見出し画像

【ミステリーレビュー】真夏の方程式/東野圭吾(2011年)

真夏の方程式/東野圭吾

画像1

"ガリレオ"シリーズ3作目の長編となる、シリーズ第6弾。

あらすじ


小学生の恭平は、経営するブティックの新店舗開店の準備で両親が長期間出張となるため、玻璃ヶ浦にある伯母一家が経営する旅館"緑岩荘"で夏休みを過ごすことに。
また、海底鉱物資源開発の説明会にアドバイザーとして出席するために玻璃ヶ浦を訪れた湯川も、移動中に出会った恭平とのやり取りをきっかけに、緑岩荘に宿泊することを決める。
ところが、説明会の翌朝、緑岩荘のもう1人の宿泊客の男が死体で見つかった。
男は元刑事で、過去、玻璃ヶ浦に縁のある男を逮捕したことがある人物であることが判明。
警視庁捜査一課では、草薙・内海も調査に乗り出すことになり、玻璃ヶ浦の湯川、東京の草薙・内海と別れて情報を集めることになる。



概要/感想(ネタバレなし)


率直に言って、ミステリーとしては平凡。
あえて途中で読者が真相に気付くように仕向けている節もあり、中盤で大筋の背景は読み取れるため、驚きは少ない。
ただし、それでも圧倒的に面白かった。
シリーズを通して物理学者の湯川という人物像がはっきりしてきた中で、それまで苦手をされてきた子供との交流を物語の主軸に据え、湯川の魅力をいっそう高めたと言えるだろう。
真相が近づくにつれて息苦しくなる場面もあるが、湯川が自らの意思で事件に関わっていく新鮮味も手伝って、それ以上に続きが読みたくなる作品となっているのだ。

本作では、科学技術と環境保護の共存もテーマとなっており、玻璃ヶ浦の海を守るための環境保護活動に参加している恭平の従姉・川畑成実が、湯川と出会って考えを変化させていく姿も、丁寧に描かれている。
恭平と成実、湯川と出会った二人の成長譚としても、ラストシーンは美しかった。
海に花火、それに自由研究と夏休みらしいモチーフも多く使われており、映像作品としても見てみたくなる。
2013年に映画化もされているので、今更ながらチェックしてみようかな。



総評(ネタバレ注意)


悪人らしい悪人が出てこない(強いて言うなら、16年前の事件の被害者ぐらいか)話で、誰が犯人でも辛いという意味ではイヤミス的なのかもしれない。
最後、救いがある終わり方で本当に良かったな、と。

「容疑者Xの献身」の犯人もそうだったが、本作における仙波も、なかなかに献身的な愛を貫いたと言えるだろう。
一方で、川畑重治はどう評価しようか。
彼もまた、秘密を口にしないと覚悟を決めた人間である。
そのため、どうしてそのような行為をしたのか、については推測するしかなく、妻子の秘密を隠すために、と捉えれば、彼がやったことも立派な献身だ。
逆に、うすうす感じていたことではあったにしても、結果としてそれは事実だと突き付けた塚原への復讐、と考えてしまうと、見え方が少し変わってくる。
動機という点では、沢村のそれも弱く、これまた献身ととるか打算的ととるか、解釈がわかれそうなところだ。

印象に残るシーンは、ペットボトルロケットの実験かな。
その映像に何かが映っているのでは、なんて予想してみたが、これは完全に無粋な推察であった。
子供嫌いという設定を覆して、少年から慕われる博士となった湯川の姿なんて、誰が想像できただろう。
少なくとも、湯川が自ら首を突っ込んでまで達成しようとした目的は成し遂げたはず。
理系に目覚め、心の傷を克服した成長後の恭平が登場するスピンオフも読んでみたいところだ。


#読書感想文

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?