【ミステリーレビュー】密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック/鴨崎暖炉(2022)
密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック/鴨崎暖炉
「密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック」の続編となる、とにかく密室にこだわった長編ミステリー。
あらすじ
「密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある」との判例により、日本では密室殺人事件が激増、密室の黄金期を迎えていた。
過去に密室殺人に巻き込まれ、解決に導いた葛白香澄は、その功績をもって、日本有数の富豪・大富ケ原蒼大依が開催する「密室トリックゲーム」に招待される。
そこには、判例の元となった第一の密室殺人事件の裁判官と、被告人だった葛白の友人・蜜村漆璃も居合わせていた。
概要/感想(ネタバレなし)
前作は雪の山荘で、本作は絶海の孤島で。
ミステリーとしては実にベタな設定が続くが、密室を作ることに意義を持たせる設定が、現実にミステリー小説が侵食していることを受け止めてしまっているから面白い。
密室専門の探偵もいれば、密室代行業者もいる、という世界観。
ひたすらどのように密室を作ったのかのハウダニットを追求しており、ひとつはゲームの中での密室とはいえ、前作を上回る7つの密室が登場するのは圧巻だった。
圧巻と言えば、トリックにおけるスケールの大きさも、各段に上がった印象。
バカミス的な要素も多分にあり、強引だと言わざるを得ないトリックも出てくるが、質より量で勝負しているのが本作。
こんなのわかるわけない、考えた時間が損だった、と思わせる間もなく、次の密室殺人が行われ、名探偵がサクサクと解決。
連続殺人を扱うミステリーは数多くあれ、こうもトリックを乱発しては、もったいぶることなく解き明かしてしまう作品も珍しいだろう。
相変わらず、レギュラーキャラクター以外のネーミングは安易。
本シリーズにおいては、殺されるキャラよりも生き残るキャラのほうが少なくなりがちなため、感情移入させない工夫も必要、といったところか。
好き嫌いを分ける作風だとは思うが、エンタメに特化した作品と割り切りたいところ。
第三弾も見据えていそうな引きではあったので、次はいくつの密室トリックを披露してくれるのだろう、と楽しみにしておこうかと。
総評(ネタバレ強め)
密室殺人が当たり前に存在する世界線では、類似案件が過去に登場しているのかもしれないが、いくら密室マニアであっても、トリック屋敷を一目で見抜くのは難しかろう。
ポアロ坂の事件にて、いきなり壁にぶつかっていく蜜村の思考回路ってどうなっているのだろうか。
前作同様、密室殺人の代行業者が暗躍する、という設定を忍ばせつつ、いくつかひっかけポイントを作っていて、構成としては、なんだかんだで気が利いている。
前述のとおり蜜村にも言えることだが、初見のトリック屋敷で、殺し屋がバンバン仕掛けを活用しているのはどういう理屈だ?と訝しがりながら読んでいたが、結論が出れば納得。
冒頭に殺し屋サイドの会話を挟んだのがミスリードとなっていて、意外な真犯人を作り出すのに成功していた。
究極のトリック、という概念を持ち込んでラストシーンを演出した前作に比べると、大きな波が生まれなかった感はあり、最後の事件があっさり気味だったのはもったいないが、エンディング直前でどんでん返しを見せつけつつ、叙述トリックの伏線を回収してくるとは。
取り返すまでは至っていないかもしれないが、密室慣れしてきたところに衝撃を与える効果を生んでいたのは間違いない。
殺し屋・密室全覧の正体については、仕事を請け負ってからターゲットに近づいたのか、偶然もとからターゲットと知り合いだったのか。
後日談にて、同じ姿で登場しているところを見ると、変装していたわけではなさそうなので、時系列が気になるところ。
もっとも、この作品においてリアリティの追求は無粋。
あれこれ深く考察するよりも、思考ゲームとしてノリと勢いで無邪気に楽しむのが吉であろう。