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陰鬱なゴッサムに戻りたくなる「THE BATMAN」感想

※この記事は決定的なネタバレはしていませんが、ストーリーについて多少言及していますのでご注意ください!


「DC映画は暗くて長い。」どこかで聞いた言葉だ。まさにそうであって、一昨年アカデミー賞に多数ノミネートされた「ジョーカー」もそうだったし、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのMCU作品と比べると、DC映画はまさにその対極に位置し、独自路線を貫いている。
(まあシャザムあたりは明らかに意識してそうだけど…)

しかし、先週公開された「THE BATMAN」は、「ジャスティス・リーグ」をはじめとしたDCヒーローの一大絵巻、「DCエクステンドユニバース(通称DCEU)」ともまた別物らしく、単独の独立した映画であるらしい。

ユニバース構想は本当にアツい。
「あのヒーローが共闘する」「ここで伏線が回収される」と言ったファンにはたまらない要素がカタルシスを生むが、今は少し食傷気味なのも否めない。
だから1本でガツンとインパクトを与えてくれるスーパーヒーロー映画を渇望してたし、今作のバットマンはそんな私の欲望を満たしてくれる、ボリューム満点の重厚な映画だった。
まあそもそもスーパーヒーロー映画って元はそういうものだったんだけどね。

近年のバットマンと言えば、名作と名高い「ダークナイト」に代表されるノーラン3部作が思い浮かぶ。しかし、今作はノーラン以上に現実的で、アクションも少なめ。淡々と物語が進んでいく。
原作のバットマンが実は"探偵モノ"なのはファンの中では有名な話らしい。
そして、今作は紛れもなく原作に忠実な探偵モノであり、等身大の"人間"であるバットマンが楽しめるサスペンススリラーになっている。

復讐に囚われたブルース

本作は主人公であるブルース・ウェインがバットマンになって2年の月日が経った設定だ。
彼は未だに両親を強盗に殺された復讐心に囚われていて、街のゴロツキどもに日々制裁を加えている。
ブルースといえば、お金持ちで社交的なイメージがあるが、今回のブルースは表面でも相当暗い性格で、なんならバットマンとさほど変わらないほど根暗である。語弊があるが、青春をこじらせた厨二病の少年にも見えてくるほどだ。
まだ若い彼は、自分が何をすべきかわからず、ブツブツと独り言を言って悩んでいる。
そんなブルースの苦悩の日々が露わに描かれている。
「復讐心をどのように乗り越えていくか」本作の真のテーマだと思った。

バットマンを演じるのはロバート・パティンソン。「TENET」でのニールが記憶に新しい。
今までのマッチョなバットマン像とはまた違うが、この暗くて今風な役にマッチしていると私は思った。

リドラーのキャラがイイ

そして今回のメインヴィランである知能犯リドラー。
相当怖い。最初の登場シーンはまるでホラー映画だ。
目がバッキバキだし、ジョーカーに似た「何をしでかすかわからない恐怖」がある。反面、殺人現場を動画配信したりする今風の犯罪者でもある。
「バットマンフォーエバー」でジムキャリーが演じたリドラーとは真反対だ(あっちのリドラーも相当狂っていたが…)
小ネタかもだが、リドラーがかけていたメガネが当時と同じ透明なフレームだったことが少し嬉しかった。

演じているのはポール・ダノ
「スイス・アーミーマン」のアノ人だと知って驚愕。
スゴイ当たり役、笑顔がサイコパスっぽくていい味が出てる。ジョーカーもそうだけどDC映画のヴィランは笑顔が印象的なヴィランが多いね。

本作は、リドラーが殺人現場に置いていった"なぞなぞ"を解いていく謎解きパートが複数あるが、日本人である私には英語の謎かけが分かりづらく、イマイチしっくり来なかったのが歯痒かった。まあこれはしょうがないけど。

登場人物ではゴードン刑事を演じたジェフリー・ライトも最高だった。
バットマンに振り回される過去一カワイイゴードン刑事…

夢も希望もないゴッサムの魅力

本作の舞台でもあり、バットマンシリーズお馴染みの「ゴッサムシティ」
犯罪が蔓延り、霧が立ち込めて陰鬱としている。
今作のゴッサムの雰囲気もとてつもなくダークで雰囲気最高だ。

なにしろ劇中のほとんどが夜のシーン。暗い!本当に暗い!
私はIMAXで見たが、むしろ黒が映えるドルビーシネマのほうが作品の真価を発揮しそうだと思った。
カーチェスの爆音はIMAXでも相当凄かったけど。心臓にダイレクトに響いた。


そして音楽。Nirvana「Something in the way」が何度か劇中で流れる。
やるせない歌詞がバットマンをはじめ、ゴッサムに生きる人たちの心情にリンクする。
そしてメインテーマは2音で構成されていて「何故今まで誰も思いつかなかったのだろう」というほどシンプルなメロディ。
今後バットマンの新しいシンボルになりそうな、耳から離れないテーマだ。

生きていくには辛すぎるゴッサムの街、しかし映画を観終わった後も何故かゴッサムのことを思っている自分がいて、この街に戻りたくなる。
街の見せ方や空気感の出し方が秀逸な作品だと思った。

しかし、欠点もたくさんあった。
一番疑問だったのは終盤の戦闘シーン。
すっごく単調。ここまで凝ったカメラワークで引っ張ってきたのに、一番の見せ場がなんだか一昔前のアクション映画でよく見たことのあるような戦いで少し残念。

それでも、最後のあのアーカム・アサイラムのシーンにはやっぱり驚いた。
〇〇役が〇〇だなんて…
本当にこの映画絶妙なキャストだわ…

欠点はあるものの、退廃的なゴッサムの雰囲気は過去のバットマン映画で一番好きだ。
なんだかんだで続編も楽しみすぎる。

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