ライブレポート『JAZZ CONCERT 2023@芦屋ルナ・ホール』
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ファイブスターズレコード様への進言
前略、これだけのメンツが集まるプレミアムな時間ですからもっと大々的に宣伝されたい。とまあ半分冗談で半分キレっそな心持ちから本稿スタート。イタリアの雄ロザリオ・ジュリアーニ、カナダの新星ケイティ・ジョージ、そして主宰永遠の憧れジョー・ラバーベラが一堂に会するプレミアムな時間(2回目)をよもや開催間際の時期に知る。150席限定。凄まじい距離感。
演奏曲目も一体何の巡り合わせか、1月下旬に観たばかりのモリコーネ作品。出演者は予告なしに変更になる場合がございます等々不気味な文字が踊っておりますが大丈夫、きっと大丈夫。御年75歳、いつまでも若々しくしなやかで図太いサウンド。あなたの季節問わない半袖姿を見ると心から安心する。エヴァンスに添い遂げたあの日から、何にも変わらない。以上私信でした。
Rosario Giuliani(as)
極私的バイオグラフィ、ジュリアーニとの出会いは大学ジャズ研時代。敬愛するアルトの先輩と3管アレンジの「So What」に挑戦することになった折、初めて彼のサウンドに触れました。声帯が振動しているかのようなビリビリと、伸びやかでありながらスモーキーな質感。銘曲「More Than Ever」は、欧州ではもはやスタンダード集に加えられるべきナンバーだと思います。
Caity Gyorgy(vo)
2022年、名実共に日本で一番「売れた」ジャズヴォーカルといえば彼女一択ですね。9月リリースされた40年代風アレンジ「Love Story」の素晴らしさ、二の線も三の線も自在でとにかくボトムが強く音程リズムは全くブレない。Matt Blockとの共作「Strange Harbors」は、昨年の主宰的ベスト・ジャズ。架空映画のサウンドトラックをテーマに、後半圧巻の転調ラッシュが到来。
Luciano Biondini(acc)
ボタン式アコーディオンの名手と聞き真っ先に思い浮かぶのはやはりRichard GallianoそしてLucianoの存在です。演奏が予定されている「ニュー・シネマ・パラダイスのテーマ」も収録された逸作『Cinema Italia』は、誰もが耳にしたことのある曲を時に慎ましく抑制的に、奥ゆかしく鳴らしてくれる。JAZZ CONCERTツアーではジュリアーニとの共演歴も随分と長い。
石橋敬一(bs)
当初のメンバーにはクレジットされていませんでしたが、こちらも超大御所。バークリー音楽大学の作編曲科を首席で卒業後、マルサリス兄弟や故・Wallace Roney、Gary Burtonといった錚々たる面々との共演を果たしています。George Mrazの数少ないお弟子さんでもある。「いぶし銀のジャズ・ベーシスト」という言葉はまさしく石橋さんのためにあるのかもしれません。
Joe La Barbera(dr)
言わずと知れた名手、主宰がなんちゃってジャズドラマーを標榜する決定打となったのは紛れもなく彼の存在あってのことで。ビル・エヴァンス・トリオ最後のドラマー、類まれなしなやかさで楽曲の世界観に溶け込む。そのシンクロ率たるや筆舌には尽くし難い。個を打ち消しつつ確実に個を打ち出す、氏を超える才能にこの先出会える自信がない。サインを貰うのも億劫。
町中華で飲ろうぜ
正直、芦屋川に全然土地勘がない。ルナ・ホールに来るのも正直初めてかもわからない。とかく細けぇこたぁ後回し、いかにも良さげなお店で温めてからビッグネームを迎え入れましょ。「広東料理 三十番」にてチャーハン+半ワンタン、子連れ家族と現場のおっちゃん達が集う中華屋にハズレなどない。思いの外並んでいて慌てて口に運んだことを今更ながら後悔、ごち。
よもやの会場変更
元来、主宰はハト派の人間ですのであまり事を荒らげたくはない。横に座ったご婦人によれば、小ホールの電気トラブルにより急遽併設された会議場へライブ機材を持ち込んだ。ケイティ用のヴォーカルマイク以外見当たらず、さながらリハーサル室を覗き見できる文字通り「アンプラグド」の様相。思いがけないアクシデント、でも正直こういうの嫌いじゃないです。
「2週間に及んだジャパンツアーの千秋楽がこれかい…」演者サイドの心持ちを代弁すれば、勿論こうです。しかし考えてもみて下さい。これだけのメンバーを、芦屋の市民センターで観られるチャンスなんて今後絶対ない。就活セミナーちゃうぞ。多分もう芦屋には来てくれない、そんなこと言うな、でもそれが悲しい現実。むしろ楽しめ。逆にテンション上がってきたぞ。
想像を遥かに凌ぐ熱演
開演前に散々ぶーたれていた紳士淑女をギャフンと言わせる、さすがは歴戦のツワモノたち。手垢のついたジャズ・スタンダードに感じる新たな息吹、はからずも追悼特集となったモリコーネ作品群の凄まじい強度と、会議用マイク越しにも確かに伝わるケイティの「本物」具合。たいへん恐れ入りました、あらゆる点において圧倒的。滅茶苦茶「温まった」バンドサウンド。
「JAZZ CONCERT」シリーズが、単に企画モノとして消費されるのではなく確かな「文化」として根付いていたこと。懐かしさの中にも新鮮な響きや解釈を感じられたこと。コロナ禍を乗り越え、本当の意味で音楽の楽しさに触れられたこと。そして何を隠そう、事件は全て会議室の中で起こってしまったということ。青島刑事ならきっと泣いてますよ、今頃。
終演後の小噺
とにかくサインが欲しくて、少しでも長く彼らと一緒にいたくて。沢山CDを買い結構な金額を負けてもらった割には、緊張のあまり何を話せていたのか全然記憶にない。喫煙所で「ライター持ってる?」と話し掛けてくれたのがビオンディーニだと気付くのにも随分と時間を要し、ジョーにありがとうと伝えてくれ、彼はヒーローなんだ、とぎこちない英語で伝えた。
唯一、ジュリアーニとだけ言葉を交わせなかったことが本当に心残り。主催のMCで初めて、今回のツアーがジョーにとって最後の日本ツアーとなることが伝えられた。彼の姿を拝める最後のチャンスに立ち会えたこと、我先にと楽器にしがみつき我先にと音を鳴らし始めた姿は一生の宝物です。彼は最後まで、紳士に音楽と向き合い続けた。本当に、一生の宝物です。