きらきらブローチ 〈菓子四季録 vol.19〉
菓子四季録では、イラストレーター 澤田清佳さんと一緒にお菓子のレシピをご紹介しています。ひとつのお菓子の魅力を、ふたりそれぞれの視点から綴る菓子四季録のマガジンページはこちら。今回紹介するお菓子は、ほろ苦い味わいのコンポートを焼き込んだ「金柑のフィナンシェ」。
冬ですね
2025年が始まり、すでに1ヶ月が経とうとしています(は、はやい)。みなさまはいかがお過ごしですか?
私は年末に体調を崩して寝込んで、お正月らしいことはあまりせずに終わりました。まあ、ゆっくりできたので良しとしましょう。今年もおいしいお菓子をご紹介できたらと思っております。本年もどうぞよろしくお願いします。
おせち料理は本当に何も作らなかったのですが、お正月らしいお菓子のレシピは作りました。それが今月ご紹介する「金柑のフィナンシェ」です。ふふふ。フィナンシェ好きなんですよね。焦がしバターとアーモンドの香り。みっちりした生地。小さな型で焼くのでまわりに香ばしい面がたくさんできるのも好き。フィナンシェとか、マドレーヌとか小さな型で作る焼き菓子は、焼き上がりは表面が「カリッ」としています。個人的に、この部分が本当に大好き。この香ばしい部分は焼いてからしばらくすると消えてしまいます。ここを味わえるのは手作りならではのお楽しみ。(もしくは焼き立てをお店で購入するか。でもそれってなかなか難しい。)
今回は金柑のコンポートを中にも入れて上にものせています。フィナンシェを手に持つと金柑がふわっと香ります。コンポートにはレモン汁とコアントローを加えてお菓子にも合う雰囲気に仕上げました。この2つを足すと爽やかさと軽さが加わります。金柑は皮ごとおいしく食べられる珍しい柑橘です。例えばオレンジピールを作るのにはそれなりの手順と手間と時間が必要です。柚子茶などもそう。なのに金柑はさっと煮るだけで皮のほろ苦さ(苦すぎないのもいい)を味わえる。なんて使い勝手のいい食材なんでしょう。
金柑って人によってはあまり馴染みがないかもしれません。でもそんな人こそぜひトライしてほしいです。この時期にはどこのスーパーにも並んでいるし、とびきり高価なわけでもありません。知らないだけで、食べてみたり、使ってみたら意外と手軽に旬の香りと味わいが楽しめるフルーツです。
フィナンシェ生地にはジンジャーパウダーとカルダモンパウダーを加えて、金柑の風味に寄り添う感じにしました。冬に合うフレーバー。そして仕上げにもひと工夫。焼きっぱなしも可愛いのですが、今回は粉砂糖とピスタチオでドレスアップしておめかしを。やっぱりお菓子は見た目も大事。ひと手間で一気にフォトジェニックになるフィナンシェさんの変身もぜひお楽しみください。
コンポートは手作りしていますが、お菓子の手順はそこまで多くないし、フィナンシェ自体は失敗しにくいスイーツです(簡単なわりに味はお店っぽい仕上がりです)。冬にぴったりのお菓子ぜひ作ってみてくださいね。
金柑のフィナンシェ(レシピ)
下準備:粉類(◯)を合わせてふるう。オーブンを200度に予熱する。バターを小さく切る(2cm角程度)。
1.コンポートのシロップを切り、キッチンペーパーの上に少し置く。生地に混ぜ込む用の30g分を細かく刻む。
2.型に溶かしバター(分量外)を塗り、バターが固まるまで冷蔵庫で冷やす。強力粉(分量外)を茶こしで薄くふり、型を軽く叩いて余計な粉を落とす。生地を入れるまで冷蔵庫で冷やしておく。
3.バターを小鍋に入れ、弱火で溶かす。溶けたら中火にし、ゴムベラで混ぜながら加熱する。沈殿物が濃い茶色になったら、鍋の底を水につけて冷やす。*人肌程度に冷ませばOKです。
4.ボウルに卵白とグラニュー糖を入れ、泡立て器でよく混ぜる。バニラオイル、刻んだコンポートを加えて混ぜる。
5.4のボウルに粉類(◯)をふるい入れる。なめらかになるまでさらに混ぜる。3の焦がしバターを少しずつ混ぜ加える。
6.型に生地を均等に流し入れ、半割のコンポートをのせる。200度に予熱したオーブンで13〜15分焼く。型から外してケーキクーラーの上で冷ます。
金柑のコンポート(レシピ)
1.金柑は竹串でヘタを取り、半分に切って種を取り除く(大きければ1/4に切ってもよい)。
2.金柑とグラニュー糖を鍋に入れ、ひたひたになるくらいの水を加えて中火にかける。沸騰したら落とし蓋をし、弱火で10分煮る。
3.金柑を取り出し、コアントロー、レモン汁を加えて強火にする。とろりとするまで煮汁を煮詰めたら火を止め、金柑を戻す。
*粗熱を取ってから使いましょう。
*一晩寝かすと味が馴染んでおいしくなります。
コツあれこれ
*金柑のコンポート
このフィナンシェを作るとしたら、まずは金柑のコンポートを作ることから始めます。前述したように金柑にはあまり馴染みのない方もいるかもしれません。でも、そんな人にもぜひ作って欲しいのがこのコンポート。「フィナンシェ焼くのはちょっと大変」と思う方は、もうこのコンポートだけでもいいので作って欲しい!!
金柑は他の柑橘と同様に皮に苦味とえぐみがあります。でもコンポートにすることで雑味のような味わいはふんわりと和らぎます。さらにレモンの酸味とコアントローの香りで一気に高級感が増します。苦味やえぐみはともすると雑味のように感じられますが、味わいのアクセントになります。今回作るフィナンシェは焦がしバターとアーモンドの香りが濃厚な焼き菓子。ここに金柑が加わることでメリハリが付きよりおいしいお菓子になります。
半分にして種を取るのが少し面倒ですが、1パック分ならばそこまで量はないですし、途中からけっこう楽しくなってきますので大丈夫(笑)。生でも食べられるフルーツですし、加熱時間も10分程度。
これを冷やしたものシロップごとをヨーグルトにかけて食べると「グルメなヨーグルト〜冬の味わい〜」みたいなおいしさです(語彙力〜!!)。フレッシュさもあって、でも加熱したことで味がまとまり、金柑の持つ輪郭がくっきりします。甘さと爽やかさ、柑橘の芳香とほろ苦さ。ヨーグルトはなめらかでまろやかなタイプがおすすめです(私のイチオシは「小岩井生乳100%ヨーグルト」)。
冷たく、白い冬の日、ぬくぬくしたお部屋でヨーグルトにこの金柑コンポートをのせて食べると「ああ冬だなあ」と思います(そして「ああ幸せだなあ」とも思います)。柚子の香りについて『五感を満たすお菓子』で下記のように書いています。
金柑の香りも同じ。私の冬の記憶を呼び覚まします。鼻の先がツンと冷たい冬の空気。晴れた澄んだ空、今にも雪が降りそうなグレイの空。鮮やかな松の葉と南天の実、重箱、ストーブの上のやかん、どこまでも寒い廊下。実家の風景が多いのが不思議。瞬時に繋がる記憶。このトリップ感に毎回、香りの記憶ってすごいなと感心します。
金柑のコンポートは市販のものもありますが、それとは風味とかフレッシュ感が全く違います。この時期だけの味と香りです。金柑を煮ている時、部屋全体から広がる香りにも幸せを感じます。コンポートは前日に作っておくか、冷めるまで待って使ってくださいね。
*バターについて
バターは鍋に入れて溶かします。塊のまま入れてしまうと全体が溶けないまま焦げてしまったりするので、適当に小さく切って投入します。カラメルソースなどと違って、ヘラでかき回しながら溶かしてOKです。そして忘れちゃいけないのが、溶かし始める前に水を入れたボウルを用意しておくこと。加熱はある一定を超えると、火を止めても余熱でどんどん進みます。そのせいで焦げすぎてしまうことも。良い状態になったら鍋底を水につけて温度を下げます。溶けたバター自体が薄い茶色に色づき、沈殿物が出るようになったらOKです。こうやってバターを焦がすことで香ばしい風味がつきます。アーモンドプードル入りの生地によく合います。
*スパイス
生地にはジンジャーとカルダモンを加えています。最初に試作した時はシンプルな金柑のフィナンシェだったのですが、もう一つ風味が欲しいと感じました。寒い季節の方が味に深みが欲しいと思うからでしょうか?クリスマスシーズンでスパイス入りのお菓子をたくさん食べていたからかもしれません。ただ、今回のスパイスはジンジャーとカルダモンで、クリスマスの香りともハロウィンの香りとも違います。なんとなくこのお菓子にはシナモンじゃない!と思ったのです。個人的には金柑と2つのスパイスの組み合わせがすごく気に入りました。毎年作って、私の冬のお菓子の香りにしたいと思っています。私、カルダモンが好きなんだなと最近気づいてきました。夏のお菓子にも使っていたし。今後もカルダモンをいろいろなお菓子に試してみたいな。
*金柑は中にも上にも
金柑のコンポートはポイントになるように真ん中にものせていますが、細かく刻んだものも中に入っています。量だけを見ると、刻んだものが少ないように感じるかもしれませんが、フィナンシェの生地はそこまで膨らまないのでこのくらいでも十分。どこを食べても金柑の風味がしっかりします。このあたりの具材のたっぷり感はやはり手作り(原価を考えない!)だからこそできる贅沢。今回は上にのせる金柑を裏と表を半分ずつのせてみました。どっちもかわいいのでお好みで。
そうそう、フィナンシェには膨張剤的なものも入っていないし、泡立てもしていないので生地はそこまで膨らみません。なので型には9分目まで入れるのが目安です。
*仕上げ
そして、焼きっぱなしもかわいいのですが、今回はちょっとおめかしスタイルにしています。
焼きがったらまずはコンポートのシロップをコンポートの上に塗ります。こうするとツヤツヤ。キラッと輝きます。シロップがしゃばしゃばすぎる場合はもう少し煮詰めてくださいね。
そして適当な幅に切った長めの紙(今回はオーブンペーパーを使いましたがコピー用紙でも)をフィナンシェの真ん中にのせます。上から粉砂糖をふって、そっと紙をはずします。紙をのせる場所=粉砂糖がかからない場所です。ツヤっとした金柑部分には粉砂糖がかからない方が映えそうなので、私は真ん中に置いています。これはお好みで。紙をはずしたら、刻んだピスタチオを散らします。
もちろん、焼きっぱなしでも素朴な感じでかわいいのでそのままでも。
ティータイムへようこそ
さ、おいしいお茶を入れてティータイムです。黄色やオレンジをアクセントに散りばめたテーブルにフィナンシェも並べます。おめかししたフィナンシェは箱に入れてお土産にしても素敵なはず。テーブルにはコンポートをのせたヨーグルトも並べてみました。お茶は BELLOCQの紅茶。黄色の缶がかわいい。
フィナンシェの真ん中にのせたコンポートはキラキラと輝いてまるでブローチみたい。春を待つ、冬のお茶会の主役はこのお菓子で。香りと風味を楽しみながら、熱いお茶とともにいただきましょう。
金柑は3月くらいまではお店に並んでいます。ぜひこの時期ならではの香りとおいしさを味わってみてください。コンポートだけでもぜひお試しください。
【Photos : Sayaka Sawada】