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『マクベス』第三幕第四場

マクベスの王宮で、いままさに宴会が始まろうというとき、広間に忍び入ってきた黒い影。マクベスがバンクォーに向けて放った刺客が帰ってきたのでした。(刺客「1」とあるのは、三人組の一人だからです。)
なにくわぬ顔で乾杯をしようとするマクベスの前に現れたのは……!

マクベス夫人に亡霊が見えているのかどうか、解釈の分かれるところです。皆さんはどう思われますか?
私は、見えていないほうが、マクベスもマクベス夫人も哀れな気がします。一心同体で歩んできた二人のあいだに、溝が生じ始める場面です。

それにしても、「おれは血の川に踏みこんだ、いまや腰まで浸かって動けない、だが、いまさら戻るのも面倒だ。」って、なにそのダメな感じ(笑)。一人でビビりまくっておいて一人で疲れてるの(笑)。こういうところが大好きだよ、マクベス。

文中の[…]は原文を省略した箇所です。
太字はとくに有名または/そしてサラのおすすめ台詞です。

マクベス 席順はおわかりだな、座ってくれ。まずは
 ようこそ、とにかくよく来てくれた。
貴族たち             ありがとうございます、陛下。
 […](刺客1登場。)[…]
マクベス おおいに楽しんでくれ、のちほどテーブルを回って
 みなと乾杯しよう。
 (刺客に傍白)顔に血がついているな。
刺客1 とすればバンクォーのです。
マクベス […]やったのだな?
刺客1 はい、のどをすぱりと。[…]
マクベス [せがれのフリーアンスもか?]
刺客1 じつは、陛下、フリーアンスはのがしました。[…]
マクベス とにかく親蛇は死んだ、逃げた子蛇も
 いずれ毒をもつようになるだろうが、
 いまはまだ牙もない。さがってよい。
 明日また策を練ろう。(刺客1退場。)
マクベス夫人    あなた、お客さまのおもてなしを
 してくださらないと。主人役が知らぬふりでは
 ごちそうも味気なくなりますわ。[…]
マクベス            よく気がついてくれた。
 さあ、おおいに食し、楽しんでくれ、
 そのために乾杯だ。
レノックス    陛下もどうぞお掛けください。
 (バンクォーの亡霊登場、マクベスの席に腰をおろす。)
マクベス これでわが国の高位高官が一堂に会したことになるな、
 残念ながらバンクォーだけ姿が見えぬようだが。
 しかし、欠席の非礼をとがめてすむのならそれでよい、
 何か事故に遭ったのでなければよいが。
ロス                欠席は約束やぶり、
 ふとどきといえましょう。それはさておき、
 陛下もどうぞご着席くださいますよう。
マクベス 席がない。
レノックス    ここにございます。
マクベス どこに?
レノックス   ここですが。
 どうなさいました、陛下?
マクベス 誰がこんなまねを?
貴族たち         何を?
マクベス (亡霊に)おれがやったという証拠があるか? よせ、
 その血まみれの髪をふり立てるのは。
ロス 諸君、お立ちください、陛下にはご不快のご様子だ。
マクベス夫人 いえ、お掛けください、よくこうなるのです、
 若い頃から。どうかご着席を、
 発作は一時のもので、すぐに
 おさまります、あまり見つめると
 かんにさわってますます興奮してしまいますの。
 どうかお気になさらず、お食事をおつづけください。
 (マクベスに傍白)それでも男ですか?[…]
 どうしてそんなお顔を? 目をこらしてごらんなさい、
 見えるのは椅子だけよ。
マクベス       見ろ、あれを!
 あれだ、あれを見てくれ、どうだ?
 (亡霊に)おれは平気だぞ。うなずけるのか、口もきいてみろ。
 […](亡霊消える。)
マクベス夫人 なんてこと、男らしくもない、馬鹿みたい。
マクベス たしかにあいつを見たのだ。
マクベス夫人           いやだわ、はずかしい。[…]
 お客さまがたがお待ちですよ。
マクベス          忘れていた。
 諸君、どうか驚かないでくれ、
 ちょっとした気の病なのだ、身近な者らは
 なんとも思っておらぬ。さあ、友情と健康に乾杯だ、
 席に着くとしよう、酒だ、なみなみとついでくれ。
 (亡霊ふたたび登場。)
 諸君の列席を祝して、この杯を、
 また、友なるバンクォーのために。彼が来られなかったのは
 まことに残念だ。では皆のため、彼のため、
 乾杯しよう!
貴族たち  乾杯!
マクベス 失せろ、出ていけ! 墓にもどれ!
 きさまの骨に髄はなく、血は冷たいはずだ、
 きさまの目には何も映っていないはずだ、
 なぜにらむ。
マクベス夫人  皆さま、申し訳ありません、
 いつものことなのです、なんでもないのです、[…]
 どうぞ今夜はお引きとりください。[…]
レノックス           では失礼いたします。陛下には
 くれぐれもお大事になさいますよう。
マクベス夫人            おやすみなさい、皆さま。
 (マクベス夫妻を残して一同退場。)
マクベス 血を呼ぶと言う、血が血を呼ぶと。
 石が動き、木が語ったこともあると言う。

 […]夜はどこまで更けた?
マクベス夫人 もうほとんど朝よ、朝とも夜とも。
マクベス […]明日あした
 明日早く、例の魔女どもに会いに行く。
 あの先を言わせる。なんとしても聞き出す、
 手段も、結果も選ばぬ。おれは血の川に
 踏みこんだ、いまや腰まで浸かって動けない、
 だが、いまさら戻るのも面倒だ。

マクベス夫人 おからだがもたないわ、眠って。
マクベス そうだ、眠ろう、二人とも。不安な妄想にさいなまれるのは
 慣れぬ恐怖のあらわれ、修行が足りないということだ。
 まだ青いな、おれたちも、悪事にかけては。(両人退場。)




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実村 文 (theatre unit sala)
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