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本棚と恋の相関

本屋でよく初デートをする。相手がどんな本を手に取ったり、どうやって本を選んでいるか、どんな本を私に勧めてくるかで、相手のことを評価してしまう。マッチングアプリで出会った人と、映画に行くことになって、観終わった後に私が映画の構成に対して批判的な発言をしたら、批判を言う人間が嫌いだったみたいで結構引かれた。その後、本屋に寄ることになって、彼がひろゆきの『1%の努力』を買っているのを見て微妙な顔をしてしまってそれで完全に嫌われて、その後一切連絡がない。結局、私もkindle unlimitedでひろゆきの『1%の努力』を10分くらいで一気に読んだがいいエッセイだったなと思ったのであの時嫌な顔をして申し訳なかったと思う。でもなんか女性と本屋に行ってカッコつけようとか思わないというのはすごいですよね。私なんて、男の人と本屋に行ったら多分カッコつけてしまうので、ビジネス書とかインフルエンサーが書いた本とかは絶対手に取らないようにして、出来るだけ自分が深く語れる本の周辺に行ってしまう。

研究室の先輩が、「時田さんは休日何をしているの?」と聞いてきたので、「漫画喫茶に籠ったりしています」と言ったら、「一緒に行きたい」と言われたので連れて行ってあげたことがある。私は漫画を読むと言ったら本気で漫画を読むので10時間くらいぶっ通しで約20冊読んだけれど、隣にいた先輩は、『ちいかわ』をパラパラ読むかスマホをいじっていて退屈そうにしていた。私は、漫画すら集中して読めないなんてダメな人だなと思って、彼が構って欲しそうに話しかけてきてもほとんど無視して冷たい態度をとってしまった。自分でも、一緒に漫画喫茶に来た男の人が『ちいかわ』しか読まないだけで不機嫌になるのは良くないと思うのだけれど、この気持ちはどうしようもないのである。どうして不機嫌なの?と聞かれたけれど、多分説明しても伝わらないなと思うので、伝えることもできない。なんと伝えればいいのかしら。強いていうなら、世の女性が男性に対して「私のこと好きなら飯奢るくらいはカッコつけろ」と思うのと同様に私は男性に対して「私のこと好きなら集中力や知性を見せつけてくれや」と思うのである

(誤解のないように、『ちいかわ』は私もネットで読んだが良い漫画だった)

大学の同期の女友達も、最近彼氏と別れたのだが、「もっと本を読むことの価値を理解してくれる人がいい」と言って別れていた(それが別れた主な理由では全くないが)。彼女は、本が人の人生に与える影響は大きいものだと信じていると言った。じゃあどの本が一番あなたの人生に影響を与えたの?と聞くと、彼女はユン・チアンの自伝『ワイルド・スワン』を一番初めに挙げた。読んでみた。とんでもなく面白い。三体より面白い。上中下巻あるのだけれど、中巻の半分まで一気に読んでしまった。なんとなく昔の中国の辛くて苦しい話かなと思って読んだが、文字通り死にそうなくらい辛い時期と希望が見える時期が交互に来て、こんな、国と一緒に生死を彷徨う人生を生きている人間からしたら私の人生なんて人生とは言えないよなと思った。あまりにも自分の人生は平和で、そのために他人との比較くらいしかやることがなく悶々としていて、暇を埋めるために変なもの(趣味や推しや恋愛)に依存しなくては自分のご機嫌も取れず、毎日がつまらなさすぎる。革命起こしたい。戦争が好きな人の気持ち少し分かる。さすがに戦争反対だけど。確かに、『ワイルド・スワン』は自分の人生を強制的に俯瞰させられるような本だった。彼女の元彼も本を読む人ではあったが、彼は自分の専門の本しか読まないのでそれは“本を読んでいる“とは言えない。

私の元恋人にも、趣味は何か?と聞かれると毎回必ず「読書」と答える人がいたけれど、それは結構な嘘で、「今読書中」と言って読んでいる本の90%が数学書か物理学書でA4のノートに書き写しながら読んでいるのであった。数学書や物理学書をcampusノートに書き写しながら読むのが趣味な人間は、趣味は何ですか?と聞かれたら「読書」と答えて一体いいのだろうか。他の言い方をしないと嘘になるのではないか。確かに残りの10%は数学書物理学書以外の本を読むのだが、古典しか読まない。古典しか読まないと言うのも逆にどうなのだろうか。彼が古典を読んでいるときに、私が感想を求めても、「すごく面白いよ」「これは本当に傑作だね」しか言わないし、普段も深い思考をする人間ではない。彼は逆にカッコつけすぎだと思う。数学書と物理学書は本気で読みたいから読んでいるのだろうけれど、古典を読むのは多分ファッションだと思う。実際に、家に何百冊もド名著の古典文学が本棚を埋め尽くしていて(ほぼ積読)圧巻である。かつてエリート男喰い日記で名を馳せていた暇な女子大生(暇女)が、東大生の家でセックスしているときに本棚に並ぶ六法全書を見ながら逝ったという話があった気がするのだが、私は彼の家に初めて行ったとき、数学書物理学書化学書生物学書、そして文学の古典がズラーっと並ぶ圧巻の本棚を見て完璧に恋に落ちたのであった


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時田桜
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