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【ミステリーレビュー】沈黙のパレード/東野圭吾(2018年)

沈黙のパレード/東野圭吾

「禁断の魔術」に続くガリレオシリーズ9冊目、長編としては「真夏の方程式」以来4冊目となる。


あらすじ


東京で3年前に行方不明になっていた佐織の遺体が、静岡のゴミ屋敷の焼け跡から発見された。
容疑者は、23年前に草薙が担当した少女殺害事件で無罪となった男。
今回も、証拠不十分で釈放されるも、町のパレードの当日、その男が殺される。
容疑者は、佐織を愛した町の人々。
善良な住人たちの協力は、湯川の頭脳を上回ることができるのか。



概要/感想(ネタバレなし)


映画の公開と重なるタイミングで読んでいたので、極めてミーハー感が出てしまうのだが、春頃からずっと積んでいて、ネタバレする前に、とようやく重い腰を上げたもの。
あらすじを読んで、金田一少年の事件簿の「電脳山荘殺人事件」的な内容を想像していたら、当たらずとも遠からず。
町の人々が少しずつ役割を担って復讐を遂げる、という部分を倒叙的に見せつつ、どのようなトリックが使われたのか、というのが徐々に明らかになって行くという仕組みだ。

もっとも、本作のテーマは、トリックがどうこうではないのかな、と。
裁くべき人間を裁けない警察や遺族の苦しみ、愛情や友情の示し方、そして復讐の是非。
とにかく、狡猾に罪を免れる蓮沼への嫌悪感が強烈で、それに対して協力して復讐を遂げようとする人々のほうに共感してしまう。
警察サイドの視点も丁寧に描かれていて、蓮沼の悪を憎みながらも、何もできなかった無力感や悔しさ、そのうえでドライに復讐者を追求しなければいけない葛藤など、ミステリーであるにも関わらず真相を暴くことへの抵抗感を持たせている、というのが本作の個性であり、魅力なのかもしれない。

そんなわけで、前半は、蓮沼がのうのうと生きている絶望感に、後半は、善良な人々が追い詰められている苦しさに。
遺族が物語の中心なだけに読み進めるためのメンタルの強さが必要になってきそうなのだが、アメリカ帰りの湯川に人間味が増していて、これが効いていた。
どんよりとした重さが付きまとっても、やりとりはウィットに富んでおり、少しあたたかさも帯びている。
湯川が積極的に事件に関わる序盤まで耐えることができれば、あとは案外すいすい読めてしまう。
湯川が親友のことや、過去の後悔について語る珍しいシーンもあって、シリーズを追ってきた読者であれば、もうこれはたまらないのでは。



総評(ネタバレ注意)


トリックの解明までは、中盤までにある程度終わってしまうので、まぁ、何かどんでん返しは用意しているだろう、と。
それは、あえて人物像を深掘りしていない佐織の行動に、動機に繋がる秘密が隠されているだろうな、というところまでは予測できたのだが、そこから真の黒幕を探しに行ってしまったので、展開を見誤った形。
新倉に貧乏くじを引かせたのは誰か、ではなかったか。

それはさておき、この内容を、こうもすっきり終わらせることができる東野圭吾は凄い。
犯罪は犯罪だよね、で落とすのが一般的な探偵小説だと思うし、多少は意識しているであろう「オリエント急行の殺人」のように全員お咎めなし、も現代の価値観では馴染まない。
落としどころを見出すために、計画を利用した人物を作り上げ、犯罪の度合いに濃淡をつけたうえで、蓮沼の悪をきっちり暴くことで爽快感すら与えているのだもの。
これ以上の終わらせ方はないでしょ、と。

映像化されることも見越していたのだろうか。
派手な演出になりそうな町のパレードをメインに持ってきているあたり、あざとさも感じないわけではないが、映画化の風を浴びて人当たりが良くなっていく湯川も悪くない。
湯川は教授に、草薙は警部に昇進して時間の経過を感じさせる中で、ふたりとも既に真相を暴くだけの役割ではなくなっているのが、科学ミステリーというジャンルを飛び越えて本シリーズに出てきた深みなのである。

#読書感想文




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