ボードゲーム制作プロジェクト:試作編①「ジレンマ」を作ろう!
こんにちは!
先日、ボードゲーム制作プロジェクトワークショップの第4回を実施しました。今回は、前回子どもたちが練り上げたコンセプトを元に、具体的なゲーム内容を作っていきました。前回の様子はこちらからどうぞご覧ください。
さて、いくつかのゲーム作り制作プロジェクト、ゲームジャムの経験を経て「サイコロ塾」でボードゲーム制作を子どもたちと行っていく場合に、通常は以下のようなプロセスでゲーム作りをしていっています。
今回も基本的にはこの流れを踏襲していて、今回は図でいうところの「ミニマムサイクルの作成」「プレイヤーの目標設定」を行う段階ではあるのですが、これまでの経験からその前にワンクッション置いて、子どもたちに考えておいてもらった方が良いことがあると気づきました。
それは、「ジレンマ」ということについてです。今回は、子どもたちにこのジレンマについての話をして、「ミニマムサイクルの作成」「プレイヤーの目標設定」を行っていきましたので、その様子をご報告します。
1、「ゲーム」とはそもそも何か?
「ボードゲーム制作プロジェクト」と題したワークショップを行っていますので、「ゲーム」とはそもそも何か?なんて今さら考えることではないのではないかと思われるかもしれません。実際、「ゲーム」という言葉自体は、自分のようなその分野の研究者でなくとも、言葉を覚えたての幼児でも日常会話で用いるくらいです。とはいえ、その定義と言われるとどうでしょうか?正確に言うことが難しいということが分かります。かくいう僕も、「ゲーム」の構成要素や要件についてはスラスラと言えますが、広く普及した一意に決まった定義を言えと言われると、答えに困ってしまいます。
それは、「ゲーム」の指す範囲が広く、また曖昧であるからです。デジタルゲームも「ゲーム」、ボードゲームも「ゲーム」です。スポーツだって「ゲーム」ということもできます。実際、多くの研究者がこの「ゲームの定義」を定めることにチャレンジしていますが、どんな文脈で扱うかによってその時々で採用されるものが異なります。そこで、今回はその中から、以下のような定義でゲームを紹介しました。
上記の定義について、「ゲーム」の教科書(例えば、ルールズ・オブ・プレイ)で使用される「ゴルフ」の例を用いて上の定義について子どもたちに説明をしました。
「ゴルフ」は、プレイヤーの目標だけを取り出すと、それは「ボールをゴール(カップ)に入れること」になります。それ自体は「ゴール」として存在していますが、もしそこになんの「ルール」もなければ、ティからボールを手に持って歩いてグリーンまで運び、カップに入れてもOKということになります。「ゴルフ」では、ボールをわざわざクラブで打って移動させていくという「ルール」を設定することによって、「ゲーム」たらしめているのです。そして、現実世界では、ボールをクラブで打って移動させていくことにはなんの意味もないのですが、「ゴルフ」というゲームにおいてそのアクションは意味を持つことになります。
「ゲームをデザインする」ということは、「ルール」(や「ゴール」)をわざわざ設定することで、プレイヤーのアクションに意味を持たせることなのです。
考えてみると、スポーツを含めた色々な「ゲーム」のルールって不思議ですよね。そうでなくてはならない絶対の理由はないのですが、「フィールドプレイヤーはボールに手で触れてはならない」ですし、「ボールを持って3歩以上歩いてはいけません」。どれも、「ゲーム」という文脈の中でプレイヤーのアクションを規定し、意味付けているのです。
ゲームとはそもそも何か?という問いについて、子どもたちに答えてもらうと、「面白い」ことをあげてくれました。それも大切な視点ですね。ドロッセルマイヤーズの渡辺さんは、ゲームについて次のような定義をしています。(4Gamer.netの記事より)
ここでも「ルール」というのは大切なことであることが再度確認できます。今回紹介した定義は、(プロジェクト進行のための)あくまで1つであることを理解してもらった上で、子ども自身が「ゲームってこういうもの」と自分の言葉で言えるようになると良いなと思います。
2、「ジレンマ」を作ること
さて、ゲームの定義を確認した上で、ゲーム制作を具体的に進めていきます。昨年行ったゲーム制作プロジェクトによって制作された子どもたちのゲームの特徴の1つが「ジレンマ」がないことでした。このようになってしまったのは、大きな反省です。なぜなら、ゲームデザインの核の1つが「ジレンマ」であるからです。(もう1つの核である「フレーバー」に関してはまたどこかで話せると良いと思います)ジレンマを生み出すことで、「ゲーム」の中に、プレイヤーにとって意味ある体験を生み出すことができるのです。
今回のゲーム制作プロジェクトでは、昨年の反省を生かし、「ミニマムサイクルの作成」「プレイヤーの目標設定」に進む前に「ジレンマ」について子どもたちに考えて作ってもらうことに取り組みました。
「ジレンマ」については次のように子どもたちに紹介しました。
少しイメージがつきにくいと思いましたので、「囚人のジレンマ」「ヤマアラシのジレンマ」「トロッコ問題」という代表的なジレンマについて紹介し、その後、これまでプレイ&分析編で遊んできたゲームについてどういったジレンマがあるかをクイズ形式で尋ねました。
さすがはここまで3回(昨年から参加している子どもたちはもっと)ゲームをプレイしてきた猛者たちです。『ハゲタカのえじき』であれば、「大きな得点になるカードを取りにいきたいけれど、バッティングして取れないかもしれない」というジレンマや、「初めの方で大きな数字のカードを使いすぎてしまうと、後半に取りたくないマイナス得点を避けることができなくなってしまう」というジレンマをパパッとあげてくれました。ここでは、いかにゲームにおいて「ジレンマ」が大事な要素であるかということについて子どもたちに理解してもらったかなと思います。
また、思考実験として、「ハゲタカのえじきでバッティングがないとするとどうなるか?」ということを考えてもらい、「バッティング」することによって、次点の人が得点カードを獲得するというルールが「ジレンマ」を生み出していることを実感してもらいました。まさに、「ジレンマ」を生み出す、ルールを作ることがゲームデザインの核であることを意識づけしました。
こうして「ジレンマ」を紹介した上で、今回は子どもたちに「ジレンマ」を作ることにまずはチャレンジしてもらいました。具体的には、以下の文章をたくさん作ってもらうことをまずはやってみました。
これを、前回作ってもらったコンセプトに照らしながら考えていきました。
ちなみに、前回作ってもらったコンセプトを元に子どもたちを2つのグループに分けて以降は進めていきましたので、各グループがどんなコンセプトに落ち着いたかを再度紹介します。
グループ①
「僕たちが作ろうとしているゲームは小中学生向けのゲームです。小中学生でも特にお金を稼ぎたいと思う人たちに薦めます。そこでこのゲームでは人生でお金を稼ぐ体験ができます。」
グループ②
「これは自信がない人向けのゲームです。(自分に自信がない人は、もっと元気になりたいと思っています。)そこでこのゲームでは、みんなで協力して勝つという体験ができます。」
グループ②の方に、「お金を稼ぐ」というコンセプトの子どもがジョインしたので、若干上記のままではありませんが、さて子どもたちはどんなジレンマを考えたでしょうか?
3、ミニマムサイクル作り・プレイヤー目標の設定
さて、子どもたちがコンセプトに照らして考えた自分たちのゲームに実装したい「ジレンマ」を紹介します。まずは、グループ①からです。
ゲームのメカニクス(システム)として書かれている文言と、フレーバーとが混同して書かれてはいますが、なるほど具体的に現実にある「ジレンマ」をゲームに落とし込もうとしていることが窺えます。
この後、ミニマムサイクルへの落とし込み、プレイヤー目標の設定を行ったのですが、「ジレンマ」を念頭に置きながらルールの種が生まれていました。
実は苦労したのはもう1つのグループ②でした。というのも、グループ②が実現したいコンセプトには、「協力して」という要素が入っています。これまで本プロジェクトでは「協力」というメカニクスが含まれたゲームを取り扱ってきていなかったので、「協力」というメカニクスが含まれたゲームの中でどんな「ジレンマ」があるかイメージできなかったようでした。
そこで、まずは既存の協力ゲームの中でどんなジレンマがあり、それがどんなルールに起因しているかということを実際にプレイしながら考えてみる時間を設けました。
ずらっと並んだ協力ゲーム。実際にプレイしたのは「ザ・ゲーム」です。協力ゲームの多くは、「協力したい、けれど何らかのルールがあって協力できない」という仕組みになっています。例えば「ザ・ゲーム」であれば、「カードの数字をできるだけ飛ばさないように、カードを置いていきたい」けれど、「他の人に直接的な数字を言うことができない」というジレンマがあります。子どもたちに、協力する上でどんな「ジレンマ」が「ルール」として実装されているかを考えてもらいました。
その中から具体的なゲームに紐づいて以下のようなジレンマを発見しました。
最終的には、今回の制作上の制約(カードを36枚用いるゲームを作る)を踏まえて、「他の人と示し合わせてカードを出したい、けれど具体的なカードの内容を教えることはできない」というジレンマを孕みながら、一定の目標を達成するために協力する、というゲームの構造を用いることにたどり着いたようでした。
特にグループ②においてそうなのですが、単に「ジレンマ」があるだけでは、プレイヤーが選択できず途方に暮れてしまうことがあります。ジレンマの解決に向けたヒントをルール(メカニクス)上にどう落とし込むか(例えば、「ザ・ゲーム」では、数字は言うことはできない、程度を表す言葉で伝えることができる、など)が、今後の「ミニマムサイクル」「プレイヤー目標の設定」の具体化において重要になってくるように思います。
今回は、「ジレンマ」作りを並行させながら、「ミニマムサイクル作り」と「プレイヤー目標の設定」を行いました。「ジレンマ」は、ゲームをプレイするプレイヤーの立場にたち、その感情に思いを馳せなければ作ることはできません。この辺が「ゲームを作ること」の他の創作活動にない特徴かなと思います。自分が好きなように、したいように創るだけではなく、「プレイヤーにとって意味あるアクションを創る」ことこそ、ゲーム作りの醍醐味であり、際立った特徴です。子どもたちに、こういったあたりが伝わっていれば嬉しいです。
終わりに
次回はいよいよ前半戦の最終回です。今回のワークショップで、ふわっとしてはいるものの、子どもたちの作るゲームのパーツが揃ってきたように思います。あとは「ジレンマ」という核をいかに細かなルールで実現していくかという段階かなと思います。
次回は、子どもたちの素組みのゲームを、テストプレイという方法で洗練していき、完成まで持っていければと思います。どうぞ次回のレポートもお楽しみに!
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