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【ミステリーレビュー】人面瘡探偵/中山七里(2019)

人面瘡探偵/中山七里

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どんでん返しの帝王、中山七里による長編ミステリー。


あらすじ


山林王である本城家の当主・本城蔵之助が亡くなった。
三津木六兵は相続鑑定士として現地に派遣されるが、スマホの電波も届かない、隣町までいかないとコンビニすらない、というお屋敷で、遺産をめぐっての一族の骨肉の争いに巻き込まれてしまう。
かかる中、長男の武一郎夫婦が放火された蔵の中で死体で発見されると、彼の右肩にある人面瘡、"ジンさん"の趣味が炸裂。
すっかり言いくるめられて、三津木は不本意ながらも調査を行うことになる。


概要/感想(ネタバレなし)


主人公は、相続鑑定士の三津木六兵。
彼の右肩には、人面瘡の"ジンさん"が寄生しており、三津木が見聞きした情報を漏らさず蓄積し、毒舌を繰り出しながらも的確に処理する頭脳明晰で奇怪な存在として描かれている。
本作の肝は、まさにこの人面瘡が探偵役を務めるという、ファンタジーと言うべきかホラーと言うべきか、随分とぶっ飛んでいるなと思わせる設定であろう。
時代設定こそ現代ではあるも、横溝正史を意識した地方の因習とおどろおどろしい連続殺人。
これに、三津木とジンさんのコミカルな掛け合いがアクセントとなって、古き良き重厚さと、現代ミステリーのライトな感覚が融合した新感覚的なミステリーと言えるのかもしれない。

この設定が上手いなと思うのは、探偵役はあくまで怪異的な存在であり、人前では登場しないこと。
本家・横溝正史の小説においては、名探偵が目を光らせているにも関わらず、連続殺人の連鎖が止まらず、という矛盾をメタ視点で揶揄されることがしばしばある。
一方、本作においては、あくまで本体はポンコツで小心者の三津木であり、彼が重大なヒントを見ていたとしても、それをジンさんが指摘できるのは、すべてが終わって部屋に戻ってから、という具合だ。
名探偵が存在することと、伏線を見逃して犯人の良いようにやられてしまうことが両立する世界線を思いついたからこその、横溝的ミステリーだったのではなかろうか。

そんなわけで、雰囲気については大好物という読者は多いのだと思うが、肝心な謎のインパクトがどうにも弱いのがもったいない。
何がメインテーマになるのか、よくわからないまま終わってしまった印象だ。
せっかく料理しがいのある設定を思いついたのだし、続編もあるようなので、次回作ではもうひと捻りを期待したい。



総評(ネタバレ強め)


連続殺人は、見立て殺人ということになるのだが、終盤になるまで何に見立てているのか明かされない。
特に孝次は猟奇的な殺され方をしているにも関わらず、である。
というのも、見立てられたのが極めてマイナーな絵本ということで、判明するのは、ほぼ事件が終わりに近づいたころ。
演出としては不完全燃焼であるし、子供を犯人に仕立てるためという目的があったにしても、そう誘導したい沢崎ですら知らない話を持って来たのでは、意味がなさすぎるのでは。
見立てに、見立て以外の意味がなかったことが、なんだか肩透かしだ。

真犯人についても、アンチミステリーギリギリを攻めた以外な犯人、と見せかけてからの裏の裏を突く結末、ということなのか、凄く普通のところに帰ってきた感。
解くべきトリックもなければ、崩すべきアリバイもなく、ロジックで追い詰めるにも、その前に動機からシンプルに導き出せてしまう。
オチの部分にもサプライズっぽいものはあるものの、そんな気はしていたし、それで景色が変わって物語が違って見えるほどではないのだよな。

と、物足りなかった部分を書き連ねてしまったが、筆力はあるし、テンポも悪くない。
ある種、本格ミステリーの様式に、本格ミステリーとしては邪道な特殊設定をぶち込むとどうなるか、という実験作的な意味合いもあるのだろう。
エンタメ作品としては素直に面白くはあるので、謎、あるいはどんでん返しのインパクトさえ高めることができれば、十分に可能性を秘めたコンテンツ。
育ってから読みたかったな、といったところで、はじめて読む中山七里作品としては妥当ではなかったかもしれない。

#読書感想文

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