おがくずの行方は長門牧場
当社がある長野県小県郡長和町には大自然に囲まれた211ヘクタール、東京ドーム45個分という広大な土地を有する「長門牧場」があります。長門牧場では生産・製造・販売までを一貫して行い、安心・安全で良質な商品を皆様にお届けしています。
当社の林材工場で木材を加工する際に出たおがくずはこの長門牧場で有効利用されています。
今回は長門牧場の取締役兼酪農・レストハウス部長の井上雅義様にご協力頂き、おがくずがどのように使われているのか、お話をお聞きしました。
長門牧場の楽しみ方
長門牧場は、長野県の中心地より少し東側に位置しています。牛から乳を搾り、製品にし、販売までを一連して自社で行っています。また、自社で人工授精を行い赤ちゃんを産ませて育てています。
そんな長門牧場ではたくさんの楽しみ方が出来ます。
①動物とふれあう
牛・羊・アルパカたちとの触れ合いが出来ます。(11月から冬期期間はできないとのことですが、牛は11月末頃までふれあいできるとのこと。)
写真:長門牧場公式Instagramより
②絶品ソフトクリーム
長門牧場で一番人気の濃厚でミルキーなソフトクリーム!ソフトクリームのアレンジバージョンも期間限定で楽しめます。
写真:長門牧場公式Instagramより
③草原で楽しむ
とにかく広い長門牧場。たくさんのきれいな緑に囲まれて、気持ちの良い空気の中、開放感にあふれ、のんびりと過ごすことができます。
長門牧場ではバター作り、アイスクリーム作り、チーズ作り、それぞれ体験が出来ます。また、トラクターに乗り普段は入れない牛舎や草原を遊覧したり出来ます。(今年度は新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点からすべて中止となっています。)
写真:長門牧場公式Instagramより
薪窯で焼いた本格ピッツァと自家製乳製品を使ったカレー、ドリア、クラムチャウダー、ヨーグルトなど様々な料理が楽しめます。
写真:長門牧場公式HPより
長門牧場で生産され一つ一つ丹精こめて製造された安心安全の商品がたくさん。ここでしか手入らない商品も数多くあります。
写真:長門牧場公式HPより
おがくずの使い道
そんな魅力あふれる長門牧場でおがくずはどのように使われているのでしょうか。実際に使われているところを見せて頂きました。
牛舎(当社の集成材が使われています。)
ここは牛舎の中です。当社で出たおがくずは、長門牧場の牛舎で牛のベットとして利用されていました。この写真の牛の下にひかれているのがおがくずが混ぜられた発酵堆肥です。
(※衛生管理の観点から通常牛舎には関係者以外入ることが出来ません。今回は特別に許可を頂き入らせて頂きました。)
おがくずは当社から大きなトラックで長門牧場まで運ばれ、一旦おがくずの保管場所へ入れられます。そこから必要な時にホイルローダーですくっておがくずを牛舎にまきます。
毎日必ず1回は発酵堆肥におがくずを足して攪拌し、また少し発酵をさせます。
攪拌することで水分が蒸発し、サラサラのベットが完成します。
なぜおがくずなのか?
その理由は広い場所に引きやすいということ以外に、水分、においを吸収してくれるから。おがくずがないと牛の尿やふんでべちゃべちゃになってしまいます。おがくずがあることで牛の体がきれいな状態に保たれ、乳質も良くなるそう。牛にとってきれいな環境で飼うことが何より大切だそうです。
この方法はコンポストバーン牛舎と呼ばれ、アメリカではこの方法が増えてきているそうですが、日本ではまだ数件ほどしかやっていない方法とのこと。大変貴重なものを見せて頂きました。
ベットは50㎝ほど厚みがあり、さらさらふわふわ。しっかりと厚みを持たせクッション性があることで600キロ~700キロある牛の安全性にも繋がっています。また、毎日攪拌し、さらさらなベットを保つことで乳房炎などの減少にも繋がっています。
牛舎で使われたおがくず入りの発酵堆肥は少しずつ削られて、長門牧場の別の場所にある「堆肥舎」へと運ばれます。
ここが堆肥舎です。まず黄色いショベルカーのとなりに発酵堆肥を積みます。徐々にずらして切り返していきさらに発酵させていきます。最終的に一番奥(写真では左側の場所です)に移動させ、完成となります。
この完成した完熟堆肥は、県内の農家さんなどに無料で提供しており、大人気ですぐになくなってしまうそうです。
長門牧場のこだわり
長門牧場では何よりも食の安全に力を入れ、安心安全の商品を皆様にお届けできるよう日々皆さんで取り組まれています。
農場HACCP認証(乳用種)
今のところ長野県の牧場では長門牧場しか認証を受けていない、農場HACCP認証(乳用種)。原料の受入れから最終製品までの各工程ごとに危害要因を分析し、危害の防止につながる特に重要な工程を継続的に監視・記録する工程管理システム。(参考:農林水産省HP)農林水産省から長門牧場の牛乳は安心安全で生産されていますという証明書が発行されています。3年に1回審査があり、検査官が来て、牛舎管理がちゃんと徹底して行われているのか確認します。この審査がかなり厳しいそうで普段から、いつなにをどうやったか、管理方法や衛生管理など事細かに記録を残しておかなければなりません。
ISO22000
その他にチーズなどの製品を作っている製造棟ではISO22000を昨年取得されています。ISO22000は、継続的に安心安全に食品を生産するための品質マネジメントシステムに関する国際規格です。今までももちろん徹底して行っていましたが、すべてきちっとルールにはめこんでさらに徹底されているとのこと。自分たちだけの判断ではなく、第三者機関からしっかりと審査を受け、指導をもらいながらより一層安全な商品をつくることを心掛けていらっしゃいます。
写真:長門牧場公式Instagramより
蓼科山が育む地下水
また、すべての原点は水にあると話す井上さん。長門牧場には水道がありません。標高1400m超えるこの場所から地下水をくみ上げてきて、その水を使い牛を育て、製品の加工まで行っています。牛乳の87%が水分であり、天然のおいしい水を飲んで育った牛の牛乳ははやり格別とのこと。
なんと、なんと、この天然水は無料でお持ち帰りが可能です。レストランの売店でお持ち帰り用のペットボトルの販売があり、専用の蛇口よりお客様が自由に持ち帰ることができます。
ちょっと余談
実は今回、2年前に導入されたという搾乳ロボットを見せて頂くことが出来ました。
搾乳ロボット「DeLaval」
「DeLaval(デラバル)」というスウェーデンのメーカーの搾乳ロボット。牛は24時間自由にこのロボットの中に入り搾乳することが出来ます。まずカメラで乳頭を検知してレーザーで距離を測り、乳頭の洗浄と前しぼりという乳頭に刺激を与え、乳を出すための準備を行います。その後搾乳を行います。
牛にはICチップのついたタグ番号がぶらさげられ、1頭1頭の牛が識別されています。さっき搾乳した牛は連続で搾乳できないようにシステムの設定がされています。
ロボットを導入する前は朝・晩の2回搾乳をしていましたが、能力がいっぱいある牛は2回の搾乳では足りず、乳が張って痛がります。このロボットがあれば24時間搾乳が可能なので牛によっては1日に4、5回このロボットに入ります。乳が張る前にしぼってくれるので牛のストレスも減り、牛乳をつくる乳腺細胞にも負担がかからず、通常の1割~1.5割ぐらい乳量もUPするそうです。
ロボットが搾乳している最中、牛は餌を食べます。いっぱい乳を出す牛には餌も多く与えるように設定がされています。この番号の牛はこの時間ならこのぐらいの乳量が出るという平均値がロボットで分析されており、それに対して量が少なければ、「この場所ちょっとおかしいかも。病気かかってるかも。」すぐに井上さんの携帯に連絡が届きます。
この他にもこのロボットは出来ることがたくさん。
妊娠していない牛に対し、定期的に自動で牛乳をサンプリングしてホルモンの値を計測。「発情いつくるよ」「発情したよ」「何時間後に授精したら受精率いいよ」「妊娠したよ」「乳質が悪いよ」「餌食べてないよ」すべて教えてくれるそうです。驚きです。知らせが来ると井上さん自身でもチェックをするそうですが、悔しいほど当たっていて、この機械の精度はものすごく高いそうです。
この搾乳ロボット「DeLaval(デラバル)」は、スウェーデンの本社と業者と光ケーブルで通信を常にしていて、ロボットも携帯のように自動で定期的にアップロードがされるそう。調子が悪くなる前に「そろそろこれ交換して」と知らせてくれるので不具合が起きてどうしようもないってことは今まで一度もないそうです。さらには複数個所にカメラが設置されていて、牛がどんな状態なのか離れていても把握できます。牛の過ごしやすい電気の明るさ、温度に空調も自動調整されるとのこと。
本当に何から何まで至れり尽くせりです。牧場でこんなにも機械化が進んでいるとは想像がつきませんでした。
搾乳ロボット「DeLaval(デラバル)」が日本に入ったのは20年前で、北海道では500台ぐらい導入されており主流となっていますが、長野県ではまだ3台しか導入されていないそうです。定価なんと2500万円。この他に牛乳の検査機械が1000万円。
今まで80頭近い牛の搾乳を従業員3人で行っていましたが、このロボットを導入してからは、お産したての牛や、病気で治療中の牛乳出荷できない牛、足腰が弱い牛を1人が担当し、あとはロボットが搾乳をしてくれます。
このロボットが今やっていること全部、今までは何から何まで少ない従業員人数で作業していました。井上さん「この年になると身体もきつくなってくる。酪農家たるもの自分の手でって思いは常にあるけれど、後継者にも酪農を続けていってほしいって思いもあって導入を決意した。」とおっしゃっていました。
お値段は高いですが思い切ってこのロボットの導入を決意、労働環境改善にもとても役立っているそうです。
まとめ
当社のおがくずが長門牧場で有効利用されているのを見させて頂き、改めておがくずも貴重な資源であると実感しました。
木材を加工する際に出たおがくずは長門牧場で牛のベットとして利用され、さらに堆肥となって農家で使われ、その堆肥を使って育てられた食べ物を私たちは頂いている。こう考えてみるととても感慨深いです。当社でもおがくずや皮などをボイラーの燃料とし有効利用していますが、もっと様々なものがこういった形で循環が進めば良いなぁと思うのと同時に、改めて木の良さを感じた体験でした。
レストハウス(当社の集成材が使われています。)
牧場といえば夏のイメージがありますが、冬の牧場もすごくおすすめです。どこを見上げてもきれいな空、空、空。山、山、山。ビルなどはなく、緑がいっぱいに広がり、雲の隙間から透き通った日差しがきれいに入り込み、ほんのり暖かくとても気持ちがいい。ちょっと散歩するだけでもその場所にいるだけでも癒される、そんな大草原でした。
今回井上さんにお話を伺い、ご来場頂いた皆さんに安心・安全に楽しんで頂きたいという、長門牧場の皆さんのこだわり・愛をとても感じました。
井上さん、大変お忙しい中貴重な体験をさせて頂き、本当にありがとうございました。
ぜひ皆さん、冬の長門牧場もお楽しみ頂ければと思います。
長門牧場公式HP https://nagatofarm.com/
所在地 長野県小県郡長和町大門3539番地2
TEL 0267-51-2033
技術でつなぐ木のみらい 齋藤木材工業株式会社 :https://saito-mokuzai.co.jp/
森を循環させるウェブメディア 森の中 :https://mori-naka.jp/