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ご負担は軽減されたのか?──看板倒れの「見直し」「調整」。祭祀こそ元凶とばかりに、陛下の聖域に官僚が介入した入江時代への先祖返り。しかし陛下は……(2009年02月10日)

(画像は宮中三殿。宮内庁HPから拝借しました。ありがとうございます)

▽1 祭祀がストレスの原因か?


 奇しくも拙著の発刊と同じ日、(平成21年)1月29日の宮内庁発表「両陛下の今後の御公務および宮中祭祀の進め方について」から1週間あまりが経過した今週は、天皇陛下のご負担が実際、どれだけ軽減されたのか、を検証してみたいと思います。

1月29日の宮内庁発表「両陛下の今後の御公務および宮中祭祀の進め方について」
〈https://www.kunaicho.go.jp/kunaicho/koho/kohyo/gokomu-h21-0129.html〉

 その前にこれまでの経緯を簡単に振り返ってみると、陛下のご健康問題がにわかにクローズアップしたのは昨年、平成20年の2、3月でした。金沢医務主管は新たな療法の確保が必要だ、と述べ、風岡典之宮内庁次長は運動療法実施のためご日程を一部見直す、と補足し、とくに宮中祭祀について、昭和の先例に従い、21年から調整することが明らかにされました。「ご在位20年を超える来年から」とされたのは、陛下のお気持ちといわれます。

 その後、「調整」は前倒しされます。ご承知の通り、昨年11月以降の陛下の御不例がきっかけです。

 12月9日の会見で、名川良三・東大教授は急性胃粘膜病変の可能性を説明したのち、金沢一郎・医務主幹は「陛下はご心労・ご心痛に耐えておられる。これが大きな問題だ」と指摘したうえで、「『陛下はご公務が忙しいからこんなことになる』と単純に考えないでほしい」と断りながらも、「しばらくの間は大事をとり、天皇誕生日や年末年始のご日程などを、思い切って軽いものに変えていくことが大事だ」と述べました。

 これに対して、羽毛田信吾長官は2日後の会見で、「ここ1カ月程度はご日程を可能な限り軽いものに致したく、天皇誕生日やもろもろの年末年始の行事などについて、所要の調整を行いたい」と応じています。

 そして、実際、どうなったかといえば、長官の所見には言及のなかった祭祀が真っ先に標的にされ、12月15日の賢所御神楽の儀、23日の天長祭、25日の大正天皇例祭は御代拝とされました。長官は調整の対象として「天皇誕生日」をあげていましたが、実際には記者会見が中止になったぐらいで、例年と何ら変わりない祝賀行事が続いたように伝えられています。新年の行事も同様でした。

 まるで宮中祭祀こそストレスの原因だといわんばかりに、祭祀がねらい打ちにされています。

▽2 調整の7つのポイント


 11月の御不例は差し迫った急性の病変といわれましたから、当面、短期的な対応が迫られたのでしたが、1カ月以上が経過した現在は、本格的な中長期的対応が求められています。それこそがまさに1月29日の発表でした。

 発表のポイントは、以下の7点です。

1)、昭和天皇が74歳になられた昭和50年当時と比べ、外国からの賓客や駐日大使との御会見・御引見などについては約1.6倍、赴任大使や帰朝大使の拝謁などについては約4.6倍、都内や地方へのお出ましについては約2.3倍と大きく増加し、御負担が増大している。御公務の中身も、帰朝大使のためのお茶のように、平成になってから恒例化したものもある。認証官や学士院および芸術院の会員などからお話をお聞きになるなど、内容も変化している。

2)、御公務の調整・見直しは、それぞれの内容・方法などについて、御負担を少しでも軽減するという観点から、きめ細く調整・見直しを図ることとした。

3)、陛下は拝謁・お茶などの形で、年間約100回に及んで、国内外の数多くの方々とお会いになっている。なかでも春・秋の叙勲に伴って、50回以上の拝謁が春・秋それぞれ7日間あるいは8日間にわたって連日行われる。拝謁などについては、春・秋の叙勲に伴う拝謁を中心に、手順の見直しなどを通じて、回数・日程を縮減したい。茶会などについても、一部日程の短縮など行事内容のこまめな見直しを進めたい。

4)、外国賓客等の御引見などの回数は年間100件以上に上っているが、このうち年間10件前後お会いになる首相級の外国賓客に関しては、原則として公賓または公式実務訪問賓客として訪日する場合に限りお会いになるなどの調整を行う。昨年は9件に上った外国国会議長の御引見に関しては、今後しかるべき調整を図る。新年や天皇誕生日における祝賀行事は、行事内容の見直しを行う。

5)、国内の行幸啓は、全国植樹祭など諸々の式典については、今後は基本的に「おことば」はなしとし、御臨席のみとすることを検討するとともに、御臨席になる時間の短縮を進めるなど、行幸啓日程全般の見直しを進める。

6)、宮中祭祀は、例えば新嘗祭については、当面、「夕の儀」には従来どおり出御になることとし、「暁の儀」は時間を限ってお出ましいただく。毎月1日に行われる旬祭は、5月1日と10月1日以外の旬祭は御代拝とする。

7)、調整・見直しは関係者や関係機関などとも相談しつつ逐次実施に移し、今後、必要に応じて更なる見直しを加える。

 これらが、本格的調整として相応しいものだったかが問われています。

▽3 どこが調整なのか?


 実際の調整はどうなったのか、昨年と比べてみます。

 宮内庁の発表によると、昨年の今ごろの陛下のご日程はこうでした。

〈https://www.kunaicho.go.jp/activity/gonittei/01/h20/gonittei-1-2008-1.html〉

 これに対して、今年は以下のようになっています。

〈https://www.kunaicho.go.jp/activity/gonittei/01/h21/gonittei-1-2009-1.html〉

 これらを見比べれば、いったいどこがご負担軽減のための調整なのか、首をかしげたくなります。きめ細かい見直しをするという姿勢は理解できますが、逆にいえば原則もなく、思い切った軽減にはほど遠いといわざるを得ないでしょう。

▽4 祭祀への越権介入


 どうしても、と陛下が仰るのなら別ですが、帰朝大使のお茶や会計検査院長らとの午餐などは皇太子に任せるというようなことはできないのでしょうか。帰朝大使らにも遠慮という発想はないのでしょうか。

 結局のところ、宮内庁の発表から一週間、いくら口を酸っぱくして説明しても、何のことはない、旬祭の親拝が御代拝に代わっただけのように私には見えます。

 つまり陛下の聖域である祭祀に宮内官僚が越権的に介入しただけではないのでしょうか。要するに、「祭祀はすべてやめ、植樹祭と国体はお出ましに」と祭祀の伝統破壊を画策した、悪しき入江相政侍従長時代への先祖返りです。

 これに対して、陛下は孝明天皇例祭に親拝されています。まぎれもない祭祀王としてのご自覚からなのでしょう。争わずに受け入れるという至難の帝王学を実践し、「国中平らかに安らけく」と、国と民のためにひたすら祈る、天皇第一のお務めである祭祀を守ろうとされているのだと拝察します。

 最後に、皇太子殿下会見について触れるつもりでしたが、長くなりましたので、次回に譲ります。


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