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第3夜―恐怖から生まれる優しさ(芥川龍之介「白」 文鳥文庫全部読む)

文鳥文庫全部読むシリーズ、3作品目は芥川龍之介「白」です。

この作品は知りませんでした。芥川龍之介の作品ということもあり、少し文体が古く、読みにくいところがありました。

しかし、読み終えてみると「どうしてこんな面白い作品知らなかったんだ!」と驚きました。

今回はそんな「白」から、僕が最も共感した「恐怖から生まれる優しさ」について書いていこうと思います。

あらすじ

白という真っ白な飼い犬がいました。
白はある日、犬殺しが友人の犬である黒を襲おうとしているのを発見します。
「危ない!」と声を掛けようとしましたが、恐怖で逃げてしまい、家に着くと白は真っ黒になっていました。
真っ黒になった白は飼い主に白だと気づいてもらえず家を追い出されます。
ひとりで東京を歩く日々でしたが、いじめられた犬の声をきっかけに白は人助けを始め新聞を賑わせます。
そして、ある日・・・
(筆者が作成)

今回も短編の肝であるオチは省略しました。正直、この作品は結末を楽しむというより白の心境の変化を追うのがメインだと思いましたが、気になる方は青空文庫等で無料で読めるのでぜひ読んでみて欲しいです!

恐怖から生まれる優しさ

今回最も共感したのはタイトルにある通り、白が抱いた「恐怖から生まれる優しさ」です。

あらすじにもある通り、真っ黒になった白は人助けをします。しかし、人助けをした理由は前向きなものではなさそうです。

「お月様! お月様! わたしは黒君を見殺しにしました。わたしの体のまっ黒になったのも、大かたそのせいかと思っています。しかしわたしはお嬢さんや坊ちゃんにお別れ申してから、あらゆる危険と戦って来ました。それは一つには何かの拍子に煤(すす)よりも黒い体を見ると、臆病を恥じる気が起ったからです。けれどもしまいには黒いのがいやさに、――この黒いわたしを殺したさに、あるいは火の中へ飛びこんだり、あるいはまた狼と戦ったりしました。(芥川龍之介,「白」より引用,ルビおよび強調は筆者が加えたもの)

人助けをした理由、それは自分を殺したいというかなり自傷的なものだったんです。

このような行為は、外の人たちから見れば「人助けをした勇敢な犬」と受け取られます。しかし、本当はそんなかっこいい理由じゃなくて自分が嫌いだから人を助けたんです。

こんな白を見ているとどうしても自分のことを考えてしまいます。

恐怖で練習を続けた塾講師のバイト

僕は大学入学時から塾講師のバイトをしておりました。

僕が所属していた塾では授業前、先輩の先生にどのように授業を進めるか、板書はどのようにするかを紙にまとめて提出しなければなりません。

バイトを始めた当初は「生徒のためになる授業をしたい!」と結構マジメに思っていました。しかし、この授業計画の提案が恐ろしい。

「この板書意味分からない」「ダメ、分かりにくい」

こんなことをバシバシ言われるわけです。お金を頂いている以上当然の苦労なのですが、僕にはこの時間が恐怖でしかありませんでした。

なので僕は逃げるように授業計画を練り続けました。当初の「生徒のためになる授業をしたい!」なんて輝かしい理想はホコリを被っています。

ですがそんなことをしていると授業の腕がメキメキ上がりました。

講習会のアンケートでは何度も1位になりました。恐怖で練り続けた授業が結局は生徒のためになる授業に繋がったわけです。

こんな僕は外から見れば「分かりやすい先生!ありがとう!」となるわけですが、本人としては「先輩の先生に怒られるのがいやだっただけ」というまさに白のようなジレンマを抱えるわけです。

結局、恐怖から生まれた優しさを恥じる必要はない

と、いった感じで、恐怖から生まれた優しさについて話してきました。

僕以外の人が同じようなジレンマを抱えたことがあるのか分からないのですが、結論として恐怖から生まれた優しさを恥じる必要はないと思っています。

実際、芥川龍之介の「白」では白の活躍によって多くの人が救われました。

僕の授業で、限りなく微力ながらも「ためになった」と言ってくれる生徒がいたわけです。

だったらそれでいいじゃないですか。人に言わなきゃバレやしません。どんどん逃げて、どんどん優しくなればいいじゃないでしょうか。

ただし、途中で見放すのは厳禁。自分の都合でやさしくなるのが一番タチ悪いですからね。



今回の作品は物凄い共感してしまいました。次回もこんな作品に出合えるといいですね。楽しみです。


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