【詩】老ペトリコールの憂鬱と解放
仰ぐなら黄色のステッキを突いてまっすぐに
美柱に落ちる雫の陰りにも頭を下げる
あの日きみと歩いた秋の匂いがする
まるで怒りを忘れ葉の腐る温もりの中
契った肉体と融合した精神の彼方に
吹き飛ばされてもそこにある
秋
仰ぐなら群青のステッキを翳してよろよろと
眉中に落ちる雫の輝きと共に輝く
あの日きみを愛した夏の匂いがする
それは痛みとともに葉の茂る熱波の中
悶える肉体と分裂した精神の彼方から
生きて生きてただ生きてここにある
夏
仰ぐなら漆黒のステッキを振り上げて止まり
美宙の満天より来る雫の冷たさの外に凍える
あの日きみと臥床る春の匂いがする
どこまでもただ暗闇とともに伏し葉に吸われ
埋められた肉体と忘却された精神の彼方から
病みそして病み病み続けてただここにある
春
仰ぐなら黄金のステッキを握りしめて震え
媚虫の変化した醜悪な雫を浴びて喘ぐ
あの日きみと狂った冬の匂いがする
あの強烈な感覚がまだ生々しく蘇るこの今
狂熱に踊り耽る肉体と破壊された精神の狭間
あの瞬間だけにあった今が再来しここにある
冬
ああ
ああ
私はこの懐かしさを抱きしめたままきっと
きみのいない今を雨が濡らすたび
いろとりどりのステッキを選びながら
まだ生きていこうと思う
枯葉よ力を
枯れてこその力を私に
雨は
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