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【ミステリーレビュー】法廷遊戯/五十嵐律人(2020)

法廷遊戯/五十嵐律人

永瀬廉、杉咲花、北村匠海のキャストで映画化も決定している五十嵐律人のデビュー作。


あらすじ


法曹の道を目指してロースクールに通う、久我清義と織本美鈴。
二人は過去に秘密を抱えていたが、それを隠して生活しており、司法試験の合格に手が届く存在になっていた。
一方で、スクール内で学生が独自に開催していた"無辜ゲーム"に乗じて、その過去を告発しようとする何者かが現れる。
相次ぐ嫌がらせに、清義は天才ロースクール生・結城馨に助言を求める。
犯人の目星がついて、事件は解決に向かうと思われたが―



概要/感想(ネタバレなし)


現役弁護士による法廷ミステリー。
学生時代の清義を視点に、模擬法廷で行われる「無辜ゲーム」を第一部、弁護士となってから、実際の法廷で展開される「法廷遊戯」を第二部とする二部構成。
第一部で提示してきた3人の人間関係が、第二部の冒頭からガラっと変わってしまうのだが、その驚きも本作の醍醐味。
第二部の感想は、ネタバレを含む後段で書くことにする。

そんなわけで、第一部の「無辜ゲーム」なのだが、有識者の本気のお遊び、といったところ。
どちらに非があるかの判断に迷う事項を学級裁判で議論する程度の概念でとらえていたら、思った以上に悪意が前提になっていて、判決も過激。
明らかに被害者であっても、犯人の特定に失敗し、立証できなければ罰を受けるという、どちらかと言えば犯人側が有利に見えるゲームだ。
このゲームが成立しているのは、馨という天才が、リスクを負ったうえで裁判官として君臨しているからこそ。
無辜ゲームの描写は何回か出てくるものの、設定が凝っている割りには比較的あっさりと終わってしまうため、もう少し掘り下げて読んでみたかった気もする。

上手いな、と思うのは、ふたりの過去の核心に触れる前に、とある女子高生とのエピソードを差し込んだこと。
冤罪に対して、法律の観点からどのように向き合うか、というのが本作に横たわっているテーマなのだが、序盤の段階では、清義が過去に起こした傷害事件が先立ってしまう。
この何でもないエピソードを挟んだことが、その後語られる内容の解像度を上げて、テーマを認識しやすくしていた。
隙のない、パズルのような緻密さは、こういったところからも見て取れるのである。



総評(ネタバレ注意)


登場人物が少ないので、フーダニット的な要素はあまり強くない。
単なる犯人当てのミステリーとして見れば、難易度はさほど高くないだろう。
ただし、本作において重要な部分は、おそらくそこではない。
第二部にて、同期の主人公格3人が、弁護士、容疑者、被害者に立場を変えて、圧倒的に不利な状況から清義は美鈴を救うことができるのか、という「逆転裁判」的な物語が開幕。
調査を進める中で、過去と今が繋がっていくカタルシスを味わうことになる。

ポイントは、死んだ馨がやろうとしていたこと。
復讐と考えれば理解できる気もするが、それだと、美鈴が沈黙している理由がわからない。
結局、真相に迫るには、美鈴の意図も見抜かなければならず、単純に、美鈴が犯人か、そうでないなら自殺でしょ、という話では終わらないのだ。
立証できなければ意味がない、という無辜ゲームの布石も相まって、ほどよいスリルがあるのもたまらない。

個人的には、結末にはやや不満。
どんな手を使ってでも、と犯罪に手を染めたにも関わらず、旧友から悪意を向けられたからといって、急に正義に目覚めて、はしごを外すのかと。
それまで美鈴を守るということで行動や判断に一貫性があると思っていただけに、そこはダーティーヒーローになっていても良かったのでは、なんて思ってしまった。
逆に、美鈴や馨については、ミステリーにおける天才にありがちな、目的に基づき合理的に動くだけのキャラクターになってしまった感があるので、パズルとしての整合性とキャラの魅力のバランスは、もう少し突っ込む余地があるのかもしれない。
もっとも、その辺はデビュー作。
書き慣れてくれば解決する部分もあるということで、無駄のない緻密さに痺れておくとする。

#読書感想文







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