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愛するということ|成人式で5年越しの再会

どこにもいない。

連絡先も知らない彼との再会を、心待ちにしている自分に気がつきました。

式場を見渡してもやっぱり見つからない。

外の広場には写真を撮り合う新成人たち。
そこにも彼はいませんでした。











夜の同窓会に、彼は姿を現した。

スーツ姿をまったく直視できるはずもなく、横目でさりげなく彼の輪郭を捉えていました。

男女で真っ二つに分かれてしまった会場で、話しかける勇気はありませんでした。

友達と喋って、ただただ時間が過ぎるだけ。
烏龍茶は3杯目。

でも、ここでもし話すことができなかったら、一生話せないかもしれない。

そう思うと、不思議と行動できてしまうもの。

「あの、彼と話したいんだけど」

彼と仲がよかった男子に声をかけました。
人の波をかき分け、ようやく本人にたどり着きました。

久しぶりって声をかけた。

『ちょっと外で話そっか』









彼の話に、ついていけない私がいました。

噂では聞いていました。

高校を中退した彼が、今では人一倍立派になったこと。

『急に仕事が入ってさ。式、出たかったのにな』

ねぇ、話し方がそこらへんの大人みたいだよ。

背が伸びたね。
お酒、飲むんだね。
お仕事がんばってるんだね。

嬉しさと、悔しさと、尊さと…自分の中に熱いものが込み上げてきました。





中学の頃の彼は、夜になっても帰らない。

塾にもいない。

体育以外オール1の不登校。

そんな男の子が、ここまで変わってしまった。







でも、変わらないものもあります。

落ち着きのない喋り方。

ニカっと笑うその笑顔。

わたしを名字で呼ぶところ。

全部あの頃のまま。



そしてもう一つ。

「今すぐにじゃなくていいけど、付き合いたいと思ってる。やっぱまだ好きだから。別れてから俺、彼女できなかったんだよ」

そう言われて、自分がどんな反応をしたのか、覚えていません。

5年間誰かを想い続けるなんて、そんなことありえるのだろうか…。


でも、本当なんだよね。

嘘をつけないところ。

人情深いところ。

まっすぐで正直なところ。

そんなあなたの生き方が、いま届けてくれた言葉とぴったりで、嬉しい。

これほど魅力的な人になってくれていることが、どれほど私に勇気を与えているか、わかるかな。

彼を見守り続けてくれたお母さんお父さんを思うと、また涙が溢れてくる。

ほとんど口を聞けなかったお父さんと、仕事の話ができるようになった。

お母さんやお姉さんとの会話も増えた。

そんな話を聞けたことが、すごく嬉しかったのです。



『今彼氏とかいるの?』

「うん、まぁね」

私の返事を聞いて、彼は言いました。

『今だれのことを好きでも、他のやつと恋愛をしても、〇〇の自由。だけど、5年後とか10年後、また会った時、仕事の話したりしてさ。〇〇の準備が整ったら、そのとき告白しようと思うから』

不意に泣きそうになりました。

まっすぐな気持ちへの嬉しさと、こんなことを言えてしまう彼への尊敬の想いと、こんなにも素敵な人と出会えたことへの感謝。

空白の5年間、それぞれ互いに何があったのかを、私たちは知りません。

なのに、そこまで言い切れる強さ。

私はちょっと怖くなりました。

彼の中の私のイメージは、一体どれくらいすごい女性なのだろうと。

あなたが想像するほど、優しくないし、心も美しくない。

現実とのギャップに絶望されないだろうかと、怖くなりました。

だけど、私にどう思われようが好きでいると決めたあなたに、私の心は洗われたのです。

人を信じること。

人を愛すること。

人に見返りを求めないこと。

はじめて、本当の愛というものを目の当たりにした感覚でした。



希望が持てた。

ひとりじゃないと思えた。

ありがとう。

人生は、思いがけない奇跡の連続。

出会うべき人と出会えるように、きっと世界はまわっています。



さくら

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さくら
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