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【ミステリーレビュー】双孔堂の殺人~Double Torus~/周木律(2013)
双孔堂の殺人~Double Torus~/周木律
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十和田只人を探偵役に据えた周木律による"堂"シリーズの第二弾。
内容紹介
二重鍵状の館、「Double Torus」。
警察庁キャリア、宮司司は放浪の数学者、十和田只人に会うため、そこへ向かう。
だが彼を待っていたのは二つの密室殺人と容疑者となった十和田の姿だった。
建築物の謎、数学者たちの秘された物語。
シリーズとして再構築された世界にミステリの面白さが溢れる。
「堂」シリーズ第二弾。
解説/感想(ネタバレなし)
前作のオチを踏まえていくつか設定が整理されており、視点人物として、警視庁キャリアの宮司司が登場。
妹の百合子とともに、今後のシリーズに関わる存在になりそうだ。
さて、肝心の探偵役・十和田は、早速に容疑者として連行。
探偵のピンチにワトソン役が活躍する回というのも、シリーズものにはつきものなのだが、初登場のキャラクターにそれを担わせるとは。
なかなか挑戦的だと言えよう。
前作もインパクトは大きかったが、本作は館&理系ミステリーの本領発揮。
数学蘊蓄が文系人間の読む気を削ぐほどに取り込まれていて、建築物もかなり複雑。
シンプルに図を見ればイメージはつくものの、文字で書き起こされると目が滑ってまったく頭に入ってこないのは、僕だけではないと信じたい。
ただし、だからといって面白さまで削がれることはなく、宮司の視点でわからなかったことだけわかればよいのだろう。
妹の百合子が電話越しに噛み砕いて説明してくれるのが読者的には親切で、天才と(数学においては)凡人との間での通訳になってくれていた。
次回作以降、百合子はもっと活躍の場を増やしそうで楽しみ。
前作が事件に巻き込まれる経緯から書き込まれていたのに対して、本作は警察官が視点人物となったことで、事件の発生後からのスタートとなる。
今後、巻き込まれるパターンを増やそうとした際に、百合子のキャラクターは重宝しそうだ。
総評(ネタバレ注意)
十和田のキャラクターが研究者として極端になった印象で、警察の調査よりも数学的な考察に没頭することを優先。
変人の度合いを増しているのだが、前作は作中作という世界線。
編集の目が入る中で、読者に伝わらない部分はカットされていたということなのだろう。
そこまで計算してキャラ設定を隠していたのであれば、著者の狙いが恐ろしくなってくる。
犯人については、メタ解き出来てしまうか。
容疑者となり得る研究者の子供が、男性に絞ると年齢的にひとりしかいない。
とはいえ、トリック館のダイナミックな仕掛けは、やはり魅力的。
美術館になる予定だったという設定も、現実性のない構造に納得感を与えていて絶妙だった。
冷静に見てみるとノックスの十戒にバリバリ抵触するものの、ここまでやってくれれば、反則だとはならないのでは。
オチとして最後に登場する、千年に一人の天才・善知鳥神。
彼女が誰かに紛れているのは序盤から想定していたので、その前提であればわかりやすかったかな。
ワンチャン、百合子=善知鳥の可能性もあるか、と疑ってはみたのだが。
宮司が事件に噛み込むきかっけを作り、十和田が犯人ではないと明言し、的確なヒントを与えて、現場に来ることなく物語をコントロールしていた百合子には、天才の資質がありそう。
両親が死亡している描写もあり、名前や設定の違いは、前作が作中作だから何ともでもなる。
この予想は外れたけれど、ラストでは善知鳥が百合子と接触し、このふたりに因縁ができたので、百合子がキーパーソンとなっていくのは既定路線。
第三弾に向けて、テンションが上がってきた。