#14【営業ノウハウ】値上げのタイミング
SaaSビジネスにおいて必ずぶち当たるのが、「値上げっていつ、どうやってすれば良いの?」という壁です。
※この話に密接に関わる”プライシング”に関わる話も、Zuoraでの経験を基に近いうちに書こうと思います。
前提:値上げを忌避する日本の文化
日本人は値上げに厳しい生物です。
”人は受け取る価値への対価として、製品やサービスにお金を払う”というのがビジネスにおける本質であり根幹です。
だとすれば、”提供価値が上がれば対価も上がって当然”という等価交換の原則はいわば当然の考え方のはずです。
しかし日本においては、”提供価値が上がっているのに対価は据え置き”という、ビジネスの原則をぶち壊す禁忌を美学としてもてはやす傾向にあります。
そんな文化が形成されてしまっているので、値上げに踏み切るには“圧倒的な競合優位性”と”唯一無二の独自性“が必須要件となります。
“替えがきく“とユーザーが思っているうちは、値上げは基本的にダメ、時期尚早ということです。
例えばZoomが値上げすれば日本のユーザーはTeamsやSkypeに流れるでしょうし、LINEが有償化すればWhatsAppが日本でも天下を獲るでしょう。
Slackが値上げすればchatworkのユーザーが増えるでしょうし、AtlassianとNotionは骨肉の泥仕合を演じています。
私は家のトイレはTOTOだろうがINAXだろうが正直どっちでも良いので(失礼)、転居や新築・増改築の際はその時安い方を買うでしょう。
しかし一方で、そうはならない市場もあります。
ビジネスマンであれば多少の値上げでは日経新聞を解約したりしないでしょうし、
SAPは創立50年近いのに未だにERPでトップシェアだし、
近所にコンビニがセブンイレブンしかなければどんなに値上げしてもセブンに行くだろうし、
iPhoneは多少の値上げにびくともしない信者を多数獲得しています。
私はMCUのドラマや映画をほぼ独占している限りDisney Plusを解約することはないでしょう。
そもそもどれだけ税金が上がって文句を言ってもほとんどの日本人が日本を出ていかないですね。
この違いはなんでしょうか。
”圧倒的な競合優位性”と”唯一無二の独自性”とは
代替がない、スイッチングコストが高すぎる、競合製品やサービスと比較して圧倒的な価値を享受できる、環境や条件的にこれを選ばざるを得ない。
つまり、”替えがきかない”ということです。
そのような条件を満たしていれば、値上げしたとしても不平不満はあれど離れていくことはないのです。
ちなみにこれは、プロダクトやサービスが一定のニーズを満たせるだけ“成熟して“いる前提の話であり、享受できて然るべき価値すら提供できていない場合は“機能が拡充されて一人前“なので、値上げの根拠には値しません。
では、これをどのようにしたら獲得できるのでしょう。
ちなみに”圧倒的な競合優位性”と”唯一無二の独自性”は個別の要件ではなく、表裏一体の要素であることは皆さんお気づきの通りです。
市場やプロダクト/サービスの性質などに拠るので一概には言えませんが、少なくともSaaSにおいては、以下のポイントが重要であると考えています。
ターゲット市場や企業を理解し、適切な価値提供ができている
変革後の姿とそのメリットを認識し、実現のステップが明確化している
根本的な変革が自社にしか支援できない論理的根拠が説明できている
要は、Vision Selling及びSolution Sellingが正しく実施できており、競合他社とは同じ土俵で勝負しないためのセールスロジックが組み立てられていること、というのが回答になります。
「なんだよ、結局当たり前のことしか言ってないじゃないか」と思った方は、その当たり前のことが本当にできているか振り返って考えてみてください。
自分の提案内容は絶対に競合他社に負けないと自信を持って言えますか?
絶対に負けない強みを訴求できる説得力のあるロジックを考えに考え抜き、その構成要素を補完し得る強化施策の優先順位を上げて会社のリソースを投資し、実現可能性を証明できる材料を揃えること。
この基本中の基本と言えるセオリーを、戦略的に、高い粒度で、一分の隙もなく確実に実行することこそが、差別化の唯一の道です。
どうすれば値上げに”納得”してもらえるか
“正当な“値上げに対する不満を抑える方法としては、
①ユーザー(もしくは見込み客)に正しくその価値を訴求すること
②どこまでの価値を享受するかは選択肢を与え判断をユーザーに委ねること
この2点が主です。
①についてはいわば正攻法ですね。
既に一部のプロダクトやサービスだけ利用しているユーザーに対して、最大限効果を享受いただくための定着や使いこなしを支援する。
それだけではなく、もっと“物流業務“の範囲を拡げて根本的な課題解決の提案をする。
課題解決の範囲が拡がれば他のプロダクトやサービスを利用する領域も広がり、スイッチングコストは更に高くなります。
ここで重要なのは、ユーザーが得られる“価値“を根本的に理解してその最大化に努めることです。
以前別な記事で書いた通り、“価値“とは機能そのものではなく、課題解決や理想実現が機能によって達成されることによって得られる果実です。
なので、“何で解決するか“よりも“何をどのように解決するか“、そして”その結果どんな利益が得られるか”のほうが本質なのです。
私は“機能拡充による差別化“を親の仇のように嫌っていますが、その理由はこれを痛いほど理解しているからなのです。
機能はあくまでも手段であるので、その手段の拡充のために機能を充実するというロジックはわかります。
なので、機能が充実していることはめちゃめちゃ重要であると思っていることも前提としてお伝えしておきます。
しかしその機能があることは、“ノックアウトされない最低線“であり“差別化“そのものでは決してないことを忘れてはなりません。
機能は開発すればいつかは追いつかれるので、「安ければどっちでも良い」に陥りやすいのです。
②については、単純な値上げではなく、オプション機能や上位版の提供によるアップセルを指します。
当然ながら背景や状況によって課題とその根本原因は異なり、その解決手法も得られる価値も異なります。
とすると「機能が増えたから一律その分値上げします」は愚の骨頂であり、“その増えた機能を使わないケースもある“ということを考慮しなければなりません。
なので、増えた機能はオプションとして別途有償提供したり、全機能盛り盛りはあくまでも上位プランとして新設し、機能も価格も据え置きのバージョンを下位プランとして選択可能にする必要があるのです。
日本人の国民的文化である「提供価値が上がっているのに対価は据え置き」を礼賛する人種に対しても、圧倒的な差別化、自社のプロダクトやサービスでなければならない理由付けがしっかりできていれば、
「あなたが選択できるのは、機能が増えた上位版を使うか、機能も料金も今と据え置きのままかどちらかです」
と堂々と言い放つことができます。
値上げをご検討されている皆さんは、この話に照らして、然るべき状態であるかどうかを評価した上でご判断されることをお薦めします。