【整形外科の名医が解説!】 首・腰の名医15人を特別公開!今すぐ自分で生活改善、最新の低侵襲内視鏡手術、リバースエイジング
本当に大勢の方々が、良い整形外科を探していますね。そこで石井賢先生に「良い整形外科の見分け方」について、インタビューしました。寝具選びのポイントから、手術のタイミングまで、目から鱗のお話を次々伺いました。
名医にインタビュー 石井 賢 医師
New Spine クリニック東京 総院長/慶應義塾大学医学部 特任教授
慶應義塾大学医学部卒業、慶應義塾大学医学部専任講師、国際医療福祉大学医学部整形外科学初代主任教授を経て現職。腰痛・首こり・首下がり・最小侵襲脊椎治療・スポーツ医学・運動器アンチエイジングなどのスペシャリスト。
◇「症状をよく聞いてくれる」
信頼できる整形外科医の最低条件
―読者から要望の多い、整形外科医の選び方、病院のかかり方についてお伺いします。まずは地元の整形外科に行く方がほとんどだと思いますが、良い開業医の先生の見分け方を教えてください。
石井 私は脊椎外科医ですので、その分野のお話をしたいと思います。
まず、話をよく聞いてくれて、少なくとも自分の症状のことをわかってくれて、考えてくれる。つまり、聞く姿勢があることが大事です。本当に話を聞いてくれる先生ならば、例えば、「腰痛はいつからですか」、「若い時は腰痛がありましたか」、「腰痛を感じるときはどういう時ですか」、「スポーツは普段やっていますか」、「体重はこの10年間でどのくらい増えましたか」、「寝ているマットは硬いですか、軟らかいですか」、「職業は何ですか」といろいろ質問をします。
このような質問を通じて得た情報ではじめて、患者さんにかかっている腰の負担というものを客観的に理解できるわけです。腰痛はいろいろな原因があり、内臓疾患の可能性もあります。医師から質問攻めにあうというくらいが良い医者の条件になるかもしれません。
その後、直接の診察に入ります。例えば、患者さんが「脚の痛み」を訴えられ、腰の5番目の神経の麻痺症状があれば、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などによる腰の5番目の神経障害による腰痛や坐骨神経痛(おしりから下肢にかけての痛みやしびれ)を考えます。
続いて、レントゲンを撮影し、腰の5番目の神経付近の椎間板や骨の異常を確認します。最終的に、MRIを撮って診断を確定するという流れになります。しかし、通常の診療現場では、多くの患者さんの診察が必要で、どうしても十分な時間を一人の患者さんに割けないというジレンマもあります。
◇受診する病院を変えるタイミング
―地元の開業医から、脊椎専門医、あるいは大きな病院を受診した方が良いというタイミングは?
石井 長く続く慢性腰痛の方は、一度しっかり調べてもらった方が良いと思います。あとは、我慢ができない程の強い腰痛です。腰や首の病気では、神経の症状が出ている事も少なくありません。例えば、腰部脊柱管狭窄症による神経の症状には、坐骨神経痛、足が痛い、しびれる(長時間正座した後のような感覚など)があります。
このような神経の症状がでたら、一度、MRIを撮影し、必要であれば脊椎専門医、あるいは大きな病院で診てもらうと良いと思います。
整形外科全般(脊椎、関節、手足)でいうと、開業医の先生に診察をしてもらってから1~2ヵ月以上、症状の改善がない場合は、再度その主治医に相談して、CTやMRIなどでの精密検査をお勧めします。ご高齢の方がぎっくり腰のような急な腰の痛みで2~3日安静にしていても全く痛みが変わらない場合などは、CTやMRIなどで検査した方が良いと思います。ご高齢の方では明らかな外傷がなくても脊椎が骨折していることがあります。
◇自分自身の病気の経験が診療に生きている
―先生は脊椎の病気になられた経験があると伺っていますが、お話し頂けますか?
石井 私の専門は脊椎ですが、お恥ずかしい事に、私自身30歳の時に足に麻痺が出るほどの腰椎椎間板ヘルニアを、47歳の時には頚椎椎間板ヘルニアを患っています。腰痛・頚部痛・神経痛は全てにおいて、表現できない程の強い激痛でしたので、もう二度と経験したくありません(笑)。私のように自分の専門領域の病気を経験している脊椎外科医は他にはなかなかいないと思います。私は学生時代ヨット部に所属し、その頃から長い間腰痛を患っていました。その時から椎間板が傷んでいつヘルニアになってもおかしくない状態だったのだと思います。
患者さんの中には、ご経験がある方も多いと思いますが、腰痛は中腰や長く立っていた後のみではなく、就寝後の起床時(朝方)に自覚する事もあります。私にも起床時の腰痛があり、その時から寝る姿勢の研究を始めました。これまで私は枕とベッドのマットをそれぞれ50種類以上試したと思います。これらの自分の経験が今の診療にとても役立っていますので、少しお話ししたいと思います。
◇腰痛に寝具の硬さは重要ポイント
―枕とベッドのマットをそれぞれ50種類以上試されたのには驚きです。誰にでも当てはまるアドバイスはありますか。
石井 腰痛、首痛などの原因や症状は千差万別ですが、共通して言えることは、腰痛は姿勢や環境によって大きく変わります。ベッドは硬すぎても、軟らかすぎてもダメです。冷やしたら良くないし、ウォーターベッドに寝ると、腰が立たなくなることもあります。
以前より「低反発マット」が話題となっています。低反発も良いところはありますが、私個人の経験では、ベッドは低反発より高反発の方が良いと思っています。腰痛患者さんにいつも決まってベッドは硬いか軟らかいかをお聞きします。
すると、腰痛を持病で持っている患者さんの多くは、「低反発マットを使っています」と言われます。そんな時は「一度、高反発マットを試してみるか、やや硬い布団にして、腰は冷やさないように」とアドバイスします。一定数の患者さんはこれで長年患っていた腰痛が改善します。このように日常生活の指導で改善することもあります。
―仰向けが良いとか、横向きが良いとかは、ありますか。
石井 腰に関しては、足を伸ばして仰向けに寝ると、腰にとても負担がかかります。これは腰のカーブ(反り)が強くなるからです。仰向けで就寝するのであれば、股関節と膝関節は少し曲げた方が腰のカーブが和らぎます。横向きの時も同様の姿勢をお勧めします。加えて、低反発マットだと沈み込んでかなりきついと思います。
◇大切な枕の高さ
―自分に合った枕がなく、長年探している方が非常に多いです。
石井 一般に脊椎は、横から見るとS字の形をしています(図1A)。最適な枕の高さを決めるポイントは、様々あります。脊椎の骨の並びや柔軟性には個人差があり、寝ている状態と立っている状態で脊椎の形は異なります。特に中年以降になると頚椎から胸椎(首から背中)にかけての脊椎が加齢変化で硬くなるため、特に硬い方はご自分に合った枕がないと感じられるのだと思います。実際に10~20歳前半の方にはそのような訴えが少ないのは、脊椎の柔軟性があるからだと思います。
私の患者さんのなかには、「首下がり症候群」といって頭が下がってしまい前を向けない方がおられます(図1B)。そのような方にベッドに仰向けになって寝てもらうと、首から背中にかけての脊椎の柔軟性が失われていて、後頭部がベッドにつかず、宙に浮いてしまう事があります。この場合は背中から首にかけて支えてあげるような枕が必要となります。
そのような患者さんに対しては私のクリニックでは様々な背骨の計測をして、患者さんに合った枕の形状を提案しています。一方で、同じ首下がり症候群でも脊柱の柔軟性が高い方は、ベッドにしっかりと後頭部がつくため、また異なる形状の枕が必要になります。ただし、就寝では仰向けでずっと寝ているわけではなく、横向きになったり寝方もかなり変わってきますので、それも考慮した形状の枕が必要です。
―普段の生活で首の痛みや腕の神経痛、腰痛を予防するのに重要なことはありますか?
石井 とても大事なご質問ですね。一般的に、空を見上げる、天井を見るなどの姿勢では首は後屈といって後ろに反った状態になります。後屈は首の中を通っている脊髄や枝分かれする神経が物理的に圧迫を受けます。例えば、美容院で洗髪する際に首をかなり後ろに反らしますが、これはたった数分でも首の痛みや腕の神経痛を生じる原因になります。このような時は椅子の上に4~5㎝のマットでもバスタオルでも敷くと過度の後屈を予防する事が可能です。
他に腰痛予防においては、軟らかい椅子に長時間座らない事も大切です。また長時間立つ場合には、片足を低い台の上にかけて片方の股関節と膝関節をごく軽度曲げておくことで、腰の反らしを和らげる事ができるので、腰痛予防になります。
◇手術を急ぐ必要はないが、低侵襲手術も進歩している
―手術をするか、しないかは、どう考えたら良いですか。
石井 病態によって判断しますが、加齢によって生じるヘルニアや狭窄症などで病院を受診して、すぐに「手術です」ということは、一般に少ないと思います。ただし、神経麻痺などの後遺症を残す場合や生命の危険がある場合には、手術が必要になります。
多くの場合、手術以外の治療(保存療法)で軽快するチャンスがあると言えます。保存療法には、理学療法、物理療法、温熱療法、注射療法、薬物療法、装具療法など様々あります(図2)。加齢変化による腰痛とか、椎間板や軟骨がすり減ったことで起こる首・腰、膝の痛み、股関節の痛みなどは、皮膚で言うとシワが増えるのと似たような感じです。
私の首と腰のヘルニアも数カ月の保存療法で何とか完治しました。ただ、当時は最小侵襲・内視鏡治療などはなかったですし、手術のリスクも高く、仕事の復帰に数カ月を要したので、保存療法を選択しました。
一方で、いつ改善するかも分からないまま、毎日激痛に耐えながら、多くの薬剤を使用して、結果的に薬物アレルギーも出現しました。現在は日帰り手術や数日の入院での最小侵襲・内視鏡手術などの治療が可能となっています。ここ5~10年で医療技術が急速に進歩しました。もし、今の時代に私が同じ病気をしていたら、あの苦しい保存療法には耐えられないので、迷わず最小侵襲・内視鏡手術を受けると思います。
◇手術するならタイミングが大切 主治医に重症度を聞くと良い
―手術するタイミングは患者にはわからないので、ここだけちょっと気を付けて、というポイントはありますか。
石井 手術のタイミングは重要です。タイミングを逃すと、重度の神経麻痺や背骨の変形などの後遺症を残す事になるからです。重度の神経麻痺や背骨に変形が生じている場合は、タイミングを逃すと一生寝たきりや車椅子になってしまいますし、関節の疾患もタイミングを逃すと、より大きな手術が必要になります。
どの疾患も、これ以上手術が待てないというラインがあります。そこはドクターに確認するしかないですが、そのラインもドクターによって考え方が異なるので、注意が必要です。
手術を検討している際に、疾患の重症度を医師に聞かれたら良いと思います。軽度、中等度、重度か。そうすると医者は答えやすいと思います。「重度に近いので、あと2~3年は大丈夫かもしれませんけれど、その後は、手術が必要になるかもしれませんね」というように、より明確に説明できます。患者さんも、重症度がわかれば、手術の必要性が理解しやすくなるのではないでしょうか。
◇最低侵襲の内視鏡手術のさらなる普及
―今後の背骨や関節の治療は、どのような方向性でしょうか? また注目される治療はありますか?
石井 興味深いご質問ですね。現在、私は最小侵襲脊椎治療学会(MIST学会)の理事長を務めておりますが、今後の治療について議論しています。
超高齢社会を背景とした医療費高騰の問題があり、より身体への負担が少ない最小侵襲治療、保存療法の見直しなどです。これらで合併症や医療費も抑えられる事が科学論文などで証明されています。今後は間違いなく、「最小侵襲・内視鏡手術」などの、肉体的にも精神的にも負担の少ない治療が普及していくと思います(図2)。
◇整形外科での再生医療や運動器リバースエイジング
石井 整形外科での再生医療分野では、まだ保険収載されていない治療も多くあります。
患者さん自身の血液を加工して患部に注入する多血小板血漿(PRP)治療や、組織再生を促す対外衝撃波などがすでに自由診療で行われています。
私が日本抗加齢医学会の評議員と運動器抗加齢研究会の幹事を務めている関係で、長年運動器アンチエイジングの研究をしており、人生100年時代といわれているなかで、骨・筋肉・脊椎・関節などの整形外科で扱う運動器の重要性が最近注目されています。アンチエイジングは「抗加齢」ですが、われわれのクリニックのグループでは、運動器を通じて、「加齢を予防する」から一歩進んで「若返らせる」という「リバースエイジング」という概念を導入しています。
運動することで、心肺機能、内臓や脳の働きも良くなるなど体内で広範囲に効果があることが科学的に証明されるようになりました。
今後も科学的に根拠のある運動器リバースエイジング治療を積極的に取り入れていきたいと思っています。(インタビュー終了)
『国民のための名医ランキング』より名医の紹介
なぜ、『国民のための名医ランキング』なのか
『国民のための名医ランキング』は、これまでに2016年版、2018年版、2021~23年版、2024~26年版を出版しています。出版当初は「医師にランキングなんて」という批判の声もありました。しかし、どんなに遠くても日本一の医師の所に足を運ぶのか、出来る限り近くで探したいのか、その選択は一人一人違います。選択を一人一人にゆだねたいという思いで、一つの参考になればと思いランキング形式にしました。主治医を選ぶことは人生を選ぶこと、その方の人生観に直結しています。皆さまが自分の納得のいく主治医に巡り合えますよう、心から願っています。
『最新版 国民のための名医ランキング2024~2026年版』掲載の整形外科分野の中で、首痛、腰痛に特に強い整形外科(脊椎外科)の名医をランキング順に紹介します。(ランキング部門9名、有益情報部門6人)本書には、詳しい治療実績や先生の顔写真等を掲載していますので、ご参照ください。
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