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銘柄分析:コーエーテクモホールディングス(3635)


今回分析する銘柄は社内にエンターテイメントサークルとアミューズメント同好会を抱えているユニークな投資会社コーエーテクモホールディングスだ(以下コエテク)。


概要

当初は別業種の問屋であったが在庫管理ソフト、選挙管理システムなどの経験を経て1983年にPCゲーム信長の野望をヒットさせて以降、ゲーム会社に業種転換を行い現在まで光り栄えている。
当時は光栄と号しておりオールドゲームファンにはこちらのほうが馴染み深いだろう。
孤高に栄えられますようにとの願いが込められての屋号だ。
上記の目立たない管理ソフトから乙女ゲーム、歴史ゲームまで幅広く展開しており最初期の日本ゲーム業界の開拓者だった。
実はNHK大河ドラマに技術提供・監修も行っている。

モンスターファーム等を手掛けるテクモがお家騒動に陥った際、業界の覇者スクウェア・エニックスがTOBを仕掛けることを宣言した。
テクモが助けを求めたのは弱小のKOEIだった。
光栄時代から業界の開拓者として第一線を走ってきた実績もあったのだろうが、創業者同士が家族ぐるみで仲が良かったのだと言う。
KOEIは社員を手厚く保護する方針を打ち出しており離職率も4%と低い。
また、一度も赤字やリストラを経験していない。
どうせ合併するならKOEIが良いという考えも判らないではない。
以降、現在のコーエーテクモホールディングスとなった。

出典:google finance

ここ5年のチャート。
株価は冴えない。
コロナ禍の引き篭もり需要で一度膨れ上がり下落を経験したことが判る。
ではこれからのコエテクを占っていこう。

会社業績

出典:IR BANK
出典:四半期連結損益計算書及び四半期連結包括利益計算書

如何にも老舗という業績で2019年まで売上の伸び方は冴えない。
2020年から跳ねたのが見て取れる。
販管費が低く見えるがコナミ、カプコンなどとおおよそ同率であり同業他社と足並みを揃えた広告宣伝を行っているようだ。
しかし、誰がどう見たって目を引く項目がある。
営業利益率だ。
2023年度など50%の大台まであと0.1%だった。
参考までに2023年度の同業他社の営業利益率は
スクウェア・エニックス:12.91%
コナミ:14.69%
カプコン40.35%
となっている。
ストリートファイター、モンスターハンター、バイオハザードなど世界に通用する異次元のIPを持つカプコンがコロナ禍というボーナスタイムを得てようやく40%に手が届く世界だ。
コエテクの利益率には秘密があるのだ。
IR資料には営業外収益とある。
本業の営業利益を上回る営業外収益、その正体は

出典:日本経済新聞
出典:Bloomberg

襟川恵子会長が個人的に行っている資産運用だ。
業界では伝説の女帝として知られる人物で日本初の女性向け恋愛ゲームを手掛ける傍らソフトバンクグループの社外取締役もやっている。
日本のゲーム業界で一番マルチな人物だろう。
コエテクは襟川恵子会長の個人的手腕によって業績を上昇させているのだ。
会長が個人的な空き時間で行っている業務であるため経費がかからない。
そして大きな失敗もないため原資が膨れ上がっていく。
そのため年々原価率が下がっているのだ。
上場企業なのにこんなのありかよと思われるかもしれないが、そういう会社なのだ。
私が冒頭1行目で「エンターテイメントサークルとアミューズメント同好会を抱えているユニークな投資会社」と紹介したのはこういう訳があったのだ。

本業のゲームとしては信長の野望、三国志の他に

オーナーブリーダーとなって牧場を経営するシミュレーションゲームWinning Postシリーズ

TYPE-MOON原作のFateシリーズのアクションRPG「Fate/Samurai Remnant」
また、共同開発として

ファイアーエムブレム風花雪月も手掛けている。
三国志シリーズに従事するコーエーテクモならではの天下三分の構造と学園物の企画がウケ、累計300万本のスマッシュヒットを飛ばした。
それでも襟川恵子会長個人に勝てなかったという悲しい現実が待っていたのだが……。
しかし受け入れるしかない。

5/10

財務状況

出典:IR BANK

総資産、純資産は順調に積み増されている。
当然一株あたりの純資産であるBPSも伸びている。
赤字知らずの老舗企業らしい財務状況だ。
特に目を引くのは90%にも及ぶ自己資本比率だ。
低金利政策がいつまで続くか不透明な昨今、自己資本比率は特に注目されるファクターだろう。
コエテクにその心配はない。
その自己資本比率だが、2022年度に一気に60%まで急落している。

出典:上場維持基準への適合に向けた計画に基づく進捗状況について
出典:上場維持基準への適合に向けた計画に基づく進捗状況について

これは東証プライムの上場維持基準達成のために460億円の転換社債型新株予約権付社債を発行し、大株主である「光優ホールディングス」と「環境科学株式会社」から公開買付を行ったためである。
この光優HDとは何者か。

出典:自己株式の取得及び自己株式の公開買付けに関するお知らせ

コエテク株の過半数を握るこの会社も実は襟川陽一代表取締役と襟川恵子会長の、つまり襟川一族の会社なのである。
コエテクは上場企業でありながら、実質のところでは同族経営なのだ。
襟川一族の会社を襟川恵子会長が個人の才覚で切り盛りしている。
そう表現してしまえばごく普通の事柄なのだが、時価総額6000億円の上場企業という枕詞が付けばなかなか珍しい図式になるのではないだろうか。
その自己資本比率だが2023年度には67%と順調に上昇している。
まず不安はないと言っていいだろう。

5/10

キャッシュフロー

出典:IR BANK

営業キャッシュフローは地道に成長している。
設備投資も最低限で済んでいるようで効率よく経営できているのが判る。
やはり目を引くのは投資キャッシュフローだろう。
当然ゲーム作りのための研究開発費などではない。

出典:四半期報告書 第15期第2四半期

コエテクの副業、有価証券の売買である。
驚くことなかれ。
ゲーム会社であるはずのコエテクの資産の半分はこの有価証券でできているのだ。
コエテクの将来は襟川恵子会長個人の投資手腕に左右されると言っても過言ではない。

出典:2024 年 3 月期 第 2 四半期 決算説明会 質疑応答(要旨)

決算説明会の質疑応答で投資活動の成績について尋ねられている。
とてもゲーム会社とは思えない。

5/10

配当

出典:IR BANK
出典:コーエーテクモホールディングス 統合報告書2023

配当性向50%、または一株あたり50円と定められており2013年より長らく配当性向50%が続いている。
ゲーム業界全体で見渡すと
スクウェア・エニックス:30%
カプコン:36%
など30%台の会社が多い。
コエテクは業界内では高配当と言っていいだろう。

2022年に大きな自社株買いを行っている。
これは財務状況の欄で述べた上場維持基準達成のためのものだ。
例年はほぼ行っていない。
日本取引所グループによれば2023年12月のデータで東証プライム全体の平均利回りは2.16%となっている。
対してコエテクの配当利回りは2.8%であり大きな差異はない。
安定した配当政策を打ち出してくれるのは有り難いしそれが配当性向50%という極めて高い方針であることには頭が下がるが、配当目当てで買う銘柄とは言い難いだろう。
配当性向50%ということは逆に言えばこれ以上の余力がないことも示唆しており魅力的には映らない。

3/10

将来性

ゲーム業界の興亡は激しい。
高橋名人擁するハドソンは吸収合併された。
ぷよぷよのコンパイルは解散、THE KING OF FIGHTERSのSNKは破産を経験した。
プリント倶楽部で一斉を風靡したペルソナのアトラスも親会社の破産を契機に全社員の退職&再雇用を味わっている。
ゲーム業界の一寸先は闇なのだ。
コエテクはこれまで生き残ってこれたが将来はどうだろうか。

コエテクといえば社員に積極的な投資をすることでも有名だ。

出典:コーエーテクモ 採用情報 福利厚生

女性向けゲームも開発しているだけあり女性社員の育児休暇は脅威の100%、出産祝金に至っては最大200万円と同業他社では考えられない数字となっている。

出典:コーエーテクモホールディングス 人 2022年データ

これらの祝金が実際に何件発生したかもHPで公表されている。
また、背負ってしまった奨学金もコエテクが無利子で貸付けし返済にも猶予期間を6年設けてくれる。
のみならず、300室を超えるワンルームマンションを併設しており社員に格安で提供している。

出典:コーエーテクモホールディングス 統合報告書2023

当然、離職率は4%と低い。
厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概要」によると離職率の平均は13.9%だ。
社員への投資は無駄ではなかったことが判る。
こうした女性視点を大事に育んできた結果がファイアーエムブレム風花雪月の学園モノの企画に通じたり女性向けゲームに活かされているのだろうと想像できる。

最近は作風が変わったがアトリエシリーズも女性向けとして立脚したとされる。
将来のコエテクを担う人材は順調に育まれている。

少子高齢化が進む日本において、購買層の増加が見込めないゲーム会社は海外に飛躍するべきだ。
海外売上比率に注目したい。

出典:2023年3月期決算説明会
出典:2023年3月期決算説明会

日本市場の頭打ちは増加率からも明らかである。
幸い既に海外売上が主軸であり国内販売は補助輪となっている。
少子高齢化による客層の減少をSTEAM等のオンライン販売で補っている形だ。
逆に言えば、これからは日本人向けのゲームよりも海外向けのゲームを育てていく必要がある。
そのため海外市場のご機嫌を伺わざるを得ない構図を抱えてしまった。
これは杞憂ではない。
例えば提督の決断シリーズは日本の軍国主義を美化しているとされ中国当局から罰金刑を課され新作が出なくなってもう20年も経つ。
STEAMでも販売されておらず打ち切られたと見るべきだろう。
大航海時代シリーズも3がセンシティブな内容だったこともありマイルドな方向に舵を切った結果、見事に凋落。
現在は主に韓国のLINE GAMESと中国のテンセントによりオンラインゲームが細々と続く程度である。
完全版商法、いわゆるPK商法も褒められたものではない。
withPKの発売を待って購入する層もいるだろう。
海外向け新作IPの開発は急務である。
幸い財源は潤沢なため今はまだ時間的猶予があるだろう。

そう、今々の財務について全く心配はない。
なにせ襟川会長が投資でゲーム事業と同等以上に稼いでくれるのだ。
コエテクはずっとずっと、そうやってきたのだ。
このやり方で赤字を経験したことがない。
リストラしたこともない。
離職率4%の社員からも愛される労働環境も整えられている。
全部全部、襟川恵子会長が守って下さるのだ……。

じゃあ、会長がいなくなったらどうするの?

出典:Bloomberg

暴落を直感で見切り米株式市場が安定する時期を予見しそのための投資も片手間で先回りして行える。
あの孫正義氏を孫ちゃんと呼びソフトバンクグループの社外取締役に招聘される。
そんなことが可能なのは襟川恵子会長だけでは?
もちろん可能な人材はいるだろう。
どこかには必ずいる。
しかし、間違ってもゲーム会社コーエーテクモホールディングスにはこないだろう。
一般的な路線で言えば証券会社にでも雇われたがるのではないだろうか。
一人きりで行っている投資部門の後継者について、投資経験がない人間でも簡単に収益が出せる仕組みを考案中などと言うが具体的な話は見えてこない。
女帝・襟川恵子氏も人間であり限界があるのだ。
クレディ・スイスのAT1債で損失を抱え予想を下方修正したこともある。
75歳と既に高齢だ。

人材面への投資を支える原資は襟川恵子会長が個人の頑張りで負担している。
同族経営の会社なのだから気合も入るだろう。
一族の興亡は会長の双肩にかかっている。
だが会長も人間でありいつかは必ず引退する。
その時、投資してきた社員達が一族に頑張りで返せるのか。
海外に通ずる新作IPは間に合うのか。
社員への投資を継続できるのか。
筆者には不安でならない。

2/10

終わりに

筆者はコエテクが好きだ。
正確には「シブサワ・コウ」ブランドの旧光栄チームが作ったゲームが好きだ。
信長の野望など最早何本遊んだか判らないしWinning Postは9も10も楽しませてもらった。
STEAMで太閤立志伝5が再販された時など舞い上がって限定版を予約したものだ。

出典:電ファミニコゲーマー インタビュー

プレイしてみればゲーム好き達が作ったゲームだと判る。
プレイヤーの欲求を汲み取ってゲーム作りをしてくれている。
そうでなければゲーム業界で40年も生き残れたりはしない。

シブサワ・コウ(襟川陽一代表取締役)は講演会で「私の信条」として、
1.好きなことを一生懸命行う
2.伸びていく業界で思いきり仕事をする
3.幸せな家庭を築く
と披露した。
自分の環境を謳っているのだ。
この信条はシブサワ・コウの信条であると同時にコエテクの信条でもあると感じた。
誤解を恐れず言えばコエテクとはシブサワ・コウと襟川恵子だと思っているからである。
発行済み株式の半分を握り40年コエテクを引っ張ってきた夫婦は最早コエテクそのものなのだ。
コエテクのゲームが根幹を無くす時、それはこの信条を忘れてしまった時だろう。
ファン目線であるが今のところ一つの欠けもないように感じる。
筆者がコーエーテクモホールディングス(3635)株を購入することは決してないが、一ファンとして商品を買い支えたいのでこれからも3つの信条を守ったまま今の路線で好きなゲーム作りに邁進して頂きたいと願っている。

会社業績:5
財務状況:5
キャッシュフロー:5
配当:3
将来性:2
合計:20

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