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2020年サイコロ塾のレッスンで使ったゲームまとめ

2020年、サイコロ塾では全部で9種類のゲーム(体験会を合わせると12種類)を用いたレッスンを子どもたちに行いました。

今回は、2020年にサイコロ塾のレッスンで使用したボードゲームについて、どのような理由でそのゲームを選択し、どんな目的を持ってレッスンで用いたかについて、実際にレッスンで遊んだ際の子どもたちの様子を紹介しながら書いていきます。

サイコロ塾のカリキュラム設計に通じる話も書いていますので、ボードゲームを子どもたちの学びに使おうと考えている方の参考になればと思います。


はじめに:使用するボードゲーム選択の方針

はじめに、サイコロ塾で使用するボードゲームを選ぶ際の全体的な方針を書きます。個別のゲームを選んだ理由や目的については、次項以降に書いていきます。

サイコロ塾は、小学1年生以上の子どもを対象にしています。小学1年生は、「ひらがな」「カタカナ」などを学習し始める時期です。漢字をのぞいた、読み、書きがやっとできるようになるかならないかという頃です。それまで話し言葉中心の世界で生きてきた子どもたちにとって、文章を読んで理解するということは難しく感じられることだと思います。

そこで、ゲームを選択する1つ目の基準として「話し言葉中心の説明で子どもたちが理解して遊ぶことができる」を設定しています。

もちろん、いくつかの過去のnoteで書いているように、最終的には自分たちでルールを読み込んで理解していくことを目指してはいますが、初めのうちは耳から入った情報と、目の前のボードゲームそのものを見ながら理解してプレイできるゲームを選ぶようにしています。

もう1つ別の視点として、サイコロ塾に参加する子どもたちはいわゆる「ボードゲーム初心者」であると考えられます。それまで、双六やトランプのゲームなど一部のボードゲームに触れてきたことはあっても、サイコロ塾で取り扱うようなドイツを中心に広がりを見せているようなボードゲームには触れたことがない子どもたちが多いと思います。そのような子どもたちは、双六やトランプゲームをプレイした経験から、それらについては「楽しさ」を感じられてはいても、初めて見ることになるであろう「ボードゲーム」については、「楽しさ」や「ワクワク」といった体験を想定して向かってくれない可能性があります。

そこで、ゲームを選択する2つ目の基準として、「ゲーム開始から短い時間の間に楽しさやワクワクを感じられる」ことを設定しています。(実は、この基準は失敗体験から得た教訓です。)

いわゆる重量級ゲームで想定されているような、ゲーム全体を通して感じられる「楽しさ」はもちろんありますが、子どもにとっては、選択をいくつも重ねていった先にある「楽しさ」は、経験していなければなかなか想定しにくいものであると思います。また、「何かを得る」「拡大する」といったことは子どもたちにもその「楽しさ」がわかりやすい一方で、「誰かの考えのウラをつく」「駆け引き」などの「楽しさ」はボードゲームに慣れた人向けであると言えます。

そのため、1回の選択がすぐに結果に結びつく、ゲームのサイクルが短いゲーム(ラウンドで区切られている、など)、楽しさがわかりやすいゲームを選択していることが多いです。

最後に、カリキュラム設計の話になりますが、サイコロ塾では月ごとのテーマ=学習内容を設定しています。「ボードゲームで学ぶ」場合、「何を」「なんのために」という点を考えることが非常に大切だと思います。(詳しくは最近noteを書いたので、見てみてください!)

月ごとにテーマを設定することで、子どもたちに「何を」「なんのために」をわかりやすく伝えることを目指しています。子どもたちがサイコロ塾に参加することで、「こんなことを学んでいるんだ」と自覚できるようにというねらいです。テーマ自体も、子どもたちに耳馴染みのあるもの(例えば、「コミュニケーション」)からはじめています。

この「テーマ=学習内容に合わせたボードゲームを選ぶ」というのが3つ目の基準になっています。

以上、3つのボードゲーム選びの基準を説明してきました。お気づきかと思いますが、サイコロ塾のゲーム選択は、「子ども向けのゲームだからレッスンに使おう」というところからスタートするのではなくて、あくまでサイコロ塾のカリキュラム設計・レッスン設計に合わせた形でボードゲームを選んでくる、というふうに考えています。そのため、一見すると「子ども向け」に見えないボードゲームを選ぶことがありますが(実際、ゲーム側で設定されている対象年齢が子どもたちの実際の年齢より高いこともよくあります)、そのあたりは、実際のレッスンでのファシリテーションを工夫している、ということになります。

ここまでが、以前noteで書いたボードゲームのキュレーションに当たる部分です。実際にゲームを選ぶのにはかなり苦労します。おおよそ、3つ目の基準である学習内容からスタートして、ボードゲームを探し始めることが多いですが、ボードゲーム全体でそれを実現することが可能な場合もあれば、ボードゲームのメカニクスの一部分を取り出して、そこを用いることで実現しようとする場合もあります。うまく、ハマらない(その他の要素に気を取られ過ぎてしまう)ことも多いので、普段から「このボードゲームのこういう部分は、こういうテーマ=学習内容で使えそうだな」というようなことをストックしておくことにしています。

あとは上記の説明からは漏れてしまいましたが、細かい基準として、「運だけのゲームを選択しない」「「選択する」行為があるゲームを選ぶ」「1プレイをレッスン内で終えられる」「いつでも手に入りやすい」などを設けています。

さて、ここまで書き切って、ようやく次項から具体的に2020年にサイコロ塾のレッスンで使用したボードゲームについて紹介します!


1、ザ・ゲーム

サイコロ塾で1番はじめに取り上げたゲームは、「ザ・ゲーム」でした。初めの月のテーマを「コミュニケーション」としたのち、何が適切だろうと考えていた中で、選んだのがこれでした。

「コミュニケーション」の中でも言語によるコミュニケーションを取り扱うのが、初回としては入りやすいかなという思いがありました。

一口に言語によるコミュニケーションではあっても、程度に関して「具体ー抽象」の軸を取り上げることで、子どもたちが普段使っている「ことば」に注目してもらいたいという思いからでもあります。

ザ・ゲームは、協力ゲームなので「ボードゲームには「競争」だけではなくて、「協力」という目的のゲームがあるんだ」と知ってもらうにももってこいでした。

達成状況が残りのカードの枚数で示されるということもあり、次回に向けてプレイを改善しようという意欲が湧きやすいというのもポイントです

「ザ・ゲーム」を用いたレッスンの様子は以下のnoteをご覧ください。


2、TEAM3

引き続き「コミュニケーション」というテーマでゲームを選択したのが「TEAM3」です。

「ザ・ゲーム」の時に書き忘れていましたが、サイコロ塾のカリキュラムで最初の1月のテーマを「コミュニケーション」にしたのは、子どもたちにとって当たり前すぎるくらいに身近なことだけれど、改めて意識してみて欲しいという思いからでした。

TEAM3とザ・ゲームは「コミュニケーション」という同一テーマで選択したものですが、TEAM3は特にコミュニケーションの手段の多様性とそれぞれの特徴について子どもたちに体感してもらうことを目指しました。

カードに描かれたお題を達成していくという形なので、1回1回のプレイサイクルが短く、難易度が複数段階あるため子どもたちの様子をみながら、進度を調整しやすいという運営上のメリットがとてもあるゲームでした。

副次的ではありますが、心的回転(メンタルローテーション)の力や、図形に対する認知について子どもたちの能力を確かめたりすることもこのゲームでは行うことができました。

協力ゲームを行う場合、それぞれのプレイヤーに役割を持たせたものが、より「協力している」という感覚を抱きやすいのではないかと思っています。その点で、このTEAM3はよく機能するのではないかと思って選択しました。


3、ヒトトイロ

自分と他人との感覚の違いや同じところについてゲームで知るというテーマで「ヒトトイロ」を選択しました。

全員で出したカードの色を一致させるという目的は子どもに伝わりやすく、実際にしなければならないことも色カードの中から1枚カードを選ぶだけなので、わかりやすかったと思います。

成否によってプレイヤー同士の感覚の違いが明らかになりますが、それをゲーム上のゴールが達成できず、残念だったという方にもっていくのではなく、面白いという方にもっていくのはファシリテーションが重要です。

また、あえてそれぞれのプレイヤーの間で色の捉え方に多様性が生まれるようなお題を選択することも可能です。お題は予めゲーム側で準備されたものもありますが、自由度高く設定できる点もレッスン上のメリットです。

もちろん成功した時には、子どもたち全員にとって嬉しい体験になると想定していました。


4、ito

特定のテーマに対する程度の感覚を他人とすり合わせる体験ができるゲームとして「ito」を選択しました。

数を単語で表現するのは、テーマによって難しいものもありますが、子どもたちに寄り添った、身近なテーマを設定することで十分にプレイ可能と判断しました。

このゲームは、1枚のカードを順番に出すことができれば良いので、「カードを出すことができた」=「成功体験」が起こしやすいです。何より全員がカードを出せた時に1つのテーマに対する軸をみんなで共有できたという経験になるのでないかと考えました。

実際は、個人にとっての価値と、一般的な価値のズレに気づくという体験もあったようでした。

ヒトトイロとitoの実際のレッスンの様子はこちらのnoteからご覧ください。


5、クイズいいセンいきまSHOW!

クイズゲームですが特定の正解があるわけではなく、参加している人たちの出した回答を順に並べて、ちょうど真ん中の回答が正解になるというものです。正解になる答えを全員の回答のすり合わせ、全員の感じ方のすり合わせで決めていくことになる点が、お互いの感覚を知ることに繋がるということからこのゲームを選択しました。

単に知識を問うクイズゲームは他学年が同時に参加するサイコロ塾のレッスンに不向きであると思っています。クイズいいセン行きまSHOW!は、クイズに参加するという点での敷居を低く設定できるため、多くの子どもが楽しみながら上の目的を達成できると考え採用しました。

論理的に考えられた「正解」が必ずしもその時のメンバーにおける「正解」にはならない、そこに差が生まれるということも子どもたちに感じて欲しかったことでもあります。

また、クイズは回答する側だけではなく、出題する側になることもできるので子どもたちをゲームプレイに引き込みやすく、身近な人物を題材にしたオリジナルのクイズを作れることも魅力的でした。


6、スコットランドヤード:東京

チームワークというテーマで選んだゲームがこの「スコットランドヤード:東京」です。

普通の「スコットランドヤード」と大きくゲーム性は変わらないので、講座を開いている場所が東京タワーのお膝元ということもあり、東京ver.を選択しました。

ボードの上で、怪盗ミスターXと複数人の警察が追いかけっこをする非対称の対戦ゲームですが、子どもたちにあえて警察側になってもらうことで、テーマである「チームワーク」に焦点化できると考え採用しました。

ボード上の各コマを動かすことが双六など子どもたちがすでに経験してきたゲームと親和性があって取り組みやすいのと、自分たち1人1人がコマを担当するので自ずとゲームへの没入がしやすくなるといった良さがあります。

ゲームの流れは、「見えない」ミスターXとの追いかけっこなので、子どもたちが戸惑うかと思いきや、ミスターXが1回姿を現して以降は、居場所が「隠されている」ことに対してワクワクや期待感を膨らませてプレイすることができたのかなと思います。

思えば、レッスン5回目にしてサイコロ塾では初めて本格的な「ゲームボード」を用いたゲームを取り扱いました。ボードやコマが子どもたちのワクワクや期待感を引き起こすことを確かに感じたレッスンでもありました。


7、マジックメイズ 

チームワークというテーマでゲームを選択することを考えた時、切っても切れない概念として「役割」があると思っていました。この「マジックメイズ」はプレイヤー1人1人の、各固有の役割が大切なゲームです。ゲームを通して、「役割」という概念に触れることができればと思い選択しました。

ゲーム中に取れるアクションは、それぞれ1つか、多くても2つと非常にシンプルですが、決して1つのアクション=1人の力では目標達成ができないようになっています。

本来は、言葉やジェスチャーでのコミュニケーションが制限されるルールがありますが、その制限を採用せずとも、協力や役割分担という体験が味わえると考え、初めの導入ゲームではコミュニケーションの制限をせずにプレイしました。

また、見るべき情報(砂時計、目標物、ワープなど)が様々な場所に散りばめられていたり、目標が複数、階層的にあったりすることで、自然とマルチタスクな力を要求されます。

大人が真剣に取り組んだとしても非常に難易度が高いゲームではありますが、子どもたちにとっても取り組める要素がたくさん詰まったゲームです。「チームワーク」というテーマではなくとも、様々な学びのねらい(非言語コミュニケーション、計画性、タイムマネジメントなど)を持って使っていきたいゲームです。


8、クルード

「論理的思考」をテーマに選択したゲームです。子どもたちにとって論理的思考はすごく大切ですが、一体何それ?というレベルで馴染みのないことかと思います。ですが、幸か不幸か「推理」ということであれば、身近に感じてもらえます。

「クルード」はそのように不謹慎ながらも、子どもがワクワクしてしまうような失踪事件をテーマにした推理ゲームです。「推理」というテーマからうまく学習内容(論理的思考)に引き付けることができるのではないかと思って選択した背景があります。(実際、クルード自体に某名探偵ver.があったりしますしね。)

ゲーム内で行われる推理は、推理といっても情報を集めていけば、そこまで論理を使わずともゆくゆくは正答を絞り込めるものにはなっています。とはいえ、「他のプレイヤーより早く」というゲームです、情報の整理の仕方や他のプレイヤーからの情報の引き出し方、情報の組み合わせ方には論理的思考が必要であることは間違いないです。

ゲーム中は、あたかも本当に探偵になったかのようにメモを使って推理していくことができるので、カードやボードなどの視覚情報も助けになって、推理しやすくなっていると思います。

繰り返しプレイすることで、確かに尋ね方、論理的推理力が磨かれていくのではないでしょうか。


9、シークレットムーン

「論理的思考」ということを考えた時に、はじめに提案していたのが「ワンナイト人狼」でした。

ワンナイト人狼は、「人狼」と名前はついていますが、ゲーム途中での脱落がなく1プレイが短い時間で終えられます。そうはいっても他の人の行動(の背景)をじっくり考えながらゲームを進められるという良さがあり、採用したいと考えていました。ところが、「人狼」の持つネガティブイメージは意外にも広まりを持っていて、習い事事業の中で取り扱うことに「待った!」が入ってしまいました。そこで、その代わりに採用したのが「シークレットムーン」です。

他にも「人狼」の代わりになる候補をいくつか考えていましたが、運だけではなく、プレイヤーがしっかりと論理的な考えに基づいてゲームを進められること、会話によるコミュニケーションの得手不得手に依らずゲームを展開できることなどの理由からシークレットムーンにしました。

取れるアクションの内容が決まっていたり、アクションをする順番も決まっていたりするので、子どもも何をするかわかりやすいと思います。

ゲームが進み、情報がある程度公開されてくれば、「AだからBをする」という論理を自分たちで立てて、行動を選択することができるのではないかという目論見でもありました。


番外編:「チケット・トゥ・ライド・アメリカ」と「じゃぱらん」

実は、現在の形でサイコロ塾のレッスンを本格的に始動する前に、体験会を開いてボードゲームを子どもたちにプレイしてもらう機会を設けました。

その体験会で使用したゲームが「チケット・トゥ・ライド・アメリカ」と「じゃぱらん」の2つのゲームです。

そして、ここからがちょっとした失敗談かつボードゲームの選択基準を考える良いきっかけとなった話についてです。

失敗1:現在のサイコロ塾のレッスン進行と同じような方法で、「ルールを自分たちで読んで理解してもらい」、プレイしてもらおうとしたが、体験会でするゲームにしてはルール量が多すぎた

どちらのゲームも、自分の番にすること自体はそこまで多くないのですが、何せ初めて本格的なボードゲームに触れる子どもたちが、ルールを読んで理解するにはルール量が多く、プレイを開始するまでにルールの全体を記憶しておくことも難しいということがわかりました。

結局、子どもたちがルールを読んでプレイすることができなかったので、ボードを前に具体的にプレイを進めながら説明をすることになり、レッスンの進め方について改めることを考えざるを得ないなと思いました。

まずは、「ボードゲームって楽しいものだ」と感じてもらうことが1番に来なくてはならない、ということにハッと気づいた体験会となりました。


失敗2:チケット・トゥ・ライドの「行先チケット」がうまく達成できず、子どもが諦めてしまった

チケット・トゥ・ライドにおける「行先チケット」というのは、ゲーム全体の長期的目標を決めるもので、ゲームに慣れた人にとっては、その時々のプレイの方針となるものです。ゲーム終了時に、行先チケットに記されたルートをつなぐことができたかどうかで得点が大きく入ったり、逆に減点になったりもするので、見た目の得点で負けていたとしても逆転要素となることから、ゲームの面白みにもなっている部分でもあります。

ところが、子どもにとっては、フィードバックがあまりにも後から与えられるものであるため、それを楽しみにできるだけの意欲や動機づけを保てるものにはならず、最終的にはマイナス点にもなってしまうことから「課題」のように感じてしまったのかなと思います。

子どもが「楽しい」「面白い」と感じることには「短時間に!強く!」みたいな性質があって、山登りの最後の山頂から見る景色よりも、まずはとっかかりとして、「やってやった」という手ごろな達成感が得られることが必要なのだなと感じさせてもらった一幕でした。

これらの失敗体験はしっかりとその後のゲーム選択の基準や、レッスンの進め方にも反映されていると思いますし、体験会全体が失敗だったわけではなくて、今でも「チケット・トゥ・ライド楽しかった、もう1回やりたい」と言って、サイコロ塾に入ってくれた子もいます。

とはいえ、体験会は最初のつかみ!そこで使うゲームについては、今後しっかり選んでいきたいところですね(笑)



思いがけず長文になってしまい、投稿するのが2021年になってしまいました。ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました。

単に「子どもたちとプレイするゲーム」としてだけではなくて、しっかり「学びの意図を持ってボードゲームをプレイする」=「ボードゲームで学ぶ」ことを考える際の助けになっていれば幸いです。

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