【ミステリーレビュー】夏休みの空欄探し/似鳥鶏(2022)
夏休みの空欄探し/似鳥鶏
似鳥鶏による、ボーイミーツガール×暗号謎解きミステリー。
内容紹介
解説/感想(ネタバレなし)
夏だし、ということで爽やかな香りがするミステリーを、と表紙だけ見て選んだ作品。
主人公は、クイズ研究会の会長・成田頼伸、高校2年生。
通称・ライは、夏休み期間中にふと立ち寄ったファーストフード店で、隣の席の美人姉妹が悩んでいた謎解きの問題が解けてしまった。
姉妹に請われる形で暗号文が示す場所に向かおうとしたところ、効率主義でクラスの人気者である成田清春、通称・キヨも、姉の雨音に一目惚れして合流。
ライはライで妹の七輝と距離を縮めながら、男女4人の冒険がスタートする、という数年後には児童文学になっていそうなあらすじだ。
ただし、このミステリーらしからぬ爽やかさ、甘酸っぱさこそ、本作の魅力。
謎解きに挑戦する、という表向きの謎と、何やら裏がありそうだ、という張り巡らされた伏線を気にしながら、ひと夏の恋に落ちた陰キャ代表が成長していく姿に、ついつい夢中になってしまう。
正直なところ、これは妄想オチでしょ、と思ってしまうほどにライにとってご都合主義な展開が続くので、彼に感情移入が出来るかどうかが勝負。
無為な夏休みを過ごしたことがある陰キャであればあるほど、青春小説としての面白さは感じられるだろう。
本作の設定が陰キャの妄想に忠実、という点では、美人姉妹以上にキヨの存在が大きいか。
クラスの人気者で、スポーツもできて頭も良い。
そんな人物が、最初は敵視していたものの話してみれば良い奴で、なんなら自分の能力を評価してくれて、一目置いている。
女子との接近以上に、キヨからの肯定によって自己肯定感を高めているのが、すごくリアルなのよ。
まぁ、本作を読んだのが大人になってからで良かった。
男子校の放送部に所属していた高校時代に読んでいたら、僕は毎日モスバーガーで自己研鑽することになっていたと思う。
総評(ネタバレ注意)
ここまで、こんな夏休みを送ってみたかったな、という怨念みたいな感想しか出て来ず、もはやミステリー評の艇を成していないのだけれど、暗号の難易度はかなり高いかと。
なんだかんだで頑張れば解ける、というものもあるかもしれないものの、解く気を削ぐ目的で、あえて難易度を高く見せている節もあるくらい。
一緒に解くというよりは、彼らが閃くのを見守っているスタンス。
その代わり、このゲームの真意のようなものを汲み取りたいのだが、あー、やっぱりそっちに行っちゃうのね、と。
夏が終わったら一緒にはいられない、という空気は感じていたので、これが病気で余命宣告されているか、留学や家庭の都合で引っ越しを繰り返しているか、ワンチャン、自由になるためにお金が必要で、最後のチャンスでトレジャーハントしているぐらいのぶっとんだ設定があるかどうかだったのだが、言ってしまえばもっとも嫌なところに落ちちゃたかな。
一応、そのベタさに抗おうと、死にネタを感動ポルノ化することへの批判を当人に語らせる等で薄めているが、だったらそれを覆す大オチも用意してほしかったよと。
死のシーンは書かず、日常シーンが続いているうちに終わりにしたのは英断だったと思うけれど。
なお、本作の後日談的なエピソードが、ウェブアスタ(前半)と、文庫版帯裏のQRコード(後半)から読むことが可能。
こちらでも相変わらず日常の風景に留まっているので、やはり七輝の死を書かないのは著者の矜持なのだろう。
過去に読んだ作品の作風とは全然違う、圧巻の爽やかさだったので、似鳥鶏の引き出しに驚かされる1冊である。
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