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【ミステリーレビュー】ガリレオの苦悩/東野圭吾(2020年)
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同シリーズの長編「聖女の救済」と同時刊行となった東野圭吾の"ガリレオ"シリーズ第四弾。
内容紹介
“悪魔の手”と名のる人物から、警視庁に送りつけられた怪文書。
そこには、連続殺人の犯行予告と、帝都大学准教授・湯川学を名指して挑発する文面が記されていた。
湯川を標的とする犯人の狙いは何か?
常識を超えた恐るべき殺人方法とは?
邪悪な犯罪者と天才物理学者の対決を圧倒的スケールで描く、大人気シリーズ第四弾。
解説/感想(ネタバレなし)
難解になりがちな理系ミステリーの中で、ひときわ読みやすさが保証されているのは、"ガリレオ"シリーズにおける短編集である。
情報は端的に伝えられ、推理小説としての過不足はなし。
考察と実験により真実を導き出すスタイルも、物理学の公式がわからなくても、どういうトリックが使われたのかが感覚でわかるように仕立てられている。
本作は「聖女の救済」と同時刊行ということになるが、こちらが第四弾、「聖女の救済」が第五弾という位置づけで、実際、文庫化もこちらのほうが1年ほど早い。
もっとも、ストーリー上でも明確に「ガリレオの苦悩」が先だとわかるのは、内海薫の初登場シーンであろう。
ドラマシリーズとの兼ね合いもあり差し込まれた若手の女刑事。
いかにもキャスティングありきの配役ではあったものの、「容疑者Xの献身」にて完結するはずだったシリーズが続編を生み出し続けるきっかけになったという逸話もあるようで、東野作品によく馴染んでいた。
書きぶりとしては淡々としており、テンポが良い。
それにより、あっという間に読めてしまう一方で、湯川や薫をはじめ、キャラクターの個性はよくわかる。
つまるところ、無駄がなくて面白いということだ。
インパクトがあるのは「攪乱す」なのだろうが、タイトルと直結するのは「操縦る」なのかな。
湯川の人間としての顔が現れているので、短編だからといって読み飛ばしていたのを後悔する内容だった。
総評(ネタバレ注意)
読んでいるうちは淡泊な作風に見えていても、読み終わってからの余韻で、立体的な物語だったことに気付かされる。
シリーズ初期の短編を読んだのが10年以上前になるため、改めて短編集に触れて、こんなに面白かったっけか、と驚いたところだ。
「落下る」は、マンションから落下して死亡した女性。
自殺として処理されかけるが、内海薫は他殺の可能性を捨てきれず、湯川に協力を求める。
実験結果を踏まえれば、トリック的は可能ではあるも、再現性が低いため自殺、という結論は、ともすればアンチミステリーの側面を持っているのだが、薫の執念に湯川が付き合い、真の証言を引き出したという点で、湯川と薫の最初のエピソードとして印象的になった。
「操縦る」は、"メタルの魔術師"と呼ばれた恩師の自宅に招待された湯川が、離れで発生した放火殺人に巻き込まれる。
シリーズの性質上、化学の特性を用いたリモート殺人トリックだということは理解できるのだが、それだけで犯人に迫っても、読者は置いてきぼり。
科学者が何らかの現象を殺人に利用した、とだけ認識してしまう。
そこに人間ドラマを組み込んだのが見事なところで、どうして恩師は湯川に手の内を明かすような行動をとったのか、一方で、湯川の説得により自主することを固辞したのか、思いもしない方向に謎が広がっていく展開が面白い。
人間として頼りがいのある湯川が、そこにいるのだ。
「密室る」は、ペンションを経営する旧友に会いに行った湯川。
オーナーの藤村は、少し前に、原口という男が事故か自殺かと思われる死を遂げたのだが、不審な点があるという。
現場は部屋の外であり、被害者は窓から抜け出したと推測されているが、その前に部屋が誰もいないのに鍵がかけられた密室だった、というところに彼はこだわっていて、大事な部分は隠そうとする傾向もみられる。
不可解な状況に、不可解な証言。
何が彼をそうさせるのか、湯川は事件の背景を紐解いていく。
なんとなく読めてしまう展開ではあるが、トリックがいかにも理系ミステリーでニヤリとさせられる。
「指標す」はオカルトvs物理学。
ダウジングにより、殺人現場から消えていた犬の死体を見つけた少女。
ダウジングは成功していたのか、それとも彼女はもとから死体があった場所を知っていたのか。
だとすると、少女と事件の関係は。
登場人物が少ない中で、どう話が転がっていくのかわからないドキドキ感がたまらない。
最後は、"悪魔の手"を持つという人物からの脅迫文のもと、事故死と見分けがつかない状態で無関係の人物が殺されていく「攪乱す」。
仕掛けはなんとなくイメージできても、では、それをどう見つけるかが難しいところ。
犯人がアンチ湯川ではなく、本当に株相場等のコントロールが目的だったら、極めて逮捕が難しい案件になり得たのでは。
身勝手な犯人へのヘイトは相当なものだが、だからこそ、湯川の化学を犯罪に使う者は許せないというスタンスが明確になった重要な短編。