多様な正社員(ジョブ型正社員・ジョブ型雇用・ジョブ型採用)議論開始
多様化する労働契約のルールに関する検討会
明日(2021年11月12日)、厚生労働省「多様化する労働契約のルールに関する検討会」(第9回)が開催される。
議題は「多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について」だが、資料が本日(11月11日)から厚生労働省のサイトに公開されている。
なお、多様な正社員(ジョブ型正社員)は、濱口桂一郎・労働政策研究研修機構所長(元厚生労働省官僚・岩波新書『ジョブ型雇用社会とは何か』著者)らが呼ぶ「ジョブ型雇用」で採用(経団連は「ジョブ型採用」とも呼ぶ)された、いわゆる「正社員」と非正規雇用社員の中間に位置する「職務限定社員」「地域限定正社員」「勤務時間限定正社員」のこと。
「おかしなジョブ型論ばかりが世間にははびこっている」と濱口桂一郎氏が著書『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)の中で懸念を示しているが、厚生労働省「多様化する労働契約のルールに関する検討会」(第9回)では「ジョブ型正社員(多様な正社員)」ルール明確化について議論された。
公開された資料1「多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について」には「各企業において正社員層をどのように仕分けて活用していくかは、企業の人事権そのものに関するものであり、法の介入は控えるべき」との使側(使用者側)弁護士意見が記載されているが、また参考資料3「多様な正社員の雇用ルール等に関する裁判例」を読むとジョブ型正社員・労使トラブルが多く発生していることも明らかにされている。
このように多くの訴訟にもなっているジョブ型正社員問題を「企業の人事権」だからといっても看過すべきではない。何らかの法規制、または労働契約法においてルール明確化すべき事柄だと思う。なお「使側(使用者側)弁護士」とは経団連が推薦した経営法曹会議・常任幹事の「峰隆之弁護士」(第4回「多様な正社員の雇用ルール等に関する裁判例」議事録より)。
第9回検討会資料(11月11日公開)
本日(2021年11月11日)、厚生労働省のサイトに公開された資料は次のとおり。
・第9回議事次第
・資料1 多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について
・参考資料1 無期転換ルールと多様な正社員の雇用ルール等に関する実態調査の概況(第5回検討会資料1)
・参考資料2 無期転換ルールと多様な正社員の雇用ルール等に関する現状(第1回検討会資料6)
・参考資料3 多様な正社員の雇用ルール等に関する裁判例
・参考資料4 ヒアリング結果まとめ(事例)(第6回検討会参考資料4)
資料1 多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について(PDFファイル)
参考資料1 無期転換ルールと多様な正社員の雇用ルール等に関する実態調査の概況(第5回検討会資料1)(PDFファイル)
参考資料2 無期転換ルールと多様な正社員の雇用ルール等に関する現状(第1回検討会資料6)(PDFファイル)
参考資料3 多様な正社員の雇用ルール等に関する裁判例(PDFファイル)
参考資料4 ヒアリング結果まとめ(事例)(第6回検討会参考資料4)(PDFファイル)
多様な正社員(ジョブ型正社員)論点
(1)論点
・「いわゆる正社員」と「非正規雇用の労働者」の働き方の二極化を緩和し、労働者一人ひとりのワーク・ライフ・バランスと、企業による優秀な人材の確保や定着の実現のため、職務、勤務地又は労働時間を限定した多様な正社員の普及を図ってきたが、労使双方に対する効果や課題をどう考えるか。また、労使双方にとって望ましい形で更なる普及・促進を図るためには、どのような対応が考えられるか。
・多様な正社員の限定の内容の明示に関し、「雇用管理上の留意事項」の策定や導入事例の周知などにより周知を行ってきたが、限定された労働条件が明示的に定められていない場合や、限定されていた労働条件が変更される場合もある中で、紛争の未然防止や予見可能性の向上のために、限定の内容の明示等の雇用ルールの明確化を図ることをどう考えるか。
・多様な正社員か否かにかかわらずいわゆる正社員であっても何らかの限定があると言える場合もありうるところ、いわゆる正社員についても念頭において検討することについてどう考えるか。
(2)検討会における委員からの主な意見等
・いわゆる正社員であっても、何らかの限定があると言える部分もありえる中で、無限定の働き方であることを前提に議論することやそれを肯定するような形で議論することはいいのだろうか。多様な正社員だけを念頭に置くのではなく、いわゆる正社員についても念頭において議論していくべきではないか。
・正社員や多様な正社員は、法制度で定められている概念ではないので、広めに色々視野に入れた上で検討することになるのではないか。
・多様な正社員の制度があるということと、制度が活用されている、運用されているということは、必ずしも一致していないことに留意が必要。
(3)検討会におけるヒアリング先からの主な意見等
・多様な正社員制度の導入によるプラスの影響としては、育児・病気を理由とした制度利用の例が多く多様な雇用形態の実現に資することができた点、非正規雇用であれば退職していたかもしれない人材が社員として会社に定着しているという点、生活に合わせたスタイルで正社員になるステップを導入することができた点等が挙げられた。(企業)
・中小企業では正社員の勤務地や勤務時間の限定という希望は実現できており、特に限定正社員を設定する必要性はうすいとの意見があった。(労働組合)
・ジョブ型人材マネジメントは、そのジョブだけの雇用というものではなく内部の人材活用の活性化や経験者採用等の観点で導入したマネジメントという意味合いである。(労働組合)
・多様な正社員制度については、肯定的な意見が多い一方で、雇用区分が異なる人がいると社内の団結が難しくなるという意見やどのような基準で社内での制度導入の検討をすればいいのかわからないという意見もあった。(企業が行った中小企業アンケート)
・地域限定ということの裏返しの問題として、そもそも全国転勤を可能にするありよう自体を見直す必要があるのではないか。(労働組合)
・多様な働き方の浸透とともに、「正社員」という概念自体が曖昧になりつつあり、「正社員」「非正規雇用」という枠組みから離れる必要があるとの意見があった。(企業が行った中小企業アンケート)
・各企業において正社員層をどのように仕分けて活用していくかは、企業の人事権そのものに関するものであり、法の介入は控えるべき。(使側弁護士)
・労使合意によって、長時間労働や使用者の配転命令権への歯止めがかかる働き方が「ジョブ型正社員」として模索されることに反対はしない。しかし、配偶者の遠隔地配転が実施されたり長時間労働が放置される限り、他方配偶者の離職を事実上強いられる(特に女性労働者が直面)問題は、「ジョブ型正社員」では解決ができない。(労側弁護士)(資料1「多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について」より)
「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告書
はじめに ~労働市場の現状と「多様な正社員」の普及の必要性~
我が国における働き方については、雇用が安定し、勤続に応じた職業能力開発の機会や相対的に高い賃金等の処遇が得られる一方で、職務や勤務地の変更が幅広く行われ、所定外労働を前提とした長時間労働がみられる「いわゆる正社員」と、職務の変更の幅が狭く、勤務地は同一で所定外労働を命じられることは少ない一方で、有期労働契約の反復更新の中で雇止めの不安を抱え、職業能力開発の機会が少なく、相対的に賃金が低く昇給の機会も少ない「非正規雇用の労働者」との二極化をめぐる指摘がなされるようになって久しい。
高度経済成長期以後、大企業を中心に、いわゆる正社員の長期雇用慣行を基軸として、経営環境の変化に対応した労働力や人件費の調整のために非正規雇用の労働者を配置することで、生産性の向上と柔軟性の確保を図る人事労務管理が定着してきた。
しかしながら、その後の経済成長率が趨勢的に低下する中で、いわゆる正社員については、長期雇用慣行を維持しつつ、新規採用の絞り込みや人事評価の厳格化等が進んできた。その一方で、非正規雇用の労働者については、その比率が90年代後半から2000年代前半にかけて増加し、以降現在まで緩やかに増加しており、こうした非正規雇用の労働者の中には、若者を中心として正社員の仕事がないために非正規雇用で働いている者もいる。
同時に、女性の社会進出や、それに伴う共働き世帯の増加等に伴い、仕事と生活の調和を求めるなど労働者の就業意識が多様化し、二極化した働き方の見直しが求められるようになっている。
また、今後、労働力人口が一層減少していく中で、我が国の社会経済が活力を維持するためには、女性や高齢者など、育児や介護あるいは体力的な事情のために希望する働き方に時間や地域的制約を伴うことの多い人々においても、その職業キャリアを継続、発展させる中で、能力を発揮できるようにすることが求められるようになっている。
企業の人事労務管理においても、いわゆる正社員と非正規雇用の労働者に二極化した雇用ポートフォリオを見直し、職務や勤務地の変更の幅を限定した無期契約労働者の区分を設けるとともに、異なる雇用管理区分への転換制度を設ける動きの広がりがみられるようになっている。また、改正後の労働契約法(平成19年法律第128号)に基づき通算5年超の有期契約労働者が無期に転換することにより、職務や勤務地等を限定した無期契約労働者の増加が見込まれる。
同時に、経済のグローバル化が進み企業の競争環境が厳しさを増すとともに、技術革新や消費者のニーズの変化が早くなり、不確実性が増大する経営環境の中で、 市場の求める付加価値を産み出すため、プロジェクトの遂行等に必要とされる専門的知識を持った労働者を中途採用するといった動きも見られるようになっている。
このような状況の中で、働き方の二極化を緩和し、労働者一人ひとりのワーク・ライフ・バランスと、企業による優秀な人材の確保や定着を同時に可能とするような、労使双方にとって望ましい多元的な働き方の実現が求められている。そして、そうした働き方や雇用の在り方の一つとして、職務、勤務地、労働時間を限定した「多様な正社員」の普及を図ることが重要となっている。
多様な正社員の効果的な活用が期待できるケース
(1)勤務地限定正社員
育児、介護等の事情により転勤が困難な者や地元に定着した就業を希望する者について、 就業機会の付与とその継続、能力の発揮を可能とする働き方として、有能な人材の採用や定着の促進に資すると考えられる。特に、人材の確保や定着に課題を抱える企業での活用も考えられる。
また、改正後の労働契約法によるいわゆる無期転換ルールによる転換後の受け皿としての活用が考えられ、特に小売業、サービス業等、非正規雇用の労働者が多く従事していると同時に労働力の安定的な確保が課題になっている分野の企業の人材確保に資すると考えられる。
コース別雇用管理において定型的な事務等を行い、勤務地も限定されている「一般職」が多く従事する分野で、職務の範囲が狭い一般職に、より幅広い職務や高度な職務を担わせ、意欲や能力の発揮につなげるために活用できる働き方である。金融業等、一般職が多い分野での職務の範囲が狭い一般職に替わる人材活用に資すると考えられる。
製造業等グローバル展開が進展している分野において、海外転勤が可能な者と海外転勤が困難な者とを区分し、確保するための活用が考えられる。
競争力の維持のために安定した雇用の下での技能の蓄積、継承が必要な生産現場において、非正規雇用の労働者の転換の受け皿として活用が考えられる。
地域のニーズにあったサービスの提供や顧客の確保が可能となりえる。多店舗展開するサービス業での活用が考えられる。(略)
(2)職務限定正社員
例えば金融業の投資部門において資金調達業務やM&Aアドバイザリー業務などに従事する専門職や証券アナリスト、情報サービス業でビッグデータの分析活用に関する技術開発を行うデータサイエンティスト等、特に高度な専門性を必要とし、新規学卒者を採用して企業で育成するのではなく、外部労働市場からその能力を期待して採用し、職務の内容がジョブ・ディスクリプション等で明確化され、必ずしも長期雇用を前提としておらず、企業横断的にキャリア・アップを行うなど、我が国の典型的な正社員とは異なるプロフェッショナルとして活用されているが、産業構造の高度化が進む中で一層重要性を増していくものと考えられる。
また、医療福祉業、運輸業などで資格が必要とされる職務、同一の企業内で他の職務と明確に区分することができる職務などで活用されているが、高齢化やサービス経済化の進展に伴って一層重要性を増していくものと考えられる。その他、ゼネラリストではなく特定の職務のスペシャリストとしてキャリア・アップさせることも考えられる。
また、一般に職務が限定されている非正規雇用の労働者が、継続的なキャリア形成によって特定の専門的な職業能力を習得し、それを活用して自らの雇用の安定を実現することを可能とする働き方としても考えられる。
他方、工場における技能労働者、店舗における販売員、一般職等については、総合職と比して職務の範囲が狭いが、教育訓練等によって他の職務に転換させることも可能であり、また、必ずしも職務が限定されているとは言えない場合もみられる。
また、大企業のホワイトカラー労働者についても、人事、経理等の特定の職能の職務に従事する場合が多いが、キャリア形成や事業の必要性のために、他の職能を経験させるなど柔軟な人事配置が行われ、必ずしも職務が特定されているとは言えない場合もみられる。
職務限定については、当面の職務を限定する場合と、将来にわたって職務を限定する場合とがある。欧米において、例えばアメリカでは、職務記述書に職務の内容を詳細に記述することが広く行われているが、 近年は、人事管理の柔軟性の確保のため、職務の幅や階層の大括り化(ブロードバンディング)の動きもみられ、大括り化された職務や階層の範囲内での異動が可能となっている。こうした動向にもかんがみれば、高度な専門性を伴わない職務に限定する場合には、職務の範囲に一定の幅を持たせた方が円滑な事業運営やキャリア形成への影響が少ない点にも留意が必要と考えられる 。
(3)勤務時間限定正社員
育児、介護等の事情により長時間労働が困難な者に就職、就業の継続、能力の発揮を可能とする働き方として、有能な人材の採用や定着の促進に資すると考えられる。特に、人材の採用や定着に課題を抱える企業での活用も考えられる。
育児、介護等の他、キャリア・アップに必要な能力を習得するために勤務時間を短縮することが必要な者が活用することが考えられる。
現状において勤務時間限定正社員は活用例が比較的少ないが、勤務時間限定正社員となる労働者に対するキャリア形成の支援、職場内の適切な業務配分、職場の人員体制の整備、長時間労働を前提としない職場づくり等の取組が行われることが必要である。(資料1「多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について」より)
多様な正社員の雇用ルール等に関する裁判例
多様な正社員の雇用ルール等に関する裁判例については、資料「参考資料3 多様な正社員の雇用ルール等に関する裁判例」を抜粋して転載した記事[「多様な正社員(ジョブ型雇用)裁判例」を投稿。
追記:第10回 多様化する労働契約のルールに関する検討会
厚生労働省の第10回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」が明日(2021年12月22日)開催されるが、資料が本日(12月21日)厚生労働省サイトに公表された。
なお、前回(第9回)に引き続き、今回(第10回)も議題は「多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について」となっているが、多様な正社員とは(いわゆる)ジョブ型雇用とも呼ばれる職務限定正社員や地域限定正社員など、限定正社員制度のこと。
第10回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」
日時:2021年12月22日(水)15:00~17:00
場所:労働基準局第1会議室(東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎第5号館16階)
議題:多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について
資料
第10回議事次第(PDF)
資料1 多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について(PDF)
参考資料1 無期転換ルールと多様な正社員の雇用ルール等に関する実態調査の概況(第9回検討会資料1)(PDF)
参考資料2 多様な正社員の雇用ルール等に関する裁判例(PDF)
参考資料3 多様な正社員の雇用ルール等に関する現在の法制度等(PDF)
資料1 多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について
目次
1 論点一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 02
2 本日ご議論いただきたい論点
(1)総論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 05
(2)雇用ルールの明確化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
(3)その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68
3 その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 75
資料1 多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について(PDF)
追記:第9回 多様化する労働契約のルールに関する検討会議事録
「ジョブ型雇用」とも呼ばれる職務など限定正社員制度ルール明確化等を議論する厚生労働省検討会(正式名称:多様化する労働契約のルールに関する検討会)の第9回検討会(2021年11月12日開催)の議事録が昨日(12月21日)厚生労働省サイトに公開された。
○山川座長
もし多様な正社員等についての明確化を図る場合に、実際にはいろいろな問題が発生し得る。特に、フレキシブルな取扱いが必要になる場合について、どう対応すべきかという点。解雇はまた別かもしれませんけれども、その辺りの様々な留意点ないし工夫の御議論になる。そうすると、今お話のように、裁判例がどうなっているかというのは、具体的な事例を示す上で重要かなと思います。
○桑村委員
多様な正社員と解雇の問題なのですけれども、今、出ている裁判例の紹介とは別に、さらに変更解約告知についても取り上げる必要があるのではないかという気がしています。変更解約告知については、労働法上議論されていて、使用者が労働条件変更の提案をして、それを拒否した場合に解雇するという意思表示です。労働契約の内容が特定されていないことが多かった日本では、あまり使われてこなかったのですが、特に個別契約で労働契約の内容が特定されている労働者が増えていくと、労働条件の変更の手段として変更解約告知の利用も増えてくるのではないかと思います。
変更解約告知については、まず争い方として、雇用を維持しながら労働条件変更の効力を争うことができるのかという、いわゆる留保つき承諾の可否の問題があります。これは立法的な手当てがないと、現行法上はなかなか難しいところがありますので、その論点を取り上げて、この検討会として派生問題として議論していって、立法的な手当てや提言というのもあり得るのではないかなと。
変更解約告知による解雇の効力をどの程度厳格に判断するのかについても、裁判例が分かれていますので、スカンジナビア航空事件とか大阪労働衛生センター事件とか、その裁判例も紹介した上で、解雇になった場合にどのようなルールが適用されるのかを、広く労使双方に周知していく必要があるのではないかと考えています。
○山川座長
確かに個別契約の変更が重要になってくるということでもありますので、裁判例にスカンジナビア航空と、それと対立する立場の裁判例もありますので、追加していただければと思います。ただ、変更解約告知の立法的な手当てをこの検討会でやるかというと、ちょっと時間的に大変かなと。たしかドイツでは、特別な手続があったと思いますので、そこまでここでやれるかどうかというのはあるかと思いますが、少なくともこういう問題が重要になるということは検討の素材に乗せたいと思いますので、また資料を用意していただけるでしょうか。
*労働政策研究・研修機構のサイト記事によると、変更解約通知とは「新たな労働条件での労働契約再締結の申し入れを伴った解雇」のこと。 また「労働条件変更の申し入れに応じない労働者の解雇をこれに含めることもある」とのこと。そして「変更解約告知は、労働条件変更を目的として行われる解雇であり、個別的な労働条件変更のための新たな手法として注目されつつある」とのこと。
追記:多様化する労働契約のルールに関する検討会 報告書
無期転換ルールに関する見直しや多様な正社員の労働契約関係の明確化等について、厚生労働省の「多様化する労働契約のルールに関する検討会」において検討が行われたが、2022年3月30日、「多様化する労働契約のルールに関する検討会」報告書を厚生労働省が公表。
追記:多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書 概要
1.無期転換ルールに関する見直し
(1)総論
• 制度活用状況を踏まえると、無期転換ルール(*)の導入目的である有期契約労働者の雇用安定に一定の効果が見られる。
*無期転換ルール:労働契約法(以下「法」という。)に基づき、有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約に転換できるルール
• また、通算年数などによる更新上限の導入は、無期転換ルール導入前と比べて大きく増加していない。他方、制度の十分な活用
への課題や、望ましくない雇止め、権利行使を抑止する事例等も見られる。
• 現時点で無期転換ルールを根幹から見直さなければならない問題が生じている状況ではないが、各企業における有期労働契約や無期転換制度について、労使双方が情報を共有し、企業の実情に応じて適切に活用できるようにしていくことが適当。
• なお、今後、制度の更なる活用に伴い、引き続き状況を注視し、必要に応じて改めて検討する機会が設けられることが適当。
(2)無期転換を希望する労働者の転換申込機会の確保
• 労使とも無期転換ルールの認知度に課題があり、更なる周知が必要。
• 労働者が無期転換ルールを理解した上で申込みを判断できるよう、無期転換申込権が発生する契約更新時に、労働基準法の労働条件明示事項として、転換申込機会と無期転換後の労働条件について、使用者から個々の労働者に通知することを義務づけることが適当。
(3)無期転換前の雇止め等
• 無期転換前の雇止め等について、法や裁判例等に基づく考え方を事例に応じて整理し、周知するとともに、個別紛争解決制度による助言・指導で活用していくことが適当。
• 紛争の未然防止や解決促進のため、①更新上限の有無及びその内容の明示の義務づけ②並びに最初の契約締結より後に更新上限を新たに設ける場合には労働者の求めに応じた上限設定の理由説明の義務づけを措置することが適当。
• 無期転換申込みを行ったこと等を理由とする不利益取扱い(解雇、雇止め、労働条件の引下げ等)はその内容に応じて司法で救済され
うるものであり、現行法等の周知徹底が適当。また、権利行使の妨害抑止につながるような方策を検討することが適当。
(4)通算契約期間及びクーリング期間
• 通算契約期間及びクーリング期間(通算契約期間をリセットする規定)について、制度が実質的に適用されてから長くなく、特に変えるべき強い事情もないことから、制度の安定性も勘案し、現時点で枠組みを見直す必要は生じていないと考えられる。法の趣旨に照ら
して望ましいとは言えない事例等の更なる周知が適当。
(5)無期転換後の労働条件
• 無期転換後の労働条件について、有期契約時と異なる定めを行う場合の法令や裁判例等に基づく考え方を整理し、周知することが適当。また、正社員登用やキャリアコースの検討など企業内での無期転換後の労働条件の見直しの参考になる情報提供を行うことが適当。
• 無期転換者と他の無期契約労働者との待遇の均衡について、法3条2項を踏まえて均衡考慮が求められる旨の周知や、法4条を踏まえて使用者に無期転換後の労働条件について考慮した事項の労働者への説明を促す措置を講じることが適当。
• 無期転換後も、パート・有期労働法に基づき短時間・有期契約労働者等の処遇の見直しが行われる際には、フルタイムの無期転換者についても、併せて法3条2項も踏まえて見直しを検討することが望ましい旨を周知していくことが考えられる。
(6)有期雇用特別措置法に基づく無期転換ルールの特例
• 特例が知られていない現状があるため、更なる周知を行うことが適当。
2.多様な正社員の労働契約関係の明確化等
(1)総論
• 職務、勤務地又は労働時間を限定した多様な正社員については、
いわゆる正社員と非正規雇用の労働者の働き方の二極化緩和
労働者のワーク・ライフ・バランス確保や自律的なキャリア形成
優秀な人材の確保や企業への定着
の観点から、労使双方にとって望ましい形での普及・促進が必要。
• また、労働契約が多様化する中、従来からの統一的・集団的な労働条件決定の仕組みの下では勤務地限定等の個別的な労働契約内容が曖昧になりやすいことに起因する労使紛争の未然防止や、労使双方の予見可能性の向上に加え、労使間の情報の質・量の格差是正や契約に係る透明性の確保を図ることが必要。
• こうした観点から、労使自治や契約自由の原則の大前提として、法令上の措置も含め、労働契約関係の明確化を検討することが適当。
• なお、労働契約関係の明確化は、多様な正社員のみならず、全労働者に対して有益であるため、労働者全般を対象に検討することが適当。
(2)労働契約関係の明確化
<労働契約締結時の労働条件の確認>
• 現行法上、労働基準法15条の労働条件明示(以下「15条明示」という。)では、雇入れ直後の就業の場所及び従事すべき業務を明示することとされており、勤務場所や業務内容の変更範囲までは求められていないが、予見可能性の向上等の観点から、多様な正社員に限らず労働者全般について、15条明示の対象に就業場所・業務の変更の範囲を追加することが適当。
<労働条件が変更された際の労働条件の確認>
• 15条明示は、契約締結に際し行われるものであり、労働条件が変更された際にまでは義務付けられていないが、
個別合意による変更の場合に書面明示が保障されていないほか、
仮に15条明示の対象に就業場所・業務の変更範囲を追加する場合に変更後の労働条件を明示しなければ当該変更前の労働条件が存続しているものと誤解したままとなるリスクがあること
から、労働条件の変更時も15条明示の対象とすることが適当。
• 具体的には、変更後の労働条件の書面確認の必要性に鑑み、多様な正社員に限らず労働者全般について、労働契約締結時に書面で明示することとされている労働条件が変更されたとき(①就業規則の変更等により労働条件が変更された場合及②元々規定されている変更の範囲内で業務命令等により変更された場合を除く。)は、変更の内容を書面で明示する義務を課す措置が考えられる。
• 本措置に併せて、就業規則について労働者が必要なときに容易に確認できるような方策や中小企業への支援の検討が必要。
• なお、就業場所・業務に限って本措置の対象とすべきとの意見、就業規則の新設・変更による場合も明示の対象とすべきとの意見、本措置に関する電子的な方法の明示も検討すべきとの意見もあった。
<労働契約関係の明確化を図る場合の留意点>
• 労働契約関係の明確化を図る場合に留意すべき点として、労働条件の変更や、多様な正社員の勤務地等の変更、事業所廃止等を行う場合の考え方について、裁判例等を整理して周知することが適当。
3.労使コミュニケーション等
• 無期転換制度等を定める際に、無期転換者・有期契約労働者の意見が反映されるよう、労使コミュニケーションを促すことが適当。
• 多様な正社員の働き方を選びやすくするためにも、いわゆる正社員自体の働き方の見直しを含め、労使コミュニケーションを促すことが適当。
• また、無期転換や多様な正社員に係る制度等については、労働者全体に関わるものであるほか、雇用形態間の待遇の納得感が得られるようにするため、個々の労働者の意見を吸い上げるとともに、労働者全体の意見を調整することも必要。その上で、過半数代表者に関する制度的担保や新たな従業員代表制の整備を含め、多様な労働者全体の意見を反映した労使コミュニケーションの促進を図る方策も中長期的な課題。(『「多様化する労働契約のルールに関する検討会」報告書について』抜粋)
「多様化する労働契約のルールに関する検討会」報告書(PDFファイル)
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*ここまで読んでくださり感謝。(佐伯博正)