鳥じゃなく、人であってよ。
何を隠そう、私が住んでいる場所は都会のど真ん中ではない。
首都圏の、主要駅から少し距離のある、お気持ち程度に駅前の開発が進んだだけの、なんともいえない半端な立地だ。
けど、私は案外この街が気に入っている。住み心地もそこそこいい。ただ、そんな地元で、少しだけ気になることがある。
夕方になると駅前のケヤキの木や電線の周りに、大量の椋鳥が現れて、みんなで揃って鳴き出すのだ。イヤホンから流れる音楽が聴こえなくなるほどに大きな声で、ピーチクパーチクと。
こういう、とりとめのないやかましさに直面すると、人も鳥も大差ないんだな、なんて毒づきたくなってしまう。
「この時間はもう外が暗くて危ないよ」
「そっかあ、女子大だと出会いの機会もないもんね」
「一人っ子っていいでしょう、親御さんの愛情を一手に受けて可愛がられて」
「えー嘘だよ、全然仲良さそうに見えるもん」
「いい人と結婚しなよ〜」
「日本語の勉強してるのに、そんなのも間違えるんだ笑」
「子育てのこと考えたら、実家の近くに住んだらいいよ」
「えっ、まだ門限とかあるんだ」
「ろれもさんって真面目だよね」
ぜんぶぜんぶ、言われたくない言葉。
こんな歳になるまで言われ続けると思っていなかった言葉。
自分の努力次第では、押し次第では、言わなくて、言われなくて済むのかもしれない言葉。
世の中には、そこを押して、自己主張が上手に出来て、
そういう言葉を、自分の考えを、貫ける人もいるのかもしれない。
"顔色を伺う?なにそれ、思った通り行動しなよ。"
そんなタイプの人間だっているのかもしれない。
でも、少なくとも、私は違う。そちら側の人間ではない。
そちら側に、なれない。
人として強くないからどんどん保身に走るし、
自分が少し我慢してニコっとしていれば都合よく世界が回る程度のことは、ニコッとして済ませてしまう。
そしてそんなことをしている自分が情けなくて、嫌で、自己肯定感が下がる。
そうしてだんだん、自分の我慢の、精神の限界が来て、困る。
いつもそう。
それでも数年前までは、限界が来た時には外で発散をしたり、友達とたわいもない話をしたりすれば解消できていた。
ところが人間、歳を重ねると思考も厄介に絡まり合うようになっていくようで。
最近はそういう解消も出来なくなってきて。最初はお酒に頼ったりもしたけれどそれも最近は上手くいかなくて。
一人で夜中にシクシク泣くことが増えた。
そんな自分が情けなくてまたシクシク泣く、そんな日も増えた。というか3-4日に1回くらいそんなことをしているやもしれない。
わかっている。こんなの悪循環でしかない。
勇気があれば、
自信があれば、
盾となる武器があれば、
しなやかに生きられる強かさがあれば。
隣の芝生が青いだけで、ないものねだりでしかないだけで。
そんなのはわかっている。
自分から変えようとしなければ、
0を1にする変化の労力を厭わない姿勢がなければ、ダメなことは、わかっている。
痛いほどに。
でも、だって、
私がちょこっとニコッとしていれば、丸く収まるんでしょう?
ちょこっとの耳鳴りと、ちょこっとの不眠と、肌荒れと、頭痛と、
ちょこっと上手く笑えなくなるくらい。それだけ。
私がちょっと、色んな予定や時間の融通をきかせて、気を配っていくだけ。
そこだけを乗り越えれば、みんなニコニコして過ごせるんでしょう?
みんなの思い通りの「真面目で、しっかりしていて、自立していて、親御さんの愛情を注がれて愛されている幸せ者」のろれもさんが、そこにいれば、それでいいんでしょう?
「そうやって我慢をしたり思っていることを表に出さなかったり、を続けると自分がダメになっちゃうよ」なんてセリフもよく言われる。
でも、実際そのセリフの主が私の代わりに状況を変えてくれるわけでもない。
そもそもそんなことはなから望んでもいない。
それに、なにをもって「私がダメになっ」ているのかもわからない。正直、とうの昔からダメになっている気すらする。
ならせめて放っておいてほしい。
辛いときは辛いって言うし、書くし、愚痴も言うし、
言葉が欲しいなと思ったらこちらから求めるし。だから、お願いだから。
とにかく、1回、放っておいて欲しい。
「あなたのためを思って」?「あなたが心配だから」?
それもこれも、私を気にかけているポーズを取れることが都合よく映るからでしょう?
そんなの、群れて集まって騒いでいれば外敵から身を守れる椋鳥と同じじゃないの。
本当に気にかけてくれているのなら、せめて
こちらの言葉を最後まで聞くくらい、
あなたの思い描いている「ろれも」を押し付けてこないことくらい、
私が言われたくないであろう言葉に気づいて気を回すことくらい、
そのくらいの配慮は、できるでしょう?
あなたは、あなたたちは、鳥じゃなくて、人なのだから。
思考する生き物なのだから、さ。
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