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本でつなぐ、本をツナグ。

使えるパソコンよりも壊れているパソコンの方が多いというのは何故なんでしょうか。

来年こそは重い腰を上げてお見送りできるといいなと思います。

さて今回は、前回に引き続き選書した本についての話です。

気がつけば師走となり、もう前回どこまで話したのかも曖昧になってきてはいますが、ひとまずこの話はこれでおしまいです。長かった。

次からは一回で終わる話をしたいと思います。ほんとうに。

※前回分はこちら※

◇◇◇

夫 あーっと、どこまで話したっけ。

嫁 まったくだ。ええと、ベイカーの『中二階』の描写がどうだ、っていうところ。

夫 あ、そうそう、描写ね。描写ってなると、それこそ嫁さんの選書は基本描写だったりその作品のハードの部分、設定とかの外枠から来てるわけだよね。

嫁 うん。っていうかそれ以外の選び方なんて思いつかなくて、むしろそういうものかと思ってた。マジカルバナナ的な。

夫 前もそれ言ってたね。じゃあちょっとどんな本か教えてください。まずは『世にも奇妙なマラソン大会』。高野秀行ってノンフィクション作家だよね。

嫁 そう、たしか初めて読んだのは『アジア新聞屋台村』っていうたしか実話?をもとにした小説で、それがすーごい面白くて。基本的に高野さんのノンフィクションって内容だけ見れば結構ハードなんだけど、不思議なくらい書き味が軽妙で、著者のある意味悪運の強さも良い具合に作用してて。とにかく面白い、の一言に尽きるんだよね。で、今回、「これはちょうど良いじゃないの」ということでラインナップに入れたわけ。ちなみに表題作は初のフルマラソンでサハラ砂漠を走る、という無謀な話。

夫 ふんふん、でも、ここからインドにつながるんだよね?

嫁 そう、そうなの。この『世にも奇妙なマラソン大会』にはいくつか話が入ってるんだけど、そのうちの一つに、インドから入国禁止をくらってる高野さんがどうにか入国しようと試みる話があって。ま、失敗に終わるんだけど。だから次はインド系の人々の物語。

夫 あまり流れとして強くないけどまあいいか。

嫁 そこはね、エア書店だからいいの。それによく知らないけどつながりの太い本よりこういう方がいいじゃない。

夫 まあそうね。

嫁 外国文学たくさん読む方じゃないけど、なんかこの本はねえ、短編集なんだけど全体的に流れる空気がすごくいいんだよね。読んでいて心地いいというか。もちろん文章もきれいだし、心理描写っていうか、登場人物の心の動きの描き方が静かで丁寧っていうのかな。もちろん訳がいいっていうのもあるんだろうけど、読む度にすっと入り込める感じがする。日本で出版されたのはもう15年以上も前だけど、売り場には常に切らさず置いておきたい本ですね。

夫 推すねえ。まあ外国文学は、日本の小説に比べてどうしても棚が小さくなっちゃうからね。書店としては伸びしろがあるジャンルともいえるかも。

嫁 そうそう。『その女アレックス』のピエール・ルメートルとかみたいにドカンとはいかなくても、面白い作品がもっと売り上げとして評価されるといいなと思います。そうすればもっと文庫化も進んでより多くの人の手に届くのではないだろうか!

夫 たしかにね。もちろん文化が違うから、読んでて日本の小説の方が入り込みやすいのは仕方がないんだけど、もうちょっと敷居みたいなものが下がるといいのかもね。

嫁 ええとそれで次は…。

夫 さくさくいくのね。ええと、林芙美子?

嫁 そう、林芙美子!今回は旅行記つながりということなので『放浪記』ではなく。ですが、『放浪記』はマストです。貧乏で仕事がなくて男ともうまくいかなくてしかも痩せない。一見悲しみに暮れてしまうような生活にみえるけれど、日々を綴るその筆はどこまでも力強い。しんどいときはこの本をのことを思い出すとちょっと気合いが入るっすね。

夫 でも今回は違うんでしょ?『下駄で歩いた巴里』という。

嫁 そうなのよ。そもそも林芙美子を知ったのは『放浪記』よりもこっちの方が先で、Eテレの番組で取り上げてたのをたまたま見て「これは」って思って。ただ、本屋にあるのはだいたいが『放浪記』だったのでまずはこれから読んでみるともう面白くて。『下駄で歩いた巴里』はたしか、しばらく出版社の在庫がなかったと思うんだけど、重版がかかったときは本当にうれしかった。

夫 で、どんなところがいいのさ。

嫁 そうだなあ。軽く読み返してみて思ったのは、内省的な描写が少ないこと。あと一文一文に無駄がなくて、読んでいても冗長的に感じる部分がない。なのにこれだけ読ませるっていうのは、きっと旅の道中からピックアップするエピソードや著者の着眼点がやっぱり飛び抜けているのではないか、ということを考えました。

夫 ふむふむ。確かに旅行って人生において特別なことじゃないから、そこを書いて評価されている人って感性が独特なのかもしれないね。

嫁 そうだね。小学校の作文とかでも、たとえば夏休みの思い出だと「○○に行きました。楽しかったです。また行きたいと思いました。終わり。」になりがちだもんね。「楽しい」「面白い」っていう言葉にはすべてを詰め込めるような気がするけど、結局なにも伝えられていないことの方が多い。

夫 ほんとにな。読書感想文も同じ。

嫁 どくしょかんそうぶん…まあ、これについては話し始めるとヒートアップしてしまう恐れがあるのでこの辺にしてもう次にいっちゃいます。えーと、次は、リンクが変わって坂口安吾ね。

夫 『白痴』。

嫁 そう。前も言ったけど、あくまでも私の個人的な印象で、この二作品は「匂い」が似てるなあと。

夫 におい。とは。

嫁 あーなんて言えばいいんだろう。匂いだよにおい。読後感っていうの?いや読んでる途中に感じるから読中感?読書感?とにかく鼻の奥を抜ける空気っていうか。そうか、空気感だ。空気感が似てるの、あくまで主観だけど。主人公の男と相手の女のキャラクターとバランスが近いと思うんだよね。無骨な男とつかみ所のない女っていう。

夫 そういうことね。確かに言われてみれば。

嫁 ええ、そうです。だから今回の企画でも一番に思いついたのがこの『白痴』でした。

夫 ふむふむ。そうなると、『阿修羅のごとく』は前回も話に出てきたからいいとして、あとは『麻雀放浪記』ですか。

嫁 うわあ、今の『麻雀放浪記』は表紙のイラストが福本伸行なんだ。まあ、そうなるかな。これはね、なんていうの、ちょっと雑な括りだけど「無頼」な感じの小説、ということで。

夫 読んだことないけど、手牌がそのまま文中に出てくる小説っていうのは珍しいよね。麻雀の本ならよく見るけど。これがわかると緊迫感が増すし。

嫁 麻雀好きならまず間違いなく楽しめるはず。もちろん麻雀をやったことがなくても登場人物がキャラ立ちしてるし、エンターテインメントとしてすごく楽しい。私も未だに麻雀のルール知らないし。この強烈な世界に仲間入りはしたくないけど、どんどん読みたくなっちゃう。

夫 なるほどね。今度読んでみようかな。いつになるかはわからないけど。そう、それで、フェアってタイトルいるよね?どうしよう。

嫁 それにつきましてはもう考えてあります。へへ。「本でつなぐ、本をツナグ」これでどうだ。

夫 その心は?

嫁 なんのひねりもないけど、本から本へのたすきリレーって感じで。カタカナとひらがなを混ぜたのは、まぁ…「今っぽさ」?

夫 今っぽさ…言ってしまうと途端に恥ずかしくなってしまうのはなんでだろう。

嫁 まあまあ。つうことで、このフェアの面白いところは、選書する人によってガラッとラインナップが変わることであり、それは生身の人間だからこそっていうこと。最初の一冊をいろいろ変えてまたやってみてもいいかもね。

夫 たしかに。ま、またいつかね。

◇◇◇

年をまたがずに終わらせることができてよかったー!

喉が弱い嫁は、エアコンをつけたらほどなくして咳と鼻水が止まらなくなりました。

乾燥には気をつけたいものです。

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