【ミステリーレビュー】午前零時のサンドリヨン/相沢沙呼(2009)
午前零時のサンドリヨン/相沢沙呼
第19回鮎川哲也賞を受賞した、相沢沙呼のデビュー作
あらすじ
ポチこと須川が一目惚れしたクラスメイト、酉乃初。
彼女は、普段は無口で孤独を好んでいるように見えるが、レストラン・バー「サンドリヨン」にてマジックを披露するときだけは、ガラっと人柄が変わる。
距離を詰めようとするも不器用な須川と、人間関係に臆病な酉乃が、学校を舞台に発生する日常の謎をマジックのテクニックと洞察力によって解決していく“ボーイ・ミーツ・ガール” ミステリー。
概要/感想(ネタバレなし)
1冊を除いて本が逆に収納された図書室の書架の謎を中心に、酉乃初の探偵スタイルを読者に提示する「空回りトライアンフ」、音楽室にナイフで刻まれたメッセージと、消えた少女の正体に迫る 「胸中カード・スタッブ」、霊媒による"占い師"の使ったトリック暴く 「あてにならないプレディクタ」 、そしてこれまでに張ってきた伏線を回収する「あなたのためのワイルド・カード」。
全4章の連作短編の形式をとりつつ、序盤から語られてきた幽霊騒動の真相が、それまでの事件とクロスオーバーしながら大きな展開になっていくのがたまらない。
ここでポイントになるのが、酉乃のマジック観。
魔法を魔法と認識できるように、タネなんて知らないほうが幸せ、というスタンスをとっているので、作中に出てくるマジックにおいて、ほとんど種明かしは行われない。
マジックとミステリーの融合、となると、マジックのタネをトリックに転用して、というのを想像してしまうのだが、マジックはマジック、トリックはトリックという明確な線引きがあり、洞察力や推理力を駆使しての事件の解明と同等の重さで、魔法によって希望を与えるパートを描いているのが、作品としての個性に繋がっているのでは。
ラブコメ的な描写も多いので、聡明で強かな主人公キャラに慣れてしまっていると、主役ふたりの不器用さにやきもきすること請け合いだが、須川の初々しい強引さや、酉乃の黒歴史的な失敗に共感する部分もあるだろう。
青春ミステリーとして、1冊でここまで書き切った作品は、ありそうでそうそう思い浮かばない。
須川を視点人物とした口語調での地の文にこそ癖はあるが、この瑞々しさは強みである。
総評(ネタバレ注意)
多感な高校生、マジックを使っての説得って誰にでも刺さるわけではないよな、と斜に構えて読んでいたので、序盤については、小綺麗すぎるというか、ご都合主義というか、説教臭い感じに転んで行ったら嫌だな、という不安がよぎっていたのが正直なところ。
その意味で、「あてにならないプレディクタ」にて、酉乃が打ちのめされるシーンがあって救われたというか、これによってのめり込む準備が整ったと言える。
ある種、マジシャンvsマジシャンの構図。
もっとロジックバトルになるのかと思いきや、板倉の反撃については、明らかに弱みを握られた中での逆ギレもいいところで、突っ込みどころも多い。
しかし、彼女たちは思春期真っ只中。
演出じみた説得が冷笑される精神的なダメージはかなり大きい。
理屈は正しくてもメンタルを折られたら負けというのは、現実でも起こり得るレギュレーションであり、かえって生々しさをもたらしていた。
そこから立ち直るくだりがラストシーンにも繋がっていくと考えると、隙を作るのも伏線だったと言えるのかもしれない。
板倉はここで退場となるも、異なるベクトルで存在感を放った八反丸がミスリードを生むキャラ設定で最後まで絡んでくる。
あまり多くない登場人物にひとり何役かを与えて、効果的に物語をまわしていたと評価できそうだ。
何気に須川のバックボーンもそんなに明かされないので、"ポチ"の由来も含めて、何か秘密があるのだろうと推測していたのだが、それは考えすぎだったようで。
日常の謎、と呼ぶにはひとつひとつのテーマは重めだったりするのだけれど、ミステリーよりも青春のほうが強調されている気がするから面白い。
思春期に読んでいたら、色々とこじらせていたかもしれないな、と思わせる1冊であった。