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グラニュレーション

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note創作大賞2024応募作。
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グラニュレーション 12話【最終話】

グラニュレーション 12話【最終話】

 個展会場に戻ると、愛佳の両親が来場していた。

「どこに行ってたの、もう!」
 事情を知らない愛佳の母親は、この会場の主役であるはずの娘の姿がなくて心配していたのだ。

「久し振り、愛佳」
 ぽっちゃり体型の父親は、口数は少ないものの、慈愛に満ちた笑顔を向けている。

「はじめまして、荷堂さん。僕は『真中龍史』といいます」
 真中は、両親に挨拶をした。

「話は聞いているわ。思ってた通りの素敵な

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グラニュレーション 11話

グラニュレーション 11話

 個展二日目。朝刊にインタビューが掲載されたのと、土曜日ということが相まって、前日より絵を観に来てくれる客が増えた。
 売却済みや予約済みを表す印がついている作品も何点かある。
 真中の絵は非売品だが、「ぜひウチにお迎えしたい」という客もいた。

 普段スニーカーばかり履いている愛佳は、ローヒールのパンプスでも足が痛くなってきた。
 百貨店のスタッフに、「ちょっと席を外します」と声をかけて、休憩す

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グラニュレーション 10話

グラニュレーション 10話

 愛佳は、分離色絵具を一つ一つパレットに詰めていく。色見本を作るためだ。筆に水を含ませ、絵具をとる。梅皿に絵具を載せ、多めの水で溶く。分離している状態を確認しやすいよう、いつもより広めに紙に色を塗っていく。

「一つの絵具から異なる色が出てきて面白い。名前も自然の風景や動植物のイメージで素敵だね!」

 主張の強い絵具なので、使い方次第では画面が煩くなりすぎてしまいそうである。
 愛佳は、普段使い

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グラニュレーション 9話

グラニュレーション 9話

 九月になり、まだまだ暑い日が続いているが、熱帯夜になることがなくなり、確実に季節は進んでいる。

 愛佳と真中は、時々アトリエで夕飯を一緒に食べるようになっていた。
 夕飯の後、真中と柴三郎はロープのおもちゃで引っ張り合いゲームを楽しむのが定番だ。

「柴三郎さん、ナカさんと遊んだ後はゴキゲンなんだよ!」
 真中からロープをゲットした柴三郎は、尾を振り、かじりついている。
「そうなのか、柴三郎さ

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グラニュレーション 8話

グラニュレーション 8話

 画材フェスには、国内外の有名画材・文具メーカーが出展していた。会場内には、実際に使い心地を試してみたい人や、画材・文具をこよなく愛する人たちで溢れかえっていた。もちろん、愛佳もその一人である。

「わぁ、ホルベインに名村にマルマン、シュミンケ、オリオン、墨運堂、あかしや……どこから見て回ろう!!」
 愛佳は、好きなものに囲まれて興奮状態である。

「僕、場違いかな……」
 真中は、周りと自分との

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グラニュレーション 7話

グラニュレーション 7話

 新しい絵を展示したと真中から聞いたので、開館時間前に愛佳はギャラリーに足を運んだ。今話題の美人画の最新作が3点、入口近くに展示されていた。

「綺麗……美人画といえば江戸や大正時代のイメージが強いけれど、現代ならではの美しさが表現されている。どうしたら、こんな風に描けるのかな」
 愛佳は、絵の美しさに息を呑んだ。

「まなは、人物画は描かないの?」
 スーツ姿の真中が、愛佳の隣に立っている。

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グラニュレーション 6話

グラニュレーション 6話

 真中の仕事が休みの日、愛花は柴三郎の早朝散歩に誘った。愛佳と柴三郎は、アトリエの前で真中がやって来るのを待っていた。真中の姿が見えると、柴三郎が機嫌良くその場でぐるぐる回りだした。

「おはよう。『まな』、柴三郎さん、お待たせ!」
 真中は、ゆったりめの半袖白シャツにデニムパンツ姿で現れた。普段は長袖で隠された前腕が、露わになっているのが艶めかしく思える。

「『ナカ』さん、おはよう。そんなに待

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グラニュレーション 5話

グラニュレーション 5話

愛佳とは違った事情で、恋愛をすることが怖い真中。リスクがあるのに、真中はなぜここまで打ち明けてくれたのか。何にせよ、二人はお互いの秘密を共有してしまった。

 愛佳は出しっ放しだったパレットにセルリアンブルーとキナクリドンマゼンタを出し、たっぷりの水で混色した。

「真中さん、グラニュレーションって知っていますか?」
 愛佳のなんの脈絡も無い質問に、真中は覆っていた手を顔から離した。
「絵具の『分

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グラニュレーション 4話

グラニュレーション 4話

 愛佳は柴三郎の餌を準備してから、真中とアトリエスペースに移動した。
 出しっ放しのパレットから、嗅ぎ慣れた絵具の匂いがして、愛佳は落ち着きを取り戻しつつあった。

 愛佳はサイドテーブル代わりに使っているスツールを出して、真中に座るよう促した。真中がスツールに座ると、愛佳は立ったまま、意を決して話し始めた。

「真中さん、『我が子を喰らうサトゥルヌス』ってご存知ですか?」
「ゴヤの有名な絵ですよ

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グラニュレーション 3話

グラニュレーション 3話

 愛佳はギャラリーに納品する柴三郎の絵を描くことに集中していた。
「柴三郎さんの黒は、生命力を感じるね」
 何度もスケッチを重ね、水彩紙に彩色し、あとはサインを入れるだけになった作品は、一番柴三郎らしい表情が描けたと思っている。

 真中を避けるように、柴三郎の散歩を彼の勤務時間内にしていた。ギャラリーに近づかないようにしていたら、スケッチしようと思っていた紫陽花の見頃は終わってしまった。

 サ

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グラニュレーション 2話

グラニュレーション 2話

 暗闇の中、頭から人間を喰らう巨人。見開いた目は何かに怯えるかのよう。喰らっているのが我が子だと、愛佳は図書館所有の画集を見て知った。何故か彼の断末魔を聞いたことがある気がした。夢の中で、愛佳は度々巨人の視線に射られてしまう。足は竦み、喰らわれてしまうのではないかという恐怖の中、目は覚める。

「……またあの夢」
 目を覚ました愛佳は、恐怖の余韻で薄がけの布団をくしゃくしゃと抱き締めた。しばらくし

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グラニュレーション 1話

グラニュレーション 1話

「墨を滲ませたような空」
 ギャラリーの裏に建っているアトリエの窓から、愛佳は独りごつ。

 出版社から依頼されたカバー絵を描くために、ゲラにパラパラと目を通す。内容は若い男女が出会い恋に落ちる、ありきたりな恋愛小説だ。愛佳は本を閉じると、深く溜息を吐いた。

 あれでもない、これでもないと、クロッキー帳にラフを描き殴る。何とか形になったところで、下絵を描く。前日にパネルに水張りしておいた水彩紙を

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