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シュトレンとわたし
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作るしか選択肢がなかった
街はクリスマスムード一色。ツリーが出現し、クリスマスソングが流れて、イルミネーションはキラキラで街行く人はなんだかみんな楽しそう。そういう雰囲気がとっても好きです。
今日は私の大好きなクリスマス菓子に関しての想いを、一度きちんと綴りたいと思います。そう、私の愛すべきお菓子の存在はシュトレン(タイトルでバレてますが)。ドイツの伝統的なクリスマス菓子です。シュトレンのドイツ語表記はStollenで、ドイツ語の発音的にはシュトレンとなります。アクセントは前半。日本では以前からシュトーレン呼ばれることが多かったのですが、最近ではシュトレンが多くなってきて、そういうところにもシュトレンの浸透度をリアルに感じます。シュトレンを焼くのは私には冬の恒例行事で、焼き始めて20年近いと思います。
シュトレンはバターたっぷりのパン生地に洋酒漬けのドライフルーツやナッツやスパイスを混ぜ込んで作られた発酵菓子(またはものすごいリッチな菓子パンみたいな感じです)。出来上がりに粉砂糖をまぶします。その形はおくるみに包まれたイエスキリストの姿をイメージしているらしいです。見た目は「ザ、焼き菓子」シンプル素朴系のお菓子。
先述しましたが、最近はシュトレンの普及度がグッと上がったように思います。というのも、私がシュトレンを作り始めるようになったのは、お店に売られていなくて、食べたいならば作るしか選択肢がなかったからです。その当時でも、ドイツ菓子のお店とかヨーロッパ菓子が揃うお店には並んでいたのかもしれません。でも、「ふらっとデパ地下行ったら買える」みたいな気軽なお菓子ではありませんでした。我が家のすぐ近くにセブンイレブンがあるのですが、数年前からパンコーナーにシュトレンが登場。その時はさすがに「シュトレンもここまできたか」と思いました。
最初に食べたシュトレンはどこのものだったか、どういう経緯で食べたのかは忘れてしまったのですが、「これ、好きかも」と思ったことだけは覚えています。それ以来、もう一度食べたいと思って探しても売っているお店は見つからず。じゃあ、作ろうかなと思って始めたのが最初でした。
昔からクリスマスのデコレーションとかあの時期の雰囲気とか、クリスマスに作る伝統菓子みたいなのにも興味があって、いろんなレシピを調べては片っぱしから作って試していた時期もありました。独立する少し前の話だと思います。いろいろ試した中で特にシュトレンをとても気に入って、毎年作るようになりました。
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わたしのシュトレンについて
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新しいレシピを見つける度に試して、改良を加えてどんどん今の原型に近いものになっていきました。「進化を遂げる」というより「自分好みに近づける」と言えばいいでしょうか。変化の過程は順不同ですが、変化した箇所をあげてみようと思います。列挙することで自分のシュトレンの分析になるような気がするので。
イースト
以前はドライイーストを使ったり、さらに中種を使ったりしていたのですが、今は生イーストを使って作ります。生イーストは風味が良いのが最大のポイント。イースト臭も気になりません。耐糖性もあり、膨らみが良いのでふんわりとしたパンや甘いパンに適しています。
マジパン練り込み
本場ドイツでは生地にマジパンを練り込みます。前はマジパンを練り込んでいたんですが、この作業が面倒で(笑)マジパンの材料を入れればいいんじゃない?ってことで練り込んではいません。粉類にアーモンドプードルを足し、砂糖を増やしてます。
マジパンは2本
シュトレンの真ん中にマジパンが入っているものが好きです。毎回食べながらこのマジパン部分がもっとあったらいいのに、と思っていました。そして気づきました。好きなら増やせばいいんじゃないの?なので、私のマジパンは1本じゃなくて2本入ってます。めっちゃお得。
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はちみつと卵黄マシマシ
生地にはちみつと卵黄を加えています。卵黄はマジパン作るとどうしても卵黄が余るので、試しに入れてみたらリッチでよかった(笑)アーモンドプードル入りのブリオッシュみたいな?さらにはちみつ入れるとコクが出てスパイスとも合うような気がします。
スパイス
毎年、スパイスを調合しながら自分の好きな風味ってわかってきました。今はシナモン、カルダモン、ジンジャー、ナツメグ、オールスパイス、クローブを混ぜて使っています。あとはここにバニラです。この香りを嗅ぐとクリスマスだなあと思います。一般的に入ることの多いアニスをのぞき、入ることの少ないカルダモンを入れています。これは完全に好みの問題です。
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サイズ
昔は小さめに焼いていたのですが、今はドーンと今のオーブンの天板で焼ける最大のサイズで焼いています。大きく作った方が真ん中がしっとりするとわかったのもありますが、この方が手間が減るから。まあ、形は小さい方がかわいいかなと思うけれど。ワタクシ、みなさんが思うよりだいぶ面倒くさがりです。
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自家製ラムフルーツ
自分でフルーツをつけています。たぶん、これがけっこう美味しさの秘密なんじゃないかなって思っています。コツはいろんなフルーツを混ぜ込むこと。レーズンもグリーンやサルタナなどを使い、ブルーベリーも品種を変えて2種。クランベリー、チェリー、フィグ、マンゴー、りんごなどいろんなものをバランスよく入れています。ラム酒に漬けて1年以上漬けてから使うのも大事です。1年くらい寝かすと、味も香りも芳醇に。毎年、ラム酒漬けフルーツは使った分だけ冬にまとめて漬けるのですがそれを使うのは次の冬になります。2リットル分の瓶を使って大量に作ります。このラム酒漬けで作るとフルーツケーキとかも本当においしい。
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アーモンドじゃなくてくるみ
中に混ぜ込むナッツは一般的にはアーモンドが多いのですが、私はくるみです。理由はナッツで食べるならばくるみの方が好きだから。アーモンドで作ると、やっぱりくるみがいいなーって思うので、ずっとくるみでいくと思います。
熟成
焼いてから時間を置いてからの方が圧倒的においしい!!
なので、いつも11月に焼いています。できれば前半に焼くのがベスト。
1ヶ月くらい寝かして、クリスマス付近に食べつつ、さらに寝かせて2月とか3月に食べるのも好き。
具材をとにかく多めに
以前はフルーツとかナッツととか練り込んでいたのですが、練り込むよりも包み込むの方が量が入ることに気づき、今は包み込む手法で作っています。マジパン2本とあわせても具材がかなり多めです。
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包み込む方式です
シュトレンって、本当に手間がかかるお菓子だなあって思います。発酵菓子なので焼くまでに2回発酵があるし。焼いてから、再度温めてバターを塗るというのを3回繰り返します。で冷めたら粉砂糖をまぶしてラップで何重にも包んで涼しい場所で保管。最後に粉砂糖を再度ふりかけます。原価も高いし。
でも他のものには変えられないおいしさがあるのです。なので毎年作ります。そして今はシュトレンを作る度に「クリスマスだなあ」と思います。生地を発酵させているときの芳醇な香り、ラム酒フルーツの濃く深い風味、焼けた時に広がるバターとスパイスと発酵のなんとも言えないいい匂い。私の中にはその全部が「クリスマスの香り」として記憶されています。
ラッピングまでがお菓子作り
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そんなわけで今年も焼けました。シュトレンはパンでもあるし、お菓子でもあると思います。私が作るシュトレンはまさに「お菓子研究家が作るシュトレン」という感じ。ドイツではシュトレンのガイドラインがあるそうで、材料の割合が決まっているそうです(粉に対してバターとかフルーツとかの割合が定義されている)。なので私が作るものはもはやこれはシュトレンではないのかもしれない。シュトレン風の焼き菓子?みたいな(笑)。でも私は自分のシュトレンが好きです。
「え、レシピ気になる!」という人がいらっしゃいますか?実は以前に女性誌「LEE」の誌面で紹介させていただいたのでリンクを載せておきます。本物はこの4倍量で作っています。あと生イースト使用。バターは発酵バターを使ってくださいね。
シュトレンは11月に焼いて、12月に切り分けて自分の分を残し、ラッピングしてお世話になった人に贈ることにしています。
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昨年からシュトレンの説明と食べ方と保存の仕方を書いたリーフレット的なものをつけています。このリーフレットは菓子四季録のチームメイトでもあるさやかちゃん作ってもらいました。私のことをよくわかってくれているので私の好きなものが満載です。
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お菓子ってラッピングも大事な気がします。毎年こんなふうにリボンをかけています。ドイツでは赤いリボンが定番だそうですが、私のシュトレンなので大概ブルーです(笑)
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今年は水色(Junko Blue)のベルベットのリボンで。お庭のローズマリーを添えていい香りもお届け。
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幸せな時間
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本場ではアドベントの始まりからクリスマスの日まで、少しずつカットして食べる習慣があります。アドベントとは、クリスマスすなわちキリストの誕生日を祝う準備をする期間のことです。私も12月になると薄く切って食べたり、いらした方に出したりしています。
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コーヒーとの相性が抜群ですが、濃いめに入れたミルクティーと合わせるのも好きです。
クリスマスツリーを眺めながらああクリスマスだなあ、とお茶をする時間は本当に幸せ。なんてことのない日々が何よりも尊いと思うのは歳を取ったから?
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来年も再来年もまたシュトレンが焼けて、幸せなお茶の時間を過ごせますように。そしてみなさまも、どうぞすてきなクリスマスをお過ごしください。
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einen guten Rutsch ins neue Jahr !
【Photos : Sayaka Sawada】*をのぞく
Special thanks to Sayaka
シュトレン作成、ラッピングをお手伝いしてくれたさやかちゃんに感謝を!