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【ミステリーレビュー】人面島/中山七里(2022)

人面島/中山七里

人面瘡探偵シリーズの第二弾となる中山七里の長編ミステリー。


内容紹介


相続鑑定士の三津木六兵の肩には人面瘡が寄生している。
毒舌ながら頭脳明晰なその怪異を、六兵は「ジンさん」と呼び、頼れる友人としてきた。

今回、六兵が派遣されたのは長崎にある島、通称「人面島」。
村長の鴇川行平が死亡したため財産の鑑定を行うのだ。
道中、島の歴史を聞いた六兵は驚く。
ここには今も隠れキリシタンが住み、さらには平戸藩が隠した財宝が眠っているらしい。

一方、鴇川家にも複雑な事情があった。
行平には前妻との間に長男・匠太郎、後妻との間に次男・範次郎がいる。
だが二人には女性をめぐる因縁があり、今もいがみ合う仲。
さらに前妻の父は島民が帰依する神社の宮司、後妻の父は主要産業を統べる漁業組合長という実力者だ。

そんななか、宮司は孫の匠太郎に職を継ぐべく儀式を行う。
深夜、祝詞を上げる声が途切れたと思いきや、密室となった祈祷所で死んでいる匠太郎が発見された。
ジンさんは言う。
「家族間の争いは醜ければ醜いほど、派手なら派手なほど面白い。ああ、わくわくするなあ」
戸惑いながらも六兵は調査を進めるが、第二の殺人事件が起きて――。

毒舌人面瘡のジンさん&ポンコツ相続鑑定士ヒョーロク、今度は孤島の密室殺人に挑む!

小学館



解説/感想(ネタバレなし)


第二弾が出たことで、シリーズであることが確定。
第一弾の時点でかなり核心を突く種明かしはあったのだが、特に言及はなく、前提になっていない。
もちろん、読んでいれば読んでいるでまた異なる味わいが楽しめるので、時間が許すのであれば順番に読むのが良いのだけれど、前作を読んでいなくても問題はなさそうだ。

前作に引き続き、独自の文化を持つ離島での連続殺人。
令和の時代を踏まえた文明と、昭和以前の因習が共存している世界観は、本格ミステリー好きにはワクワクする舞台設定だろう。
相続鑑定士として関係者とやりとりをするのは六兵のみ。
"ジンさん"は、人気のないところでそれまでの行動を振り返ったり整理したりする役割。
情報収集パートと推理パートで明確に主体を分けることで、名探偵なのに犯人に出し抜かれるという矛盾が説明しやすくなっているのは、なかなかの発明と言え、毒舌とポンコツ、軽妙なやりとりも魅力的。
名探偵が人面瘡というかなり特殊な設定を上手く扱っていたのでは。

ただし、トリックやロジックにおける驚きや鮮やかさという点では、今作でも弱かったかな。
前作を読んでいてもなお驚かされるどんでん返しは、さすが中山七里ではあるのだが、横溝正史が描きそうな世界観を狙っているのは間違いないので、本格ミステリーとしての面白さも追及してほしかったのが本音。
尻すぼみになってしまったのは否めず、次回作での調整に期待したい。



総評(ネタバレ注意)


"喋る人面瘡"の正体は、前作にて種明かし済。
とはいえ、それはあくまで読者に対して。
六兵の主観としては"ジンさん"が存在していることに変わりはないということで、余計な解説はないまま六兵とジンさんのダブル主演的に物語は進行する。

もっとも、再びそれが最後に明かされたところで、第一弾を読んでいれば驚けない。
本作ではどのように纏めるのかと思っていたら、また新たな六兵の"信用できない語り部"要素が顔を出してきたから、してやられたなと。
要するに、見たいものが見えてしまうということなのだろうか。
そのうち、死んだ被害者の幽霊と会話して事件解決、みたいな展開が待っていたりして。

古典的な舞台設定と、斬新な特殊設定のバランスが非常によく、コミカルな要素もあって面白い。
あとは本当にトリックの部分で、密室で殺された有力者と、容疑者全員にアリバイがあるという魅力的な謎。
これの料理方法が、録音した音声をスマホで流していた、というのはあまりにも陳腐でもったいない。
世界観が好みなだけに、フーダニットやハウダニットの面白さも兼ね備えていれば無敵だったのにな。
連続殺人で人が減りすぎて、消去法的に犯人が導かれるのも、言ってしまえば横溝的ではあるのだが。


#読書感想文


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