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小学校での担任の先生。彼女は今、元気にしているだろうか?【エッセイ】
僕は小学校1年生から4年生まで同じ先生が担任だった。
H先生と言うが、かなりベテランの女性の先生で、人によると校長よりも発言権があるとさえ聞いた。
H先生は厳しい人だった。
女性に言うには失礼だが、まず顔が怖かったのである。
美しい顔立ちをしていたが、眼光が鋭く口は真一文字に閉まっていた。
ヒョウが描かれた服を好んでおり、正面から怒られるときは目前にいるヒョウにも怯えた。
クラスメイトは皆、畏怖の存在として見なしており、彼女が部屋に入ってくると
引き締まった荘厳な空気になった。
そんな厳しい人だったが、愛情深い人でもあった。
贔屓などしなかったし、良いことをしたときは笑顔で褒めてくれた。
僕は彼女の笑顔を見たいがために、良い子になろうとしたし親切に人と接しようとした。(銀杏BOYZみたいやな)
保護者や他の先生にも尊敬され、子どもたちにも怖がられながらも親しまれている模範的で素晴らしい先生だったのである。
しかし、彼女について一つ忘れられない出来事がある。
小学4年の夏、学外行事で海に行ったときのことである。
僕の隣にはH先生が居て、生徒たちがはぐれていないか気を張り詰めている様子だった。
海に着いた途端、僕は普段見ることのない景色に心躍り、友人と大騒ぎした。
周りの同級生も同調し、ちょっとした騒ぎになった。
そのとき、H先生はいつも通り怒るでもなく、力無くこう呟いたのである。
「ガキね…。」
衝撃だった。
あのいつも正しいH先生が生徒に向かって、心無い言葉を掛けるとは思いもしなかったのである。
あの瞬間、僕はH先生は正しい人なのではなく、正しい人であろうとしているのだと悟った。
そうか、彼女は子どもたちに道を示すために強い人を演じているが、
その前に一人の人間なんだな。
少し寂しくもあったが、少し安心した。
あれから15年近く経った。
H先生は僕が中学生のときに、みんなに惜しまれながら退任していった。
歴代の生徒たちが集まるんだから、大した人格者である。
それからのことは僕は知らない。
今、彼女はどうしているのだろうか?元気にしているのだろうか?
彼女は今も正しい人なのだろうか?
そうあって欲しい僕と自分らしくあって欲しいと思う僕がいる。
ただ楽しく生きていて欲しいな。
(終)