価値に等しい対価を課金します。
プロダクトや役務はその価値を提供する手段でしかなく、その手段そのものに課金することはありません。
また、前述の通り、顧客のニーズは変動するものであり、さらに顧客ごとに異なるというのが現実です。
すると、サブスクリプションはモノの対価ではなく、一定の手段によって連続的に得られる価値の対価を連続的に支払うモデルであり、価値を得る領域やその広さ、深さによってパッケージ化して前述の価格設定の煩雑さを軽減するモデルである、と言うことができます。
つまり、月額や年額で継続的に課金するだけのモデルは本質的なサブスクリプションとは言わないということです。
その前提に立ったとき、サブスクリプションには以下の2つの要素は不可欠となります。
①選択肢が幅広いこと
と
②可変であり柔軟な流動性が担保できること
①選択肢の幅広さ
前述の通り様々な背景を持ち様々なニーズを抱えたユーザーが利用することが想定されます。
なので、誰がどんな状況でそんな手段でどのような・どのくらいの価値を得たいかによって、それぞれ最適なものを選択可能な形で提供される必要があるということです。
例えばStandard PlanやGold Planなどの広さ・深さの選択肢や、Optionによるニーズへのアジャストがこれにあたります。
②柔軟な流動性
繰り返しますが、ニーズは変動します。
当然ながら、変動するニーズに対して提供する価値が一定のままだと不満が生じます。
ニーズに対してサービスの価値がToo Muchであれば、価値が下がってももっと安いものを探すでしょうし、足りなければもっと価値提供レベルが高いものを求めるのが一般的だと思います。
このように縦横無尽に変化するニーズに対して、提供価値も可変である必要があり、ギャップを感じる期間が最小化できるよう、その変更にも柔軟に早期に対応できる必要があります。
つまりUp GradeやDown Grade、オプションのつけ外しなどの変更がすぐに簡単に柔軟にできなければならないということです。
収益を最大化するためには
冒頭の話のように、事業計画をベースに考えると、ここで書いたような内容を軽んじて、ついビジネスにおける収益を考慮した値付けをしてしまいがちです。
もちろんビジネスである以上は収益を優先的に考慮する必要はあるのですが、要は短期的でなく中長期的に考える必要があるということです。
例えば、顧客のニーズが下がったときに提供する価値も下げる、つまり料金の低い下位バージョンへの変更やオプションの部分解約を許容するということですが、これは短期的には売上が下がることを意味します。
売上が上がるのは良いけど下がるのはNG、と誰もが考えたいところですが、上述のようにニーズと価値の乖離がある状態が長く続けば、解約されてしまうリスクが高まるのです。
目先の売上低下を防ぐことはできても、解約されてしまったら元も子もありません。
契約が続いていればその先も得ることができるはずの売上が入ってこなくなってしまうからです。
このように、中長期的な視点で、顧客が生涯(=契約が継続している期間中)に支払うであろう料金の総和をLTV(Life Time Value)といいます。
LTVを最大化することを考えれば、短期的にMRRが下がっても、中長期的にまた上がったり、解約されずに長い間契約を継続いただけることにつながるのであれば、そのほうが良いというのは自明です。
しかし理屈ではわかっていても、目先の売上低下はやっぱり回避したいと思うのが人情。
SaaSベンダーなのに、「契約の不利益変更は稟議申請の上役員会決議」とか言っちゃってる企業もたくさんあります。
また、これを実際にやろうとするとボトルネックになるのが実務です。
月半ば契約の変更、請求金額の日割りを含む再計算、契約管理や請求管理など、柔軟な契約変更はトランザクションの急増も招きます。
これらの要因が足を引っ張っているせいで、まだほとんどのサブスクリプション(SaaS)ベンダーはここまで実現できず、単一プライシングモデルで変更も不可(しかしUp-Sell / Cross-Sellは歓迎)というサービスがはびこっているのです。
しかしこれらのボトルネックが解決できれば、この考え方を取り入れて成長速度を上げることができます。
さらに実際プライシングを検討する際には、人間行動学や心理学を加味した選択肢の作り方、見せ方なども考慮する必要がありますし、適切な機能拡充も要素として重要になってきます。
プライシングって本当に奥が深いですが、サブスクリプションこそが顧客満足とビジネスの成長を両立させる素晴らしいビジネスモデルなので、この考え方が世の中に浸透すれば良いなー、と思っています。
サブスクリプションビジネスを運営する皆様におかれましては、是非この考え方を念頭に置いていただければ幸いです。