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今読みたい物語。 津村記久子/著 『水車小屋のネネ』
こんにちは。
年始に猫のようにまるまって読んだいくつかの本の中に、“これは”と感じる一冊がありました。それはもうすでにご存知の方も多いであろう第59回「谷崎潤一郎賞」受賞作品『水車小屋のネネ』です。
この作品は、ある姉妹の40年を描いた新聞連載小説です。今日はその感想などを少し書き留めたいと思います。🦜
18歳と8歳の姉妹がたどり着いた町で出会った、しゃべる鳥〈ネネ〉
ネネに見守られ、変転してゆくいくつもの人生――
優しさのバトン
この物語は、実家を出たとある姉妹と鳥(ネネ)の過ごした40年が10年ごとに描かれていました。その時間の流れとひとつひとつの細やかなエピソードが読者にじんわりと届くなんとも心地よいストーリー。心地よいと言っても、現実と同じように決して順風満帆ではない彼女たちの人生がそこにはありました。しんどいことも、どうにもならないこともある。だけどこの姉妹は、たったふたりぼっちではありませんでした。
もし私が水車小屋の近所に住んでいたらどうするだろう。階段を登るときにある手すりのような存在で、“大きなお世話にならない小さな親切”の良さ。登場人物ではない読者がそう無意識にできることはないかと考えるくらい、素敵な小さな親切のバトンを受け取り大人になっていくふたり。その姿を見守るような読書体験となりました。
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新聞連載というカタチ
この魅力的なリズムの秘密は元々の新聞連載というカタチにありました。そう聞くと確かに区切りがある読みやすいテンポで、頑張り過ぎた日に出会う自販機のおしるこのようなあたたかな物語。しかも北澤平祐さんの挿絵のクッションと表紙画がまた素晴らしい。
エネルギーあふれる書き下ろしも大好きですが、様々な出来事からはじまった2024年、その年始のこの時期にぴったりな作品だなと今感じています。
『水車小屋のネネ』は、あなたを包み込む かまくらのようなお話。
今、読みたい物語です。
おわりに
新聞などに連載されていた作品として思い浮かぶのは、辻村深月さん『青空と逃げる』や重松清さんの『とんび』。そして平野啓一郎さんの『本心』。いずれも家族を細やかに描く記憶に残る物語です。今は新川帆立さんが『ひまわり』を連載中と見渡せば沢山の作品がある新聞連載小説。そんな“生活のそばにある文学”にこれからも触れていきたいと思います。
お読みいただきありがとうございました。
桜
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