ライブレポート『Elephant Gym@Umeda Club Quattro』
豪遊に次ぐ豪遊の11月。
東京2泊3日旅の興奮冷めやらぬ同月暮れ、もう一発ぶち込んだりましたわ。台湾は高雄出身のマスロックトリオ。フジロックでの衝撃的なステージと、心温まるMCも記憶に深く刻まれました。ツアーします、お金が欲しいから…の一言には思わず声を出して笑ってしまいましたがそんなに欲しいならこのおじさんがくれて進ぜよう、なんか犯罪の匂いがしてきましたね。
最後に梅田クワトロを訪れたのは、もう9年も前のこと。NIKIIE『Equal』のツアー初日。神谷洵平氏のドラミングに腰を抜かしてしまった記憶、鮮明に覚えてますね。あれクラスのヤバい一撃が今回もやって来そうで、即完から音速の渋谷WWW X追加公演発表。お金、一杯稼ぐんだよ…海の向こうから祖父のフリをしたおじさんが鼻息を荒くしております。
本当に、3人なんだよな…⁈
季節外れの怪談話は脇に置きまして、音数は少なくそれでいて密度は高く。あのリフを弾きながらニコニコ歌うベースヴォーカルって、一体何者。兄妹バンドならではの二面性、例えばキリンジやBrecker Brothersのような味わいも随所に感じられますしインスト基調から歌モノへ移行し名を揚げた点ではMen I Trust的とも言えそうか、日本の音楽シーンとの繋がりも強い印象。
toeやLITEとの共演歴もありますよね。タッピングやアルペジオを駆使しつつあくまでクリーンにポップに出力、この絶妙な甘苦さがおじさんに超刺さるのです。ジャズ研時代からのお仲間とも無事合流し、年甲斐もなく超前方へ陣取った。MNDSGN来日公演で全て悟ったんです、大好きなアーティストは出来るだけ近い距離で観るべきだという極めてシンプルな真理について。
現地視察。
午後6時。足のコンディション稍重という状態でもって、7Fの踊り場辺りに陣取る。客層が全く読めない。ロック好きもポップ好きも、ジャズ好きもアジア音楽好きも納得させてしまうバンドですから。物販で長袖スリーブだけ確保し、ジャズ研時代からの盟友を待ちます。やはり音楽をやっている方が多い印象ですかね、時折背広姿の4、50代の姿も見える。
もみくちゃ覚悟でホール席1段目、やや上手寄りにスペースを確保。ゆっくり彼と話すのはそれこそ伊良湖旅以来になりましたので。互いの近況報告と、最近イチオシの音を交換しながらElephant Gymの登場を待ちます。Lianne La Havas、Moonchild、Jacob Collier、KID FRESINO、toe、そしてSunset RollercoasterまでBGMも実に多岐に渡っていた。
黒ラベル500缶を片手にステージへ。
定刻。KTの座った目付きというんでしょうか、戦闘モードのようなひょっとするともう舞台袖で1本空けてきていたのか。そんな姿がまず印象的。フジのMCでも酔っ払ってスマホ紛失なんてエピソードがありましたが、あの状態で正確無比かつ初期衝動的なリフあるいはメロディラインを軽々乗りこなせてしまうのは本当に驚き。2時間のステージ中、一瞬たりとも興奮は冷めず。
KTは気丈に振る舞いつつ実は物凄くナイーブな子なのですよね。主宰も本番前の緊張感をやり過ごすためちょこっとだけアルコール入れる、そんな経験をした時期がありました。血行促進効果も見込めて、なおクリエイティブな場面においてはプラスに働く部分も大きかったのでは。ゲストYeYe氏が登場してからも肌身離さずビール、これCM来ちゃうんじゃないか。
生で耳にすると、また違った印象になる楽曲達。
例えば「Anima」ライブで聞くと小西康陽ばりのフレンチポップを感じさせhiyune、9m88に続く実質3バージョン目KT歌唱Ver.の「Shadow」はどこかアンニュイな中にも確固たる芯の強さがある。「Dreamlike」での弾き姿に、上原ひろみの幻影を見たり。所謂ライブ化けの典型はやはり「Witches」、個人的には「Half」が想像以上にヘビーな印象で◎でした。
自身もMCで「RED MARQUEEのステージは皆さん、ご覧になりましたか?」なんて尋ねかけるくらいですから脳裏に焼き付くステージだったのは間違いなさそう、それは主宰を含めた聴衆の総意でもあった。あの興奮を、たった3ヶ月で更なるステージに押し上げ日本へやって来てくれたことに感激して。「今日はミスが多かった…」と嘆くKTに酒の呑み過ぎなどと野暮なことは。
日本での忘れ物は是非、日本で取り返して欲しい。
あの後苗場で、彼女のスマホは無事見つかったのか否か。それと同じように日本で味わった悔しさや挫折感を、また来年再来年の日本公演に昇華して。ホントなんちゃってですが芸事に片足突っ込んだ主宰からしても、成功体験に囚われたモノづくりほど空虚で退屈なものはない。やっちまった、もっとこうできた。ヒスったりヘラったりせず建設的に積み上げ直す、何度でも。
一つとして同じものが生まれることはない、音楽の真髄はそこにあります。再現性を高めることだけが鍛錬じゃありませんし、より衝動的な方向に振り切る方がむしろElephant Gymの音像にはマッチしているか。ポップに魅せて実は物凄くアクの強い攻撃的な音楽。あるいはその逆で、とっつきにくさの中にキラリと輝くポップネスの存在。知れば知るほど見失うバンド。
甘い蜜には毒がある。
何かこう示唆的にさも意味ありげな迷言を残し本稿を〆ようと書き始めた。彼らの音楽は果物とシアン化合物との関係に喩えられるかもわかりません。桃やリンゴにだって、梅やさくらんぼにだって実は毒が入ってるんですよ。それは「種」つまり核となる部分、Elephant Gymの3人がこれまで観て聞き育ってきたものが全て彼らの音楽に凝縮され今日お茶の間へ届いている。
いわば品種改良、育種の賜物と言えます。その一方、種の部分の毒性はもう誰の目にも明らかなほどに日々強まっていて。『Dreams』(2022)という作品は一見うっとりするほどのフルーツ詰め合わせギフトなのですけれど、例外なく全ての楽曲に甘苦さを感じられます。過度なデフォルメは、一切ない。次は3年振りと言わず是非、数ヶ月振りくらいの気持ちで合間見えますと。