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会話の楽しみを読む:雨宮まみ・岸政彦『コーヒーと一冊⑧ 愛と欲望の雑談』
私はこんなふうにnoteやTwitterをやったりしているが、誰かとコミュニケーションをとるのなら、絶対的に直接会って話す方が好きだ。
語彙力にも文法にも自信がないし、表情や会話のテンポなしで気持ちを伝えられる気がしないから、何かを話したいときはいつだって会いたい。
だから、SNSなんかでケンカをしている人がいると「ガッツあんなー」と遠巻きに感心してしまう。しかも面識のない人が相手なんてよほど元気がないとできない所行だと思っている。
この本は、ライターの雨宮まみと社会学者の岸政彦の対談本だ。さすがな二人だけあって、この100頁に満たない本の中にさえ、たくさんの話題を振りまいてくれる。コミュニケーション、欲望、恋愛、しんどさ、家族、浮気、結婚。そしてその話題のどこかに、新しい発見がある(ちなみに私は、雨宮まみの実家の話がすごい刺さった。地域の独特の価値観ってどうしてもあって、それが受け入れられないこともどうしてもある。親戚の集まりでモヤったことのある人はきっとスッキリすると思う)。
疑問が解けて理解が深まったり、意見が分かれたり、少し考え方が変わったり、定まらないまま進む二人の会話はとても心地が良く、「ああ、人と話すのっていいな」とつい思ってしまう。
ただ、実社会で真面目な話題について話すのは意外と難しい。一般的な話と個人的な問題が混同してしまったり、思わず感情的になってしまう可能性もある。それが人間関係に影響を及ぼしかねないと思ったら、込み入った話はしないに限る。実際、私も何度か夫に社会問題系の話題を振ったことがあるが、残念ながらあまりお互いにとって有意義な時間とはならなかった。寂しいけれど、結局そんなもんだ。
だからこそ、この本は読んでいて楽しい。一方的ではなく、互いを尊重していて、こんなふうに人と話せたらいいなと思う。いろんな人と会って話して、たくさんの生き方や価値観を知ることができたら、なんとなくだけど、もっと心が豊かになる気がする。
最後に、雨宮まみはこのように書いている。
「実際に会ってする会話」には、無駄も危険も多い。けど、そこにはまだ、そこにしかない豊かさがあるとも感じている。うっかり変なことを言っても許してもらえたり、なんの意味もないような言葉から、お互いの輪郭が見えてきたりする。(中略)話すだけで、世界は豊かになる。自分の世界も、他人の世界も。(92頁、雨宮まみ「おわりに」)
SNSなどのテキストでは伝えきれないものが、会話にはたくさんある。非言語コミュニケーションはまだまだ大丈夫だ。友だちなんてあまりいないけど、読むとつい誰かに会いに行きたくなる、そんな本だ。