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【ミステリーレビュー】眼球堂の殺人〜The Book〜/周木律(2013)
眼球堂の殺人〜The Book〜/周木律
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第47回メフィスト賞を受賞した周木律による"堂"シリーズの第一弾。
内容紹介
新たな理系&館ミステリ。
神の書、"The Book"を探し求める者、放浪の数学者・十和田只人がジャーナリスト・陸奥藍子と訪れたのは、狂気の天才建築学者・驫木煬の巨大にして奇怪な邸宅"眼球堂"だった。
二人と共に招かれた各界の天才たちを次々と事件と謎が見舞う。
密室、館、メフィスト賞受賞作にして「堂」シリーズ第一作となった傑作本格ミステリ!
解説/感想(ネタバレなし)
綾辻行人の"館シリーズ"や、森博嗣の"S&Mシリーズ"へのリスペクトも見受けられる館&理系ミステリー。
探偵役は放浪の数学者・十和田只人、視点人物となるワトソン役は、その十和田につきまとっているジャーナリスト・陸奥藍子。
各界の天才たちが集められた奇怪な館・"眼球堂"に訪れたふたりは、クローズドサークル下での不可思議な連続殺人に巻き込まれていく。
ミステリー読みにはたまらない設定だが、その分高くなるハードルに対して、メタに逃げずに真っ向から取り組んだ作品と言えよう。
天才たちに関する描写については、平凡だったり俗物的だったりと達観した哲学が感じられず、やや物足りない。
その点でやはり森博嗣は凄かったな、と思わざるを得ないのだが、裏読みすれば、"天才と呼ばれていても結局は普通の人間"というアンチテーゼだったりして。
その中で、十和田だけは"S&Mシリーズ"に出てきても違和感がない理念や哲学を持っていて、天才っぽさを常に漂わせている。
まだまだ深掘りされていないミステリアスな部分を保ちながら、探偵役のキャラが立っているという点で、第一作目としては及第点と言えるか。
550頁程度とページ数が多く、学術的な記載も多いことから、記載されていることすべてを理解しようとすると難解に感じてしまうかもしれない。
ただし、藍子の視点を通すことで、押さえておくべきところと聴き流すところの判別はつきやすく、建物の概要さえ理解できれば、あとはさらさら読んでもついていける内容だったかと。
天才が揃っている設定の割りには、ミステリー要素に対する理解は守備範囲外のようで、やや展開が遅いのがもったいない。
二度読みすることで回収できる伏線があることも踏まえれば、もっとテンポを上げても良かったよな。
総評(ネタバレ注意)
館&理系ミステリーの看板に偽りなし。
小説だからこその大掛かりなトリックと、理系的な観点による気付きやロジックは、ミステリーにおける両輪。
"理系=リアリティがある"ではないのがポイントで、理論上可能であったらどんなに無謀でもトリックになり得るということ。
即ち、本格ミステリーの醍醐味と親和性が高いのである。
一方で、館モノの難しいところは、トリックを実行できる人間が限られること。
正攻法での館モノを前提にした場合、眼球堂なる奇怪な建物に仕掛けがないわけがないじゃない。
まばたき、涙、回転運動などなど、何かしらギミックがあるのは必然である。
建築家が真っ先に死ぬ、というのは、その線を消すミスリードとして機能させたかったのかもしれないが、死亡を断定しなかったことでかえって決定打になってしまった感があった。
しかし、本作の肝になるのは、まさに最後のどんでん返しだろう。
描かれていた物語は小説だったことが明かされ、描かれなかった真相を十和田が改めて導き出すラストシーンには、素直に驚かされた。
ややメタ的ではあるが、善知鳥 神の存在感を消していたのはそういうことか、と腑に落ちる。
実際そうだったわけだし、善知鳥が誰かのフリをして潜んでいることを示唆する描写を暗示レベルでもしておけば、犯人候補に幅が出ていたはず。
それをしなかったから、ラストの意外性が強まったのは言うまでもなく、駆け引きが上手かったなと。
犯人を当てて気分が良くなったところで、どんでん返しで騙される。
ある種、ミステリー読みにとって最高の読書体験を与えてくれる1冊なのかもしれない。