時計の契約:第1章0時
あらすじ
第1章:始まり
0時:記念日の微笑み
「ハッピーバースデー、颯空!!」
今日は俺の誕生日で、じいちゃんの命日でもある5月5日だ。家族そろって毎年誕生日会と、じいちゃんを偲ぶ大切な日だ。リビングの隅には小さな木製の台の上に笑っているじいちゃんの写真が飾ってある。いつもここから見守ってくれている、この存在が家族の心をほんのりとあたたかくしているんだ。弟の時翔はまだ3歳だったからじいちゃんのことはあまり記憶にない。だから俺はよく時翔に、じいちゃんといっぱい遊んでもらった写真を見せては思い出を語っていた。
夕飯が終わると、母さんが毎年作る、白いクリームの上に鮮やかな赤い苺が散りばめられたケーキが出てくる。金色のキャンドルがケーキの回りを照らしている。このケーキが俺とじいちゃんの好物だった。華やかに並ぶ苺の甘い香りが漂っている。じいちゃんが生きている時も母さんは毎年、苺の生クリームケーキを作っていたらしい。
俺は手作りケーキを一人分切り分け、じいちゃんの写真の前に置く。天国のじいちゃんは見てくれているかな。15になった俺をみてほしかったよ。ケーキを見つめながら想いを胸に刻む。
あの日以来、俺は笑わなくなった。じいちゃんの穏やかで優しい笑顔が消えてから、家の中には沈黙が満ち、俺の心もその静けさに飲み込まれていった。だけど、この日だけはじいちゃんがそばにいるような気がして笑ってられる。じいちゃん子だった俺を家族は静かに見守っていてくれた。父さんも母さんもあの日のことは口にしない。俺も特別聞かないし、聞いても過去が変わるわけではないから。
ケーキを食べた後は、時翔の部屋で誕生日プレゼントに頼んでいたゲームをやった。クラシックのような音楽がとても心地いい美しいメロディーが流れている。魔法の国の学校で呪文を探していくゲームだ。小説からゲームになった。この小説を時翔が読んでいたのをきっかけに俺もはまって、ゲームになると聞いて予約して買ってもらった。爆発的な人気ゲームではないが、知る人ぞ知る少しマニアックなゲームだ。
時翔は2つ下で、勉強がよく出来る。それに比べ俺は、特に勉強ができるわけでもスポーツができるわけでもなくどこをとっても普通の中学生だ。時翔は小さいころから勉強ができるだけじゃなくて、優しくて気の利く自慢の弟だ。それを鼻にかけることもなく、ゲームでわからないことは俺に頼ってくれる。素直に兄さんすごいねってほめてくれる。本当に可愛い弟だ。
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