ボードゲーム制作プロジェクトレポート#4-パンデミック:ホットゾーン&HANABI編-
ボードゲーム制作プロジェクトワークショップも4回目となりました。
前回、前々回の様子は以下のnoteをご覧ください。
今回は「協力ゲーム」をテーマに、「パンデミック:ホットゾーン」と「HANABI」の2つのゲームをプレイしましたが、前回までと少し趣向を変えてワークショップを進めました。
ワークショップの最後には、具体的な「協力ゲーム」のアイデアを出すことにもチャレンジしました!
それでは、その様子をどうぞご覧ください。
1、「協力ゲーム」で起きること
今回はプレイを始める前に、まずは「話し合い」について子どもたちに話し合ってもらいました。
「こんな話し合いはいやだ!どんな話し合い?」
ちょっと大喜利めいていますが、子どもたちに上のテーマについて意見を出してもらいました。
「協力しない」「話し合いが進まない」「1つの意見だけしか出ない」etc...
子どもたちからいろいろな意見が出たところで、「協力ゲーム」で起こりがちな問題として「ボスザル問題」(ボードゲームの界隈では、「奉行問題」と呼ばれています)を紹介しました。
ボスザル問題を、
として定義し、子どもたちに紹介しました。
このワークショップのシリーズでは、最終的に子どもたちにボードゲームをデザインしてもらうことを目指しています。
子どもたちがデザインするゲームが協力ゲームであった場合、この問題は避けて通れない問題と思います。
先の「話し合い」に関する話し合いも含めて、今回のワークショップでは、この「ボスザル問題」に対して、子どもたちが自分たちなりの解決策をゲームデザインにおける仕組みとして考えてもらうことにチャレンジしてもらいました。
2、パンデミック:ホットゾーンの紹介&プレイ!
さて、「協力ゲーム」の1つ目の例として、パンデミック:ホットゾーンをプレイしました。
数ある「協力ゲーム」の中でもパンデミックシリーズは王道と言って良いのではないでしょうか。
「ゲームメカニクス大全」では、実に多くのメカニクス(ゲームの仕組み・仕掛け)の実例として、パンデミックが紹介されています。
ちなみに、ゲームメカニクス大全において「協力ゲーム」は、次のように定義されています。
今回、最新作である「パンデミック:ホットゾーン」を用いましたが、本家パンデミックと遜色なく、様々なゲームの仕組みが使用されていて、子どもたちに「協力ゲーム」を最初にプレイしてもらう上で最適だったと思います。
詳しいゲームのルールは、ボドゲーマ様のページをご覧ください。
今回はルールを事前に知らなかった子どもが多かったため、ルール説明をしてからのプレイとなりました。
この時は特に、4つの役割(衛生兵、通信指令員、研究員、ジェネラリスト)の特徴について強調して子どもたちに伝えました。
2つのグループに分かれてプレイしましたが、残念ながらどちらのグループも勝利条件を満たすことができませんでした。
初見のプレイにありがちなのですが、ウイルスの除去(目の前の対処しないといけない目標)に目を奪われて、治療薬の開発(勝利条件となる目標)を疎かにしがちということが見られました。
あとは、研究員によるカードの受け渡し(通常は自分のコマがいる場所のカードしか受け渡せないが、その制限がない)など、「役割」を有効に活用できていなかったかもしれないですね。
「協力ゲーム」で負けてしまうというのは、「協力ゲーム」ではないゲームと比べて、「全員」が同時に味わうことになるので、子どもたちにとってもこれまで取り上げたゲームと違った経験になったのではないかなと思います。
3、パンデミック:ホットゾーンの分析
パンデミック:ホットゾーンのプレイ後、子どもたちに前回までと同様、分析シートによる分析をしてもらいました。
また、今回はそれに加えて、「パンデミック:ホットゾーンで採用されている「ボスザル問題」へのアプローチはなんだろう?」ということについても考えてもらいました。
子どもたちの分析シートを見てみると、パンデミック:ホットゾーンで取られている「ボスザル問題へのアプローチ」がなんとなくプレイの中で体感できていたのかなと感じられました。
詳しい解説はあとに回し、2つ目のゲーム、HANABIのプレイに移ります。
4、HANABIの紹介&プレイ!
今回取り上げた2つ目の協力ゲームの例が、HANABIです。
HANABIは、自分のカードに関する情報が見えない中で、他のプレイヤーからの断片的な情報をヒントにして、推論を立て、カードを決められた順に場に出していくというゲームです。
なんといってもポイントは、「自分のカードが見えない」ことでしょうか。
個人的にルールが共有できているプレイヤーたちとプレイすることを前提としてとても好きなゲームではあります。
詳しいHANABIのルールに関しては、コチラをご覧ください。
「ルールが共有できている」と書いたのにはちょっとした理由がありまして、HANABIでは、「原理や約束を心得ていること」ことによって論理的な推理、演繹的な推理を行うことができるようになっています。
この原理や約束がなかなか曲者で、「コチラのカードに関するヒントを言わなかったから、つまり・・・」のような推測は、ある程度それが相手と共有できている前提で進むわけですが、HANABIを初めてプレイする子どもたち同士でそれをするのは大変難しいわけでして・・・。
実際、1つのグループのプレイの様子を見ていたのですが、プレイヤーのうち数人は、その前提を理解してヒントを出している一方で、それが共有できていない人の間では、ヒントが役に立たないということが起こっていました。
これは、本当に仕方ないことです。
特定の子どもについては少しきつい体験になったかもしれませんが、うまくヒントに関するコミュニケーションが成立しなかったことも含めて、HANABIの醍醐味でもあるかなと思います。
時間が足りなくなってしまい、途中までとなってしまったことは少し残念でした。
5、「ボスザル問題」に関する解説
パンデミック:ホットゾーンと同じように、子どもたちに通常の分析に加えて、HANABIで取られている、「ボスザル問題」に対するアプローチについて考えてもらいました。
その後、講師の方から2つのゲームで「ボスザル問題」に対してどのようなアプローチが取られているか、簡単に解説をしました。
パンデミック:ホットゾーンでは、プレイヤーごとに「役割」を割り当てることで、1人のプレイヤーがゲーム中のすべてのアクションを牛耳ることができないようにしていることを伝えました。
(といっても、実はこれは直接的なボスザル問題の解決にはなっていないという指摘もあります)
一方で、HANABIでは、プレイヤーごとに得られる情報に制限があること、コミュニケーションに制限があることの2つを挙げ、それによって必然的にボスザルが登場すること自体を防いでいると解説しました。
特にHANABIの方では、なんの制限もない状態では、ボスザルが自由に発言できたり、知識や経験を振りかざして他のプレイヤーをコントロールしようとすることを、ゲームデザインの仕組み・仕掛けで防いでいます。
ここまで解説したところで、ではそもそも「ボスザル問題」が問題として出てきてしまうのか?について、講師なりの仮説を子どもたちに紹介しました。
1つは、「協力ゲーム」の勝利条件に関するものです。
全員の勝利を目指すという構造は、必然、誰かのおかげ、誰かのせいという考えを生みやすくしています。
あるプレイヤーが、その「誰かのおかげ」というところに重きを置いたり、勝利することを至上命題にするような場合、そのプレイヤーが「ボスザル」になってしまう可能性は否定できません。
ここでは、具体的な解決策は子どもたちには示さず、「協力ゲーム」の持つこのような構造だけ紹介しました。
そして、もう1つは参加するプレイヤーの特徴や属性によるものです。
プレイヤー同士の間に、歴然として知識や経験、能力の差があった場合、知識量や経験値が多く、能力の高い人の発言はとても大きな力を持ちますし、ゲーム全体の方針を決めていくことが容易に考えられます。
もちろん、その人がゲームのプレイ中に意識して大きな力をふるわなければボスザルは生まれない、というのはありますが、協力ゲームという構造自体がプレイヤーのそのような不均衡に対して、ゲーム側から抑止しているわけではないところがミソです。
さて、ここまで解説してきたところで、子どもたちに思ったことを尋ねる時間を取りました。
すると、ある子が、「(今スライドに表示した)2つがなかったら、協力ゲームが面白くならないんじゃない?」と言いました。
すっごく鋭い指摘ですよね?
まさにその通り!
そもそも人が「協力」するには理由があって、ここで挙げた2つは人々が協力する理由そのものでもあるんですよね。
「協力ゲーム」も1人のプレイヤーの知識や経験では足りないから他の人と協力して、全員で目標の達成を目指すものであるに違いありません。
(正直ハッとし、ワークショップをやめて思索にふけようかと思いましたが、いったんその子の意見を大切にしつつ、)
その上でなお子どもたちには協力ゲーム上で起きてしまう「ボスザル問題」に対して、ゲームの仕組みや仕掛けによって解決する方法を考えてもらいました。
6、ボスザル問題を解決するゲームデザインの仕組みや仕掛けを考えよう!
さて、ここからがワークショップの大事なところです。
子どもたちに、先にのべた問題に対していろいろなアイデアを出してもらいました。
「なるほど、そうか!」「それ、いいね!」と思う意見がたくさん出たと思いませんか?
これらを実際に自分たちの作る「協力ゲーム」に組み込んだゲームができればとっても良いですね。
ちなみに、講師からは「協力して勝利を目指す」というゴールの設定を変えたらどうなるか?という視点から、「お邪魔者2」や「テレストレーション」で取られているアプローチを解説し、違った形の協力ゲームを紹介しました。
いつかこれらのゲームにも子どもたちに触れてもらえればと思います。
今回のまとめとして、「協力ゲーム」で起こりがちな「ボスザル問題」という問題を解決するという視点からゲームデザインの仕組みや仕掛けを子どもたちに考えてもらいました。
ゲームデザインの手法は多様にあると思いますが、今回子どもたちには「問題解決を出発点としてゲームデザイン手法」を体験する機会になったのではないかと思います。
次回は、また別のゲームデザイン手法を子どもたちが感じられるように、ワークショップを進めていく予定です。
「5本のきゅうり」と「スカルキング 」の2つのゲームをプレイします。
次回の報告もどうぞお楽しみに!
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