小学生専門家庭教師が考える「子供に勉強をさせる方法」
※この文章は就活のときに書いたESを元に書き直してみたものです。
私は大学入学後してすぐ、小学生専門で家庭教師という仕事を5年間行っていたのだが、かなり人気だった。本業(大学生)がありながらも週5,6は家庭に訪問し、新規は基本的に断るという程度の人気だ。
通常、家庭教師の実績というと、所属大学や教え子の進学実績を挙げると思うが、私は自身の一番の実績をあげるとしたら、「私が家庭教師をしに行った場合、その教え子の妹や弟の家庭教師も100%の確率で頼まれたこと」を挙げる。また、ママ友同士の口コミで紹介してもらえることも多かった。(親御さん自身の家庭教師を頼まれることすらあった)
なぜ人気になったのか?
それは、小学生の家庭教師を初めてすぐに親御さんからインサイト(深層心理)に気が付いたからである。
小学生専門の家庭教師と聞くと、小学生に勉強を教える仕事だと思われるが、本当に大変なのは勉強を教えることではなく、勉強をさせることである。高校受験や大学受験の場合は、本人が主体性を持って勉強しているので、家庭教師のメインの仕事は、分からないところを教えたり勉強計画を立てることである。一方で小学生の場合は、主体性を持っていない場合が多い。口では「中学受験したい」と言っていても、(親は中学受験することを望んでいそうなのに)「塾をやめる」と1人で決断する方が難しいからそう言っているだけのことが多い。そんな状況なので、親御さんたちは私に「子供に勉強を教えて欲しい」と表向きには依頼してくるけれど、実際にはそこに「子供が主体的に勉強するようにして欲しい」というインサイトが潜んでいる。
少し考えれば分かることだが、基本的に、大手学習塾に通えば情報量やカリキュラムとしては十分すぎるくらいのものが手に入るのだ。私が教えていた子供のほとんどは既に塾に通っていてその上で私は雇われていた。私は大手学習塾と比べれば圧倒的に学校の入試情報や受験者のデータ、綿密に構成されたカリキュラムを持っていない上に、子供達を集めて競争環境を用意することも出来ない。そう考えると、塾では得られないものを私は与える必要があったのだ。それが、「子供が家でも主体的に勉強するようにすること」だった。
では、どうすれば子供は家でもちゃんと勉強してくれるのか?
一番簡単なのは、見張ることだ。よそから雇われた東大生という肩書きを持つ勉強に厳しそうなお姉さんに見張られて緊張感を持って課題に臨めば、普段家でやる気が出ない子もその場では手が動くだろう。しかしこれだと私がいる時間以外に勉強するようにはならない上に、ただでさえ、詰め込みスクール(cram school;塾)や親からの圧力で疲れているのに、余計疲労し、勉強が嫌いになってしまう。主体的に勉強するという状況からは遠い。
私はやっぱり、勉強を少しでも好きになったり楽しいと思えるようになったりすることで、ただ「子供が家でも勉強する」より一歩先の「子供が主体的かつ長期的に勉強するようになる」ことに繋がるという仮説のもとに仕事をしてきた。そしてその仮説は、人気という形である程度証明された。
では、子供に勉強の楽しさを伝えるにはどうするか?
勉強の楽しさを伝えるために、私が家庭教師の仕事として行なっていたことを一言で述べると「仲の良いお姉さんが楽しそうに勉強している姿を見せる」ということだ。そしてそのために必要なのは、
子供から好かれる
私自身が楽しそうに勉強をする
この2点に尽きる。子供は、仲のいい友達が楽しそうにやっていることを自分もやりたいと思う。私は先生なので完全に友達にはなれないが、好かれて尊敬される存在になることでロールモデルにはなれる。また、自分が勉強を義務みたいにやっていたらそれは子供に伝わるので、私自身が主体的に勉強する姿勢を見せないといけない。
「桜先生、今日メイクしていない〜」
男の人とデートする時は日焼け止めと眉毛を描くだけで最悪いいけれど、小学生女子と会う日はちゃんとメイクしないといけない。
なぜなら、子供にメタ的な思考などないので、普通に見た目差別してくるからだ。肌が白くてニコニコしていておしゃれなお姉さんの方が子供は好きなので、そうする。まず見た目で好かれないと、ロールモデルとして認知してもらえない。
「お姉ちゃんが桜先生と勉強しているのを見て、妹の方もどうしても桜先生と勉強したいといって聞かず……。まだ幼稚園児なので公文でやってる足し算とかなのですが、次回1時間追加で見てもらえないでしょうか」
こういう言葉をもらえたときが一番成功しているように感じて嬉しい。小さい妹から見て、私と姉が勉強しているところがとても楽しそうに見えたということだからだ。
勉強を楽しむというのは具体的には、算数だったら解答に載っている以外の解き方を一緒に考えたり、生物だったら図鑑で一緒に調べたり、歴史だったらyoutubeや大河ドラマや漫画を一緒に鑑賞したり、雑談中に一緒に小学生新聞を読んだりする。私は算数が得意なので当初は算数だけを教える予定だったが、一緒に勉強するのならどんな科目もできるので、その時に子供が勉強したい(しないといけない)科目を優先させていた。むしろ、歴史や生物などの暗記科目が私は(好きだけど)苦手なので、子供から教えてもらうこともあった。
「忙しいとは思うのですが、隣で先生自身の勉強をしているだけでも良いので来てください」
このように依頼されることも多かった。それは、私が大学の勉強を自分の意思で取り組んでいる様子を隣に置いておくだけで子供には刺激になるからだ。
勉強していない大人が子供に「勉強しなさい」と言うのでは全く説得力がない。私は大人が隣で勉強することも大切だと思っている。それに加えて子供が問題を解いている間などは普通に暇なので、隣で大学の課題に取り組むのはWin-Winだった。
「勉強を教えるのは半分でいいのであとは一緒に遊んであげてください」
私が特にここで意識していたのは、休憩中も勉強と同じくらい楽しそうに全力で遊ぶということだ。その時々によるけど、TVゲーム、ボードゲーム、ドラマ鑑賞、逆上がり、スケボー、バスケ、TikTokを撮る、TikTokで見た工作をする、昆虫やハムスターに餌をあげる、ピアノを弾くなど、全部全力でやる。その延長で、勉強も遊んでいる時と同じくらい楽しそうに全力でやることで、子供から見て勉強も遊ぶのと同じくらい楽しいかもしれないと思わせるようにしていた。
総括すると、私が考える「小学生に勉強させる方法」とは、「子供と目線を揃えて楽しく学ぶ自身の姿勢を共有することで、自分自身をロールモデルとすること」だ。小学生は、友達が楽しそうにやっていることをやりたくなる。それは、友達でなく仲のいいお姉さんでも当てはまると言うことが、家庭教師の経験を通じて学んだことだ。
院進して研究に全ての時間を捧げるようになると大学から給料が出るようになったので家庭教師はやめてしまったが、これまでの仕事の中で一番天職だった。そう思う最大の理由は人気だったこともあるが、私自身も小学生の家庭教師をしていて全く苦痛を感じなかったからだ。むしろ自分の得意なことを自然に行うことによって存在価値が認められるこの仕事をしている間は、人生の休憩時間だとすら思えた。
私がここで考えた「子供に勉強させる方法」はかなり当たり前のことだ。しかし、その当たり前を実行するには、子供に好かれる能力と勉強を楽しむ能力が必要であり、人によっては難易度の高いことかもしれない。