見出し画像

ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#80

佐佐木 政治

同じ感度のアンテナを持ち 共鳴する言葉の中で
他者であり得る 無数の未知なる肉体
神よ 言葉は あなたの意見のまま 地上に繁茂している
ぼくらの肉体の林を 霧のように埋め尽くす 雨のように濡らす

あゝ その土地土池の草の陰に実を結ぶ出生の秘密
その土地土地から できるだけ彼方にむけて ひとは声を発する

一つの固有名詞が叫ぶものを ぼくらは見逃さない
あの消滅寸前の山奥の村落が受け持つ 一つの地名
辺境の腰に結ばれる異却と いつでも用意されている存在
つつましやかなあの峠の一本の桜よ 

神よ そこから発すべき世界へのメッセージは久しく忘れられている
手も切れそうな新しい札束が 価値の代表として用意されているというのに

千切れる雲をみる峠の桜よ 神よ あなたが五十億年の歳月をかけて
作り出した楽園を じかに発せられる声と共に 夜の月が照らす



父・佐佐木政治
昭和6年長野県飯田市に生まれる。飯田高松高校卒業後、大学で仏文学を学ぶことを断念、木曽にて印刷業を営む。生涯、詩を詠み、本を作る。亡くなる二年前に脳梗塞で麻痺や認識障害を患うものの、動かない手を駆使して最後の詩集「神へ捧げるソネット」を手作りした。



>>>>>>>いつもフォトギャラリーから素敵な写真を使用させていただいています。感謝してます。ありがとうございます。<<<<<<  


いいなと思ったら応援しよう!

彩美 saimi
亡父の詩集を改めて本にしてあげたいと思って色々やっています。楽しみながら、でも、私の活動が誰かの役に立つものでありたいと願って日々、奮闘しています。