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No. 4. 推して、学んで、楽しんで(劇団雌猫監修「世界が広がる 推し活英語」)

 大学3年のとき、3か月間オンライン英会話に通っていた。先生はフィリピン出身の女性だったのだが、どうもウマが合わなかった。問題に間違えると「どうして分からないのか」とキレてくる。分からないからレッスンを受けているのに。気の長い私は訳を調べて後日英語でキレ返した。

 お金を払って英語で喧嘩をし続けるというのはよく分からない話だが、3か月たってみると、不思議なことに日常会話程度ならなんとか話せるようになっていたのだ。おそらく、心を込めて話したフレーズは心に残るということだろう。本書は「心を込めて英語を覚える」という意味でまさに珠玉の1冊となっている。イチオシの相手、いわゆる“推し”に対する思いを伝えるという行為は恐ろしく心が乗っている行為だからだ。

 構成は「推し活必修単語」に始まり「推しに想いを伝えるフレーズ」「オタ友との交流に使えるフレーズ」「運営とのやり取りに使えるフレーズ」「海外遠征でのお役立ちフレーズ」とかなり幅広い。単語の選定は正直私が推し活に疎いため正確な判断はできないが、そのニッチさ故かforeshadowing(伏線)などかなりハイレベルなの単語がいくつか収録されている。

楽しみ方① 推しへの想いを伝える、さらには英語力UP


 本書は見方を変えることで様々な楽しみ方ができる一冊だと思う。まずは、おそらく本来の目的である推し活の幅を英語圏に広げるための1冊として、さらにそこから英語力強化にも繋がると思う。

 確かに、単語こそとんでもないレベルのものがいくつか混じっているが、目次からもわかる通り収録されている場面の幅はかなり広い。そのうえ、英検準二級によく出るrecognizeやTOEICのpart1で見たことがあるbannerなどいわゆる実用英語でも使える単語やフレーズもある。

 さらにコラムとしてファンレターの書き方というライティング講座なんてのもある。英語学習なんて結局やる気の問題に繋がるところが大きいので、遠回りであってもこういった本で英語を学習するのは悪くないとおもう。

楽しみ方② 推しの文化を楽しむ


 また、別の楽しみ方として推しの文化を楽しむための1冊として用いることもできる。本書を読んで気づいたのは、推し活には宗教で使われる用語が多く流用されていることだ。本書に収録されているフレーズには聖地巡礼(pilgrimage)や祭壇(merch alter)、布教する(plug)など一般に宗教で用いられる単語が多くみられる。

 本書では宗教観の強い海外の人たちと交流する際、誤解が発生しないように適切な訳が施されている。また、表現も全体としてフランクである。これは推し活を楽しむ年齢層を考えての事だろう。SNSで使える略語も多数収録。個人的に好きな略語はngl(not gonna lie)、意味は「嘘じゃなくて、マジな話」

楽しみ方③ 翻訳の奥深さを堪能する


 さらには日本語訳と英語訳を比べることで、翻訳の奥深さを堪能することができる。たとえば「なんでそんなにかわいいの?」の英訳は“You’ re so cute I can’t take it.”となっている。英訳を日本語に直すと「かわいすぎて耐えられない」。なるほど、「なんでそんなにかわいいの?」という人は本当にかわいさの理由を聞きたいのではなく、かわいさを称賛したいということか。

 このように英和の訳を比較することで、その翻訳の難しさに驚嘆すると同時に、言葉の本意を考えるきっかけになるだろう。本書を読めば普段の生活では気にも留めなかった言葉ひとつひとつを立ち止まって考えることができる。


 西きょうじの参考書「英文読解入門 基本はここだ!」には“Speaking only one language can be compared to living in a room with no windows and no doors.”という例文が掲載されている。意味は「言語を一つしか話さないことは、窓もドアもない部屋で生活することにたとえられる」本書は英語と日本語をつなぐ窓にも、推し活文化とをつなぐドアとなる1冊だ。


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