美しき「わからない」を求めてーちいさな美術館の学芸員『学芸員しか知らない美術館が楽しくなる話』
私は美術館が好きです。隣町の美術館の年間パスポートを持っていますし、近くに美術館があったら基本立ち寄ります。しかし時々考えるのです。
「どうして私は美術館に行くんだ?」
私は壊滅的に絵がヘタクソです。絵の知識もありません、モネとマネの違いは分かりませんし、キュビズムは名前がカッコいいから音を覚えているだけで意味は知りません。
もしかしたら答えを見つけられるかも、私は本書を手に取りました。結論から言うと、本書に先ほどの問いに対する答えはありませんでした。しかし、本書のおかげでこの問を愛せるようになりました。
本書は実際に美術館で学芸員として勤められている著者がタイトルの通り、美術館の魅力を紹介した本で、展覧会ができるまで、仕事の舞台裏、美術館を楽しみむためのヒント、美術館を支える仲間たちの全4章で構成されています。
本書の魅力は大きく2つ。1つ目は美術館が広がって見えるようになるということ。時間つぶしにふらっと立ち寄った美術館、テクテクと歩き、数枚の絵だけじっくり観察する。しかしその裏には企画、準備、手配と通常1年以上の時間がかけられているんだとか。さらに国宝級の作品を展示する場合は2~3年の時間が必要とのこと。恐ろしい…。
また企画展の準備だけでなく、研究も行う学芸員さんのお仕事を知ることで展示品だけでなく、美術館そのものに愛着が湧くようになります。さらにさらに、本書ではパンフレットなどを作成するデザイナーさんや配達員さんの仕事ぶりが紹介されています。1枚の絵のためにどれだけの人が関わっているかを知ることで、遠い昔に書かれた古い絵にも新たな命を感じられます。
そして何より、本書最大の魅力と感じたのが「美術館を楽しみためのヒント」です。
特に印象に残った個所を引用します。
思い返せば今までの人生は「分からない」から逃げ続けて来たように感じます。大学入学までは「分からない」は悪とされ、大学の研究活動において「分からない」は打破すべき敵だったのです。
仕事ができる人とは?良い会社とは?良い人生とは?
しかし社会人になると、答えのない問いに仮置きでも何か正解を置かなければなりません。速度が大きくなり過ぎた現代において、「分からない」を放置することはもはや贅沢となってしまいました。だからこそ、「分からない」をそのまま抱きしめられる美術館は私たちを魅了するのかもしれません。
「でも別に、困惑するためだけに美術館に行っている感じもしない」確かに本書の紹介するヒントは納得こそしましたが、「どうして私は美術館に行くんだ?」に対する完璧な回答ではない気がします。
でもいいや、分からなくて。今週末はどの美術館に行こうかな。
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