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有機農業は環境にいいのですか?

みなさま、こんにちは。坂ノ途中・研究員の小松光です。

この連載は、どうやったら環境に配慮した食事ができるのか、を考えています。前2回は、「お肉は控えめに」「できたら旬の野菜を食べましょう」という話でした。

今回から、有機農業の話をしようと思います。有機栽培の作物を食べることは、環境負荷を下げることにつながるのでしょうか? これは、坂ノ途中にとって重要なテーマです。この問いの答えが否定的なら、坂ノ途中はビジネスを考え直さなくてはなりません。

環境負荷にはいろいろなものがあります。温室効果ガスが排出されて気候変動が進む、という負荷もあります。あるいは、農地から流出した水によって川や湖が汚染されるとか、生物多様性が損なわれる、といった負荷もあります。

先月と先々月は、とくに温室効果ガス排出に注目して、「お肉の話」「旬の野菜の話」をしました。その流れを受けて、有機農業についても、温室効果ガス排出の点から見てみましょう。

というわけで、今回の問いはこれです。「有機栽培の作物を食べることは、温室効果ガス排出の削減につながるか?」

この問いを考えるために、「有機栽培とは何か」を知らなくてはなりません。有機栽培を定義するのは、実はあまり簡単ではありません。ですがこの連載では、「化学肥料や化学農薬を使わずに作物を育てること」と捉えていただいて構いません。

「化学肥料」という言葉も、簡単ではありません。ですが、それについてきちんと説明するのは、今度にしましょう。今日のところは、「工場などで、人間が化学合成して作った肥料」くらいに考えておいてください。化学農薬については、本連載では、「化学合成された殺虫剤・除草剤」くらいに考えていただいて構いません。

有機栽培の対義語は、慣行栽培です。慣行というのは、「ふつう」という意味です。慣行栽培では、化学肥料や化学農薬が使われます。

さて、有機栽培のイメージができたところで、問いに戻ります。有機栽培の作物を食べることは、温室効果ガス排出削減につながるのでしょうか?

あなたがいつも慣行栽培の作物を食べていたとします。そして、今日から有機のものに切り替えたとしましょう。食べる量は変わらないものとします。この切り替えによって、一般に温室効果ガス排出量が20%ほど減ります。

もちろん、有機栽培にはいろいろなものがあります。つまり、「有機ほうれん草」と一口に言っても、その栽培方法は一つではありません。ですので、あらゆる有機栽培で、慣行栽培より温室効果ガス排出量が少ないわけではありません。むしろ、温室効果ガス排出量が多いものも存在します。それでも、いろいろな場合を集めてきて平均をとってみると、有機栽培のほうが慣行栽培より、温室効果ガス排出量がやや少ないのです。

有機栽培で温室効果ガス排出量が少ない理由の一つは、化学肥料を使わないことによります。化学肥料を作るためには化石燃料が必要です。ですから、化学肥料を使うということは、間接的な形で温室効果ガスを排出することなのです。

以上が、「有機栽培の作物を食べると環境負荷が減る」と考える根拠の一端です。ですが、この20%という削減効果は、かなり小さいですね。先月と先々月を思い出してください。いわゆる赤い肉(牛肉、羊肉、豚肉)の温室効果ガス排出量は、野菜の40倍以上でした。温室で加温栽培された野菜の温室効果ガス排出量は、無加温の10倍程度でした。

それなら、別に有機栽培の作物を買わなくても、肉を減らしたり、旬の野菜を食べれば十分ではないですか? こう考えるのは、とても自然です。しかも、有機栽培の作物は値段がおおむね高いのです。そういう作物を、なぜわざわざ買う必要があるのでしょうか?

以上のデータだけからすると、私も、有機栽培の作物をさほどおすすめしたい気持ちにはなりません。「家計に余裕のある方が試してみる分には、いいのではないでしょうか」と思う程度です。そもそも、有機農業の意味がこれだけのものなら、私も坂ノ途中に勤めていないでしょう。

ですが、有機農業にはもっと積極的な意味がある、と私は考えています。そのお話を次回できたら、と思っております。それでは、また。

小松 光(坂ノ途中の研究室)


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